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強者目指して一直線  作者: 枯木人
幼児期編
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HELLO WORLD

「つっ……あぁ……」


 気付けば、彼を取り囲む辺りの雰囲気は一変していた。彼の戦いにより廃墟と化した街並みは消え、この場には草原が広がり、終末を告げるかのように雷鳴が轟くいていた天気も単なる重々しい曇り空になっていた。


 だが、その中に変わらない物もある。大量の血の香りだ。彼の嗅覚はそれを敏感に感じ取る。


「血の香が……あっちか。って、ん?」


 彼は体を動かそうとして困った。体が非常に重いのはまだ戦闘直後と言うことで納得できる。だが、問題は―――


「魔術が、使えない……?」


 それで彼は気を失う寸前の光景を思い出す。そこに浮かび上がるのは世界の敵と排除しようとしてきた端正な男性の、憎悪に彩られた表情だった。ほかならぬ自らの手によって生死の狭間にまで追い詰めたその男性の嘲笑と共に語りかけてきた言葉を思い出して彼は頷く。


「……あぁ、あの屑野郎……俺を別世界に飛ばすとか何とか言ってたな……つまり……ここは、魔術がない世界なんかね? そんなのがあるのか……変な世界だ……つーか、体、重い……」


 無理矢理体を起こすと地面が近くなっている。だが、それよりも今の彼には優先すべきことがあった。


「……知らない奴に、恩を売って……状況を把握できるまでの間、この世界での住居を確保せねば……よし、空間からの魔術は使えなくても備蓄エネルギーは行けるな……」


 いつまで使えるのかは分からないが、少なくとも今は飛べるようだ。彼は急いで何かしら問題のあるであろう場所、血の香の発生源の方へと飛んで行った。




 死屍累々の中、生きている者たちを探して進んで行くと戦闘音が響いている場所に辿り着いた。


「いたいた。……デカい方が負け気味だな。つーか、殺されかけてる。」


 血の香の発生源は極限まで引き締められた大柄ながら細見に見える男と、巨大な力を振るっている大男だった。そんな両者の戦いを見て彼の頭には疑問が浮かぶ。


「実力は……まぁ、同じくらい? でも……大男は急所を狙わないみたいだね。だから負けてるんだろ。馬鹿なのかな?」


 大男が急所を知らないと言うわけではないだろう。急所を全て避けて攻撃しているのだから。ただ、その所為で傷だらけになり、相手が同じように傷だらけでも長期的な動きに差が生まれる。


「っと。もう少しギリギリまで見た方が恩を高く売れるんだが……こっちの燃料がどこまで持つのかも心配だし。そろそろ入るかな?」


 彼はそう言って急降下し、勝負の間へ入って行く―――











「フン……長い、因縁も……ここまでだな……」

「ぬぐ……ぬかったわ……」

「パパぁ!」


 お父さんが、【挫征護王ざせいごおう】に殺されちゃう! 無駄のない動きで放たれたその鶴首刀を前にしてボクは思わず飛び出した。それは、最悪の一手だった。目の前には【挫征護王】の息子が……


 お父さんがそれを見てボクのことを庇いに……


「いかん!」

「【氣征天原きせいてんげん】、よそ見とは余裕だな!」


 お父さんにも、私にも致命的な隙を生じさせてしまった最悪の行動。ボクは何とか攻撃を避けることが出来たが、お父さんには【挫征護王】の攻撃が。


 既に、限界を迎えているのにもかかわらず、ボクの目に辛うじて映るくらいのスピードであるそれ。避けられない。ボクには声を上げることしかできない。


「だめぇっ!」

「よっしゃ! 承った!」

「え? 誰?」


 突如として知らない人の声がして全く見覚えのない子がこの場に割り込み、【挫征護王】の息子をお父さんへの攻撃のラインに蹴り飛ばした。それにより鈍る攻撃。その隙にその男の子は問答無用でお父さんを気絶させて抱えようとしてよろけていた。


「……やっぱ、滅茶苦茶弱くなってるな。ヤバいヤバい。ギミック08付けといて正解。さて、ギミック12起動。」

「やっ。何!?」


 続けてその子は有無を言わさずにボクとお父さんを変な機械で抱え上げた。


「って、えぇ!? と、飛んでるよ!?」

「だから何? そんなことより記載量オーバー? ……質量の感覚すら、違うのかね。まぁ短距離なら何とかなるでしょう。」

「貴様……何者だ?」


 空を飛んでいるため、早い攻撃が出来ずに攻めあぐねた【挫征護王】がボクらを抱えている子どもを睨みつけながら氣当たりする。ボクでも漏らしちゃいそうなくらいの氣当たりの中で彼は笑った。


「14番目の化物とか呼ばれてますよ。……あ、名乗っておきながら何ですけど、そういう時ってそっちから名乗るべきじゃ?」

「【挫征護王】榊 おわる……死合いへ割り込む礼儀知らずのガキ、名乗れ。」

「礼儀知らずのガキ……まぁその通りか。んー……まぁ、その辺は今訊かれてることじゃないし放置して……名前……14だから……ひとしって呼ばれる位だけど……そうだな……この世界は日本語のロストワーズの発展みたいだし……それで名前と名字の平仮名総画で14の名字となると……あいかわか。」


 ボクらにもほとんど聞こえないくらいの小さい音量でそんなことを言っていた彼は堂々と答えた。


「相川 仁。別世界に生まれたしがない化物ですよ。じゃあね!」

「【裂空飛脚】!」

「効かないと思うけどギミック04バルカン砲。」

「ちっ……」


 もの凄い勢いで飛び始め、ぎゅっと相川? くんにしがみついて逃げるならと尋ねる。


「あの、何で瑠璃たちを……」

「まぁそれは置いといて、家はどこかな?」

「えっ……あ、あっち……」

「襲われる心配は?」

「武人として、戦いを重んじるので……奇襲はないと……」

「よし。」


 相川は武人がどうのこうのとか何言ってんのかわかんねーと思いつつ移動を続けた。それよりもとエネルギーの消耗を見る。


(早過ぎ……ヤバいな。しかもギミック12、元の世界で3tまでの記載量でも大丈夫だったのにこの世界じゃこのおっさんとこのガキだけでも限界かよ……)


 物質の構成力が違うのだろうと思いつつ途中で壊れて墜落したらどうしようと心配しながら前方を見つつ溜息をつく。


(おっそいなぁ……もっと飛ばせたのに……つーか全てにおいて遅くなってる。さっきの蹴りといい……多分ギミックがなければ蹴り飛ばせなかった気がするし……ヤバいな。この世界じゃ俺、一般人より弱いかもしれんな。見えてるのにままならん。)


「あの……それで、あなたは……?」


 そんなことを考えていると多分お父さんとか言ってたから一応関係者と思って恩を売った証言人として連れて来た女の子が何か訊いて来た。


 今更気付いたけど、この子驚くほど可愛らしい。前の世界の神々の後宮に居た美女たちよりよっぽど美人に育つんじゃ……


「えと、そんな、見られても困ります……」

「俺も詮索されても困るんだよね。」

「あぅ、分かりました……」


 黙った。勝った。じゃない。


「家に近付いたら言ってね。」

「あ、うん。えっと、相川くん……?」

「相川?」


 あ、俺だったわ。


「相川くんじゃないの……?」

「まぁ、ちょっと慣れるまで下の名前で呼んで。そっちなら呼ばれ慣れてるし。そっちで。」

「…………下の名前で呼んでいいの……? お友達……?」

「……友達、ねぇ……」


 嫌なこと思い出したが、まぁ期待に胸膨らませてるお子様に八つ当たりするほどじゃないか。


 まぁ、俺10歳だけど。この子は4歳くらいかな? おにーさんとして、大きな心を見せてあげよう。


「まぁ、友達でも。いいよ。」

「えへへ……お友達……仁くん。何歳?」

「10歳。」

「えー? 嘘だよー」

「はぁ?」


 おにーさんキレるぞ? 具体的には親子揃って重力の偉大さを感じる旅に御招待だ。……いかん。お子様に大きな心を見せるといったばかりなのに。つーかこいつこの状況によく適応できてるな……


「幼稚園どこー?」


 「あ゛ぁ? だれが幼稚園生だ……」と言いかけて、俺は息を吸い、こいつを下に落とすかどうか少し考えた。


「あ、あれ。瑠璃のお家。」

「でかっ……」


 よし、状況把握まで1泊ぐらいは寄生しよう。


 そんな割と最低なことを考えながら相川は屋敷へと移動して行った。




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