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強者目指して一直線  作者: 枯木人
小学校高学年編
106/254

休日

「ふむ……昨日の占部さん家の過保護な母親の形成する母子カプセルを破壊したことと歳だけ取った子どもの両親を持つ豊川くんに専業主婦で社会的認識を子どもの学力で得ようとしていた母親を持っていた成瀬さんの家でコンプリートだな。」

「……師匠、協調性って……何ですか?」


 1週間後、土曜日と言うことでお休みの相川はリビングのソファでぐでんと横になっていた。そんな相川にクロエは質問を投げかけるが相川は答えない。代わりに瑠璃がやって来て相川が横になっているその前に座った。


「何のお話してるのー?」

「いや、近ごろの学校の話。瑠璃はモテモテで大変そうだねぇ?」

「んー? そっかなぁ?」


 近頃の瑠璃さんもBクラスでモテモテで、周囲をランニングしては周辺の小学生たちを魅了し、場合によっては中学生も魅了しては告白されている。そんな瑠璃に相川は視線を向けて尋ねた。


「告白されるとどんな気分?」

「んー……ごめんなさいって感じかなぁ……ボクが告白されたい相手はもう決まりきってるし……」


 クロエの視線に制されながらこれ位は良いでしょと視線を返して答えた瑠璃。相川は奏楽以外眼中にないんだなぁと思いつつ何気なく奏楽へ忠告の為にも瑠璃に訊いてみた。


「瑠璃は告白されたい相手は決まってるのか。」

「うん。」

「どんな人? いや、どんな人がタイプなんだ?」


 相川の質問に瑠璃は待ってましたとばかりに目を輝かせて熱に浮かされたように語る。


「まずねー、格好いいの。そして強くて、イジワルなことするけど本当は優しくてね、ボクが困ってたらすぐに助けてくれるんだ。しかもお医者さんよりも人の怪我も治せるし、お料理だってすっごく上手なんだよ? その上、何だかよく分かんない難しいお仕事も出来て、頭も良くて、いい匂いがするの。それに一緒にいて楽しいし「……もう、いいかなぁ?」えーまだいっぱいあるんだよ?」

「……うん。理想が高いのはいいことだが……そんな奴いない。」


 クロエは鏡見てきたらどうですか? と言いたくなったが、そんなこと言ったら自分が不利になるのは分かり切っていることなので言わない。相川は少し考えてから瑠璃の考えを少し改めるように告げる。


「そうだな……普通、そんなたくさんは出来ないだろうが……お金があったらそれら全てのサービスを受けられるんだぞ? 顔と性格と頭がいい金持ちにしておいたら?」

「んー? うん。それもあるかなー……まぁそこはそんなに大事じゃないけど……サバイバル出来る方が大事だから。」

「……無茶苦茶だな……」


 奏楽の先行きは大変そうだと相川は他人事のように呟くが、クロエは新たに付与された金持ち及びサバイバルにも適応できるというその条件をすべてクリアしている人物を知っており、そやつは現在目の前で横になっている。

 確かに、奏楽のように絶世の美男子というわけではないが相川も顔立ちは悪くない。瑠璃は盲目的に、追随できる相手なんかいないくらい格好いいと言っているが、そこまでないにしろ普通に中の上くらいはあるのだ。


 しかし、周囲を美男美女で囲まれている相川は自分のことを格好いいとは決して、絶対に、夢想だにしていないので最初の条件の時点で自分のことを外しており、適当に流して近況についての話になる。


「で、瑠璃は学校とかどうなの?」

「むー……何で分かんないのかなぁ……? 学校? 別に何にもないよ? でもずっとじーっとするのって体鈍りそうだよね。最近ずっと空気椅子してるよ。」

「……まぁ俺もそうだけど……アレやるの俺だけじゃないんだ……」

「えっ……」


 クロエはやってなかったので驚いて声を上げ、次から頑張ろうと決めた。それは兎も角として理想のタイプなどどう考えても分かるはずだと思いながら、本当に異性として見てないんだなぁとむくれた瑠璃も相川の隣に横になり、くっついた。

 横になっている状態で目があった相川はどんどん可愛くなってるなぁと思いながら口ではあまり関係のない事実を告げた。


「瑠璃……暑い……」

「じゃあ冷房つけよ?」

「そう言う季節じゃないしなぁ……」

「瑠璃、休戦協定忘れたの?」


 ソファの後ろに立っていたクロエから冷房要らずの冷ややかな視線で見られるも瑠璃は気にしない。相川は冷房の温度くらいでも休戦協定がなければこいつらは喧嘩するのかと呆れた。しかし、休戦協定の実際は相川を巡る協定だ。

 詳しく言うならばクラスに対して協調性という名の名目で男女問わずに崇拝を集めている相川が新しい女子を連れ込もうとしているのに対抗するために結ばれた休戦だった。このまま行けば共倒れになる可能性があるとして二人は週の中頃に結んだのだが、瑠璃とクロエの考えるスキンシップに差があるのであまり上手く行っていない。


「だってぇ……仁くんいい匂いだもん……」

「……だからと言って所構わず抱き着いていいものではないです。」

「学校では我慢してるし! 会っても目も合わせてくれないんだから!」


 週の初めは帰って来てそれで大泣きされたこともあった。そんなことも思い出しながら相川は至近距離の瑠璃を見て頭の中でこいつなら本当に理想の相手を見つけかねないと先程のタイプの話に戻って奏楽について尋ねる。


「そう言えば奏楽はあれか? あいつは今日もデートか?」

「そうみたい。」

「デートというより、ちやほやされに行ってるみたいだけど……」

「瑠璃が居るのにねぇ……」


 奏楽は最近持て囃されて調子に乗っているらしい。しかも富裕層の令嬢たちばかりなので珍しい物や何気なく奏楽が欲しがったものをどんどんくれるのだ。その為、最近は放課後も帰って来るのが微妙に遅くなりつつあった。

 そんなことはさておき、瑠璃は相川の最後の呟きを勝手に解釈して瑠璃が居れば他の女なんて要らないと改竄し、悶えて喜び、クロエはまだこの人勘違いしてるのか……鈍感というレベルじゃないよな……と呆れていた。


「……そろそろ瑠璃退かないと抱き締めるよ?」

「えっ? いいよー?」

「むっ……」


 思いがけない相川の言葉に寧ろご褒美ですが? という返事をする瑠璃。クロエは相川の予想外の行動に思わず声を発して割り込めばよかったと後悔する。そんな両者のことはさておき、相川は瑠璃を呼吸が出来ない位強烈に抱き締めた。


「んっ……」

「退きたくなった?」

「全然……ぇへっ……」


 降伏勧告をしたのだが、瑠璃は笑顔でそれを聞き流してお返しとばかりに抱き着いて来る。こちらも強烈な締めで、内功が鍛えられていない者であれば即座に嘔吐し、場合によっては背骨がイカレること間違いなしだ。


「ぅぐ……仕返しだ……!」

「んみゅっ! それは流石にキツいよぉ~もっと優しくして~」


 背骨を折らんばかりの力で瑠璃を抱き締めた相川は愉しそうな瑠璃を見ながら少し考えた。


(……何でこいつこんなに柔らかいの? いや、ここまで締めてようやく芯と思わしき硬い感触が感じられたが……何なのだろうか?)


 傍から見ればいちゃつくカップルだが、どちらかが常人の場合は殺人現場と化すこの場面は思考する状態に入った相川が力を抜いたことで収まるが、この場はそのままで隣り合って横になる。


「んふー……抱き締めてもらっちゃった♪」

「……絞め殺されかけてたんじゃないですか? いや、まぁあなた方にとっては普通、なのですかね……?」


 自分だったら多分呼吸困難になっていると思いつつクロエは嬉しそうな瑠璃に冷静に突っ込みを入れておき葛藤の後、来たるべき抱き締めの時にも耐えられるようにとトレーニング室へと去った。




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