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アーク・ワールド  作者: 小阪暦
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Ⅰ 赤く染まる視界

 こんにちは。小説家を目指す平凡な大学生です。

頭の中で設定だけが広がりを見せ、全く文章を書こうとしなかったので一発書いてみようと躍起になった所存であります(笑)

 拙い文章、遅い更新ではありますが、どうか誰かの興味を引けたら、誰かを楽しませることができたらと思っております。

 よろしくお願いします。

 ――――世界の裏側を見たことはあるかね?


「ちょっと菜唯太(なゆた)!絶対危ないって、早く戻ろうよ!」

「大丈夫だよ、智璃(ともり)。地図にはこっちだって書いてある」

「そうじゃないって!人の話聞いてるの!?」


 ――――質問を変えよう。君は、異世界へと続く扉はあると思うかね?


「…………これが」

「おっきい……扉……?」


 ――――そんなものは無い、か。まったく、君は本当に現実主義者(ペシミスト)だな。


「え……っ!何、これ……っ!!気持ち、悪」

「智璃……?おい、しっかりしろ!!」


 ――――答えを言ってしまう。正解は「存在する」だ。


「うそ、だろ…………………………ッ智璃いいいいいいいいいいいいッッ!!!!」



 ――――理由は単純だ。私が作ったからだよ



 その日、裏側(アーク)の世界が現世と繋がり、少年の償いが産声を上げた。




 第一話 赤く染まる視界



 夢は見るものだが醒めることはないとある大人は言ったが、彼が夢見た望みは記憶が呼び覚ますのを躊躇するほどつまらない、あるいは忌まわしきものだったのだろう。命を賭けるに値する夢なんて存在しなくて、結局は生きることが最優先すべきことなのだと教えてくれた現実は未だのうのうと「生きて」いる。少年が抱いた無謀な夢は儚く「死に絶え」、彼を支えた幼き少女もまた「死んだ」。これ以上なく若い段階でこれ以上なく熾烈な挫折を経験した彼は、次にすべき事など自ずと絞られていった。


 懺悔。少女への償い。彼が成すべき失敗の見返り。


 それをいくら果たそうと讃えられることは無く。それをどれだけ乗り越えようと得られるものは無く。そうして無様に悶えながら四苦八苦したところで、容赦無く時が流れ行くだけで。

 気付けば少女が「死んでから」1ヶ月が経とうとしていた。


 「………………智璃」


 静かに横たわる少女に掛ける声はただの音にさえ昇華しない。仮にそんな声が届いたとして、彼女の声帯が震わされる日は訪れるのだろうか。


 そんな悲観的な考えを以って、彼は巨大な扉の前に立っている。どこまでも漆黒で、闇を象徴する如き黒い扉。それに目を瞑れば変哲のない物体にも関わらず、目の前の異物から滲み出す違和感はなんなのだ。これを取り囲む環境はなんなのだ。天を仰げば満点の星空が広がり、その場でぐるりと一回転すれば生い茂る緑の領域しか目にはいらない。虫や鳥らが奏でるオーケストラによって不可解さを増す歪な空間に入り浸り、なお自我を保っていられるのは少女の犠牲故か、はたまた壊れた自分の精神故か。自らのひずみさえ気にすることなく、菜唯太は漆黒の扉に手をかける。呼吸を整え、対象を見据え、一気に力を込める。

 だが、扉はびくともしなかった。少年の力が弱小だったわけではない。もっと別の、まるで、世界規模の理が働いているかのように、全く動く気配を見せなかった。


 「……………………なんで」


 湧き上がる無力感。それを、更に濃厚な怒りが塗りつぶす。


 「なんでだよ!なんだって開かないんだよ!!……俺が弱いからか?俺が無力で!幼くて!世界に触れることすら許されないちっぽけな生命だからか!?一縷の愚かな虫けらには、かけがえのない少女(みらい)を救うことさえ不可能だと、お前は嘲笑うのかよッ!?」


 心からの慟哭さえも、黒き扉から漏れる沈黙に掻き消される。夢さえ守れない弱者はここから去れ。暗にそう告げているとも少年は感じた。苦虫を噛み潰すような表情を浮かべ、苦渋の決断で扉に背を向けようとする。

 その刹那、どこからともなく放たれた弾丸が彼に喰らいつく。


 「!?」


 その一発を察知した時には既に高らかな金属音が鳴り響いていた。だが菜唯太の意識は奪われていない。激痛も響かず、焼けるような痛みも刻まれていない。銃口の分からない銃弾は彼に当たらず、その背にある扉に小さな傷を付けていた。射撃手の腕が立たないのか、それとも立つが故の故意的な定めであったのか。真偽が明らかにならないままに、獣や鳥とは違う、明確に人の言葉が聞こえてくる。高い声色。間違いなく女だ。


 「そこまでよ、頭の弱い盗人さん」


 ペチャ、ペチャ、と泥濘んだ地を踏みしめ距離を近付ける存在に身構えながら、菜唯太は足音のする方向に目を凝らす。やがて声の主のシルエットが浮かび上がり、月明かりの照らす闇夜から現れたのは、プラチナと称するに値する銀髪の女であった。

 彼女の手に握られるのは髪の色と比べても遜色ない白銀の拳銃。独特な形状のバレルが後付けされており、銃の類に詳しくない少年でも彼女専用の特注品であることはすぐに分かった。銀髪の女性は歩みを止め、真珠のような瞳で少年を見据える。


 「はーい、両手で万歳して抵抗しない意志をー…………って、子供…………?」


 が、想定外のことだと言わんばかりに目を見開き、呆気にとられてしまった。おまけに大きなため息をついて頭に手を当てている。


 「子供かぁ…………子供なんかぁ…………子供ってぇ…………」


 とうとう俯き、その場にしゃがみ込んで小声で愚痴を言い始めた。謎の女性の登場と謎の言動に驚きを隠せない菜唯太。思考を継続するも、彼女の行動が全く読めない。目の前の女の正体は何なのか。

 彼なり思考を続けながらも、菜唯太は身構えるのをやめなかった。扉の縁を掴み、ありとあらゆる事態に対応しようとしていた。


 目の前の女を、敵と認識していた。


 「まぁ、子供でもいっか」


 ごく普通の発言、ごく普通の態度。傍から見れば深森に迷い込んだ狩人(ハンター)とも言えよう。


 「こんばんは坊や。私は架魅(かけみ)エスプレンティ。『アーク・ワールド』の研究者を5年やってるハーフです」


 だが、彼女の態度は敢えてわざとらしく、本性を隠しきれていなかった。

 溢れ出る殺意を、隠しきれていなかった。


 「扉を叩いた特異点(イレギュラー)を、今ここで淘汰します」


 浮き上がるのは二つの人影と、白銀の銃身。この世の月は煌めきをより華やかに、静寂をより厳かに仕立て上げる。


 那由多程の空白を経て、光輝く撃鉄が起こされた。

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