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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
108/254

桐壷邸へ

「じゃあ瑠璃、出掛ける前に最後の確認だが、向こうに行って、人前で俺とお前は?」

「…………仲良し止めるの……」

「赤の他人な。いい?」

「ゃ……」


 桐壷の迎えが集合地である学校へと来る前に相川が瑠璃に確認を取ると瑠璃は微かな抵抗を示す。瑠璃の設定は相川が友人を誘ったところ、その友人が勝手に瑠璃への贈り物として今回の招待を譲ったことにしてある。相川は瑠璃の微かな抵抗を聞かなかったことにして続けた。


「自分が知らないことの誘いは?」

「断るの!」

「うん。良い子。」

「えへ~」


 その他数点の確認事項については問題なく終わった。瑠璃は密かに向こうについても誰にもばれなければ甘えていいと許可を取っているので我慢すれば一緒に楽しめると勇んで参加をしている。

 そんな折に桐壷兄妹を乗せた黒塗りの高級車がやって来た。


「おぉ~……凄いね! 防弾ガラスに対地雷。制動距離も優れてるし、タイヤも……」

「……その辺に着眼する辺りがやっぱりなぁ……って感じ。」


 瑠璃の感想は置いておき、助手席から人が降りて来て後部座席のドアを開き、相川と瑠璃をエスコートしてくれる。中には桐壷兄妹が居て表面上は洋菓子を食べながら和やかにしていた。


「あら、御機嫌よう。相川さん。」

「こんにちは。真愛。それと、真愛のお兄さん。」


 瞬間、瑠璃は相川の友人が男ではなく女であることを認識し、その戦闘力を測った。


(むっ……おっぱいが、おっきい……)


 顔は瑠璃やクロエが勝っている。しかし、桐壷もかなり整った顔立ちをしており油断できる暇はないかもしれない。普通に戦ったら1秒で殺せるが、今はそんなもの関係なかった。


 それに対して桐壷兄妹も瑠璃を見て驚きのあまり口が動かず、車内は一時静寂に包まれた。


「……あ、あぁ……相川くんだっけ、真愛がお世話になってるようで……和臣だ。気楽に、呼んでくれ。そちらの御令嬢は……?」

「ボクは遊神 瑠璃です。……ねぇ、幼馴染って言ったら駄目?」

「……再三確認しただろうがぁ……! もう聞こえちまってるだろテメェ……!」

「痛い! 痛い!」


 アイアンクローをくらった瑠璃だが、瑠璃としては桐壷妹への牽制の方が重要だったので良いことにする。案の定、桐壷妹を見ると瑠璃のことを品定めする眼で見て来たので言っておいて正解だったと思いながら瑠璃は解放された。


「じゃ、じゃあ車を出してくれ。」

「はい。」


 前の座席に通じる場所を開けて和臣がそう命じると車は動き始める。車内にある相川たちの自宅にあるソファ並に柔らかなシートに腰かけると瑠璃が相川と同じ場所に入った。


「……随分と仲がいいんですね?」

「そうですよ? もう生まれて来てから半分以上一緒に居るのです!」

「へぇ……相川くん、ちょっとよろしいですか?」


 桐壷妹、真愛に招集をかけられて相川は席を立ち真愛の方へと向かう。瑠璃は鋭い目を一瞬放ったが誰にも気付かれずに和臣と表面上の会話だけ始めた。その間に相川と真愛が密談をする。


「あの子にも破廉恥なことをしてるの?」

「何だその濡れ衣は……してない……いや、少なくとも俺からはしてない。」


 1週間ほど前の瑠璃の風呂場乱入事件を思い出して相川は言い直した。というより相川は今更ながら訂正を求める。


「あの子にもって何だ。」

「わ、私の胸を触ったではないですか!」


 瑠璃がぴくりと反応する。小声での会話だが瑠璃は聞き耳を立てているらしい。和臣との会話の最中に一瞬だけ自らの膨らみかけの胸を見て視線を戻して別荘に着いてからやることを決めた。


「……検査しろって言ったのはそっちで……」

「……成程、そう言う手口で婦女子を籠絡していくんですね……」

「籠絡したことなんかないんだが……大体、俺は嫌われることは得意だが好かれることはまずないぞ?」

「……?」


 相川は本心からそう言っているようで、真愛には嘘を言っているようには見えなかった。真愛は少し顔を振り返って瑠璃の方を見る。瑠璃はどこか悲しそうな顔をして立て直すのに少々時間がかかっていた。


「……成程。なら、私が盗っても問題ないですか……」

「あるよ! あ、ううん。こっちの話……えへへ……」


 瑠璃が至近距離の相川ですら辛うじて聞き取れるかとれないかのレベルの声量で呟いた真愛の発言を聞き逃せないと立ち上がって文句を言うが、和臣との会話の流れを切ることになって慌てて取り繕う。その間に真愛は相川に確認を取った。


「嫌われてると言う割には、あそこにいらっしゃる遊神さんと仲がいいようですが?」

「ん? いや、ないな。この前まで絶交宣言されてたし。俺のことなんざ便利な人くらいの認識だろ。邪魔になったから退かしてみたけど、退かしたらそれはそれで結構面倒なことがたくさんあって絶交止めたらしいけど。」

「違うもん……」


 強烈な不安が瑠璃の胸中を過り、泣きそうになるが頑張って堪える。強力な敵が目の前にいるのに弱みを見せてはいけない。瑠璃は努めて明るく振る舞った。それを見た真愛は相川が言っていることを聞こえないふりしていると解釈した。


「よくわかりました。」

「うん。ならいい。……後君のお兄さんの批評だが……」

「別荘に着いてからのお楽しみにしておきますわ。」


 密談は終了とばかりに場に戻る2人。行き先について瑠璃に喋っていた和臣は戻って来たならと相川にも挨拶をする。


「さっきは変なことになってしまって申し訳ない。妹から聞いてるかもしれないが僕は桐壷 和臣。双子だがあまり似てないだろう? まぁ妹の友達と言うことで僕とも友達になって欲しいね。」

「友達……?」

「え? 違うの?」

「……まぁクラスメイト(・・・)だからいいか……まぁ友達ですね。」


 相川的にそこまで親しくなった記憶はないのだが、クラスにいる間くらいは協調性を保つと言うことで友達と言うことにしておいた。最後の前文の台詞は瑠璃にしか聞き取れずに冗談として処理され、移行和やかな話が進む。


「そうだ、このテーブルにある物は自由にして貰って構わないよ。飲み物やケーキなどはまだ冷蔵してあるから何か欲しい物があるならあれから取り出すと良い。」

「遠慮することはないですよ?」


 桐壷兄妹の台詞に瑠璃は相川の顔色を窺う。相川が好きにしろと言われてるんだから好きにしたらと告げると待てを解除された子犬のようにはしゃいで様々な物を取り始めた。それを見て真愛が笑う。


「元気ですのね。」

「可愛らしいじゃないか。」

「む……」


 何となくバカにされた気がした瑠璃。相川は我関せずと奇妙な形をした魔法瓶からダージリンティーをカップに注ぎ入れて飲み始める。それを見咎めた真愛は相川にそれは何かと尋ねた。


「……いや、魔法瓶ですけど。紅茶入りの……」

「へぇ……珍しい形をしているんですね?」

「お茶専用なので。」

「よかったら少し借りてもいいかな?」

「……どうぞ?」


 毒入りは今回持って来ていないので自由にさせて紅茶もあげる。すると少し驚いたようだ。


「ふむ……香りが高いから味が少し薄いかと思ってたんだけど……いいね。家から入れてきただろうに温度といい、味といい、損なわれてない。まぁ僕が飲むには少々砂糖が欲しい所だけど。」

「それはどうも。茶葉から作った甲斐があったって感じかな? それともウチで開発したこの容器のお蔭かねぇ?」

「へぇ……あなたが作ったんですか。これ、お幾らですの?」

「……茶葉は……まぁ、別に売ってる訳じゃないねぇ……一応霊草になってるから高いと思うけど……容器も何と言うか、オーダーメイドなんで決まってないかな。それは俺用で只で作らせたけど……」


 何だか商談が始まっているのを見て瑠璃は自分だけが酷く子どもっぽく感じられ、疎外感を味わいそれを誤魔化すかのように殊更相川に甘えるのだった。




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