『戦いの前に』
これを自宅警備と言っていいのか?
最早、作者ですら判らなくなりました。
『立てよ、国人!』
秋の気配を運ぶ冷たい風が、鮮やかに色づく庭の木々達を震えさせる。
稲葉山の麓にある、俺の屋敷にも遅めの朝が訪れた。
温もりを残す布団が、俺を睡りへと誘惑している。
俺は、美少女に起床を促されるものの布団から抜け出せない。
「眠いです、さぶいです」
「ダメです! 起きてください」
優しく叱ってくれる女に甘えたいというのは、男の永遠の性癖である。
これこそまさに人生の勝ち組の特権である。
その柔らかな身体に抱きついても、怒られないのである。
俺は今、その世界を堪能しているのだ。
”起床をごねる”という、いわゆるプチストライキである。
最近の俺の朝の日課である! 文句があるか。
美少女に怒られるという、苦難を心地よいと思うことは、自宅警備員のスキルなのだ。
かなり危ない発言だが、まだ大丈夫だと思う。
あいも変わらず、おあずけを喰らってツライのですが……。
なにせ彼女は、普通にボクよりも強いですし。
何より、俺の準備が別の意味で、まだ整わないのである。
ご期待の所申し訳ないが、俺はまだ綺麗な身体である。
この苦しくも快適で充実した生活環境を守るため。
俺は、断固として戦うのだ!
「信長なんて、こわくなんかないや~い!」
前回は、信長の尾張統一を阻む事に成功したのだ。
とはいえ、”歴史知識チート”は諸刃の剣だ。
桶狭間までは、平常運転、歴史を変えすぎたくないので注意が必要である。
いきなり信長本人が死んでしまっても、それはそれで俺(作者)は展開に困るのだ。
― 司令部分室にて ―
「まあ、何とかなったかな?」
『浮田の戦い』は、こちらのシナリオで推移した。
親父を『いい人として演出する』のもなかなか骨が折れる。
このような先進的スキルまで必要とは、警備業務もいろいろと大変である。
事前に打ち合わせをして、サクラを仕込み何とかミッションをやり遂げた。
こちらは信長出陣の前日から用意しているのだから、失敗されても困ってしまう。
まあ、敵の内部に味方がいるのは重宝だ。
何とか、親父の好感度を引き上げることが出来た。
臭いセリフと、戦いの勝利がもたらした大きな変化である。
岩倉城を死守出来たことは、大きな成果だと思う。
これひとつが、信長にくさびを打ち込むのだ
俺が考えたプランを実行するために、根廻しを進めてゆく。
僅かなミスが命取りである。
真剣に協議を重ねる。
真剣と言えば、かの剣豪が稲葉山城下に訪れてきた。
俺は早速繋ぎをとり、剣の指南を配下の者に受けさせた。
むろん俺も参加したが、なにぶんまだ身体が出来ては居ないからな、半分は見て覚える修行である。
剣術というものは、厨二病患者の永遠の憧れではあるが、正直真剣は怖いのである。
「やはり戦争では槍が大切だなあ」と、剣豪の無双を見て思った。
とりあえず、早合と消えにくい火縄の開発を急いだ。
情報を適切にフィードバックさせることが、勝利への鍵である。
”報・連・相”はいつの時代でも大切である。
~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~
今は永禄2年の晩秋である。
桶狭間まで残された時間は少ない。
先に述べた茶番も、国を纏める上では重要なのである。
最近ようやく『土岐家』として認知されるようになったのだ。
根廻しというものは、とても大切である。
とりあえず守護大名としての体裁は整えられたので、後は戦国大名として生き残りを図るのだ。
これは自宅警備の話ではないが、一般的な警備員というものは『警備業法』という法律に縛られるのである。
ザ・ガードマンをするにしても、ある程度の講習を受ける必要がある。
― (警備業務実施の基本原則)
第十五条 : 警備業者及び警備員は、警備業務を行うに当たつては、この法律により特別に権限を与えられているものでないことに留意するとともに、他人の権利及び自由を侵害し、又は個人若しくは団体の正当な活動に干渉してはならない。 (警備業法より抜粋) ―
というものがある。
つまり、警察官ではないので、なんの権限も持たないのである。
交通整理で、警官の指示には従わなければならないが、警備員のおっちゃんの指示はぶっちゃけ無視しても法律上は構わないのである。
但し、言っておくが自己責任だ。
指示に逆らって、キミがあっけなく死んでしまっても、それはそれで仕方のないことなのである。
転生の機会は、意外とあるモノなのだ。
警備のおじさんも多少怒られるかも知れないが、警備員に止める権限がない以上、厳しく責任を追及するのはお門違いである。
商売として看板に傷を付けてしまったから怒られるのであって、馬鹿が死んだ事など別にどうでもいいのである。
とまあ、一般の警備員とは過酷な職業である。
生活に困って衝動的に犯罪を犯してしまった犯人(容疑者)の権利というモノはどこまで認めればいいのか?
法解釈に悩んでいる内に、みんな刺されてしまうのである。
だから、一般の警備員は、国立大の法学部の上位卒業者が望ましいと思う。
それに引き替え。
『自宅警備員』はエリートである、自宅という聖域を守護する以上『治外法権・民事不介入』である。
刑事事件さえ起こさなければ、なんびとにも介入はされない特権階級なのだ。
つまり、信長を押さえ込むには、『自宅警備員達の力の結集が必要なのだ』
馴れ合いの|警備員(旧ザコ)では、厳重注意すら出来ないのである。
というわけで、俺は仲間を募集している。
誇り高く、気高い戦士
彼らを纏め上げ、敵(信長)を倒すことが俺の使命である。
《来たれ、地侍・国人衆よ!)
《土岐家の元で、新たなる時代を築き上げるのだ~。》
《傲慢不遜な悪い子にはお仕置きが必要である。》
「う~む、もっとインパクトが欲しいなぁ~」
俺は、仲間を募集するため、親父の演説の原稿を書いている所なのだ。
《 今日、我々は一人の英雄を失った。
”海道一の弓取り”と自称していた、駿河の太守である。
しかし、これは足利幕府政権の敗北を意味するのか?
否!
尾張の終わりの始まりな~のだ! (←馬鹿凡パパ風に)
憎っくき信長に比べ、我れらが商人から得られる収入は10分の1以下である。
にもかかわらず、今日まで戦い抜いてこられたのは何故か?
土地だ! 所領、家である。
諸君!我が美濃・尾張の守護が、正義だから諸君の土地の保有が保証されているのだ。
これを諸君らが一番知っている。(ということにしてよ。)
とある守護は尾張を追われ、美濃にながされてきた。
一握りのジャイアン(信秀・信長)が、膨れ上がった津島・熱田の権益を支配して幾数十余年。
川並衆よ!(流しの自宅警備員)
川べりに住むキミ達が、自由を要求して何度踏みにじられたことか。
大きな理想を掲げる『自宅警備員』の自由のための戦いを、土岐家や幕府が見捨てるはずはない。
守護の一員! 諸君らも多少は知っている、今川義元は死んだ。
何故だ!?
「まろだからさ」 (←注:ここのみ、俺のセリフ)
それは信長が我らの敵だからである。
であるならば、新しい時代の覇権を、選ばれた『土岐家』が得るのは、もはや歴史の必然である。
ならば、我らは襟を正し、この戦局を打開しなければならない。
我々は過酷な『自宅警備員生活』で家にいながらも苦悩し、錬磨して今日の文化を築き上げてきた。
かつて、斎藤道三は、まず美濃から国盗りを始めると言ったそうだ。
しかしながら、それは間違いだ!
自分たち土岐家に関わる人間が、美濃・尾張の支配権を有するのだ。
恩を忘れ増長し我々に嫌がらせばかりする信長は、悪である!
諸君の父も、子も、あの信長の無思慮な攻撃・いやがらせの前に死んでいったのだ!
この悲しみも怒りも持ちながら、泣き寝入りしてはならない。
それでは緩やかな死を待つだけなのだ!!
それを、ヨシモトは死をもって我々に示してくれた!
我々は今、この怒りを結集し、信長軍に叩きつけて、初めて真の勝利を得ることが出来る。
この勝利こそ、漁夫の利というものだ。
国人よ立て! 地侍も駆けよ!! 足軽はついてこい!!!
欲望をやる気に変えて、立てよ!国人・地侍よ!
君たちは、土岐家に選ばれし『自宅警備員』であることを忘れないでほしいのだ。
そして足軽の皆も手柄を立て、マイホームパパの夢を是非かなえて欲しい。
幕府御相伴衆である、我ら『土岐家』 こそ美濃・尾張を救うのである。
『自宅警備員』万歳! 『土岐家に栄光あれ!!』
(ここでサクラが、シュフレピコール「『自宅警備員』万歳! 『土岐家に栄光あれ!!』 」×2 )
(皆を静める)
甚だ簡単ではございますが、以上でわたしの檄とさせていただきます。
ご清聴ありがとうございました。
高い所からではございますが、皆様のご厚情に感謝し、篤くお礼いたします。 》
「……よし出来たっ!」
完成だ。
「光秀、半兵衛どうかな~この原稿」
俺は、二人に演説の草稿をみせた
「ずいぶんと長いですね」
光秀が、意見具申をした。
「うぐっ」
俺は、必死にたえた。
「あの大殿が覚えられますかね」
半兵衛がツッこんだ。
うぐっ半兵衛の指摘は、いつも的確だ
「ぐぐっ」
「ヨシモト死ぬの前提ですか?」
(しまった、そういえば死ぬと決まったわけではない。)
「いやあまあ、こうした方が盛り上がるかと」
「確かにそうですが、義元公が勝つのでは?」
光秀の感想は、今現在の意見としてはもっともである。
「だから、これはあらゆる事態を想定しているの~ (泣)」
「「スミマセン若!若の気も知らずにご無礼いたしました!」」
「判れば良いよ」
前回加わった、シバ犬の”銀”のお世話も『自宅警備員』の業務上のサービスである。
芸を覚えさせなくっちゃ。
次回、『桶狭間の戦い』
絶対に見てね、たぶん今回よりは面白くないです。
期待しないでね。
避けては通れない道なのだ。