清洲へ堂々の凱旋をする! 『尾張の一番長かった日(序)』
今回は、プロロ~グです。
次からが、本題ですね!
信長は、激怒した。
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― 大高城、信長 ―
激戦が一夜明けた朝、大高城は静けさに包まれていた。
小鳥の囀りの声ぐらいでは、目覚ましにもならないのであろう。
戦勝の祝宴が、夜遅くまで続いていたため、今は誰もが眠りについている。
泥のように眠っている、と言ってもいいすぎではあるまい。
昨日は、早朝からの進軍に、10倍の敵を相手にしての大激戦である。
それに加えて酒宴をすれば、こうなってしまっても仕方が無い仕儀である。
遅い朝ではあるが、さすがの信長も怒る気にはなれなかった。
完璧な勝利であった。
「多くの犠牲を出したが、これでワシに逆らうものは居なくなる……」
そう思うと、にやけずには居られなかった。
浮かれた信長 というものも気味の悪い存在だ。
いつもは厳しい彼も、今回ばかりは部下に対して多少は優しくなれるのであった。
戦場ゆえ碌なものはないが、それでも朝食が美味しく感じられるのは勝利のおかげであろう。
機嫌の良い信長に、近侍の者もホッとした。
そんな中、辰の刻が過ぎる頃、織田信長の元に織田信賢から使者が訪れた。
「なんだ、信賢め、今頃になってようやく臣従の申し入れか?愚かな」
信長は有頂天になっていたのだった。
板張りの広間に控えるのは、織田信賢の使者.前野宗康であった。
「今川殿を撃退されたとか、祝着至極に存じます」
平伏する、宗康。
「世辞は良い、本題に入れ!」
「では、こちらをお読みくださいませ」
信長にもたらされた書状の内容は、……
『尾張守護代(織田信賢)配下、織田上総介殿
尾張守護.斯波義銀が、尾張の行く末を憂い自ら尾張を差配することと相成った。
織田信長では力量不足が否めないので、岩倉の織田信賢を守護代に任じる。
これまでの織田信長の所業は、無礼千万であるが、尾張の守備のため今回の戦功をもって帳消しとなす。
以後は、大高城を守り、外敵に備えられたし。
大高城を離れ尾張に戻れば、敵前逃亡と見なす。
ゆえに、守護復帰の祝賀の挨拶は無用である。(こっちに来んな!)
斯波義銀 』
なんと、追い出したはずの斯波義銀が、『尾張の危機を憂い復帰した』という知らせであった。
しかも、守護代に織田信賢を指名したというのである。
「なんだとお~」
信長の絶叫が、城内にこだました。
信長の叫び声を聞きつけ、前田、毛利、長谷川が慌てて駆けつけたほどである。
信長には、戦の勝利を勘案し、これまで守護を侮辱した無礼な罪を許すとしていた。
代わりに、知多郡大高城周辺のみ与えられ『引き続き大高城の守備に当たるよう』に厳命されていた。
「くっ、ふざけるな」
信長は、激怒した。
「こやつを追い返せ!」
使者を殺さなかったのは、我ながらよく我慢したと、信長は思った。
「信長殿、良くお考えなされい」
前野宗康は、サッサと大高城から去って行った。
「何が守護かぁ!力のないものに権力など無用なのだ」
空き巣狙いみたいなマネをしおって、……ワシが思い知らせてやる。
信長は、すぐさま兵を纏めて清洲へ引き返そうとした。
~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~
信長は愕然とした。
織田信長は、事の真偽を確かめるべく強行して清洲城へ凱旋しようとした。
「あのようなたわけた書状は、無視するに限る」
そう言い放ち、帰り支度の用意を調えていた。
まずは情報収集だ、物見を放ち帰りを待った。
じりじりと焦れる時間が過ぎる……。
物見の報告では、道中の山崎城が織田信益(信清の弟)配下の犬山勢に占拠されていた。
「これでは帰るに帰れないではないか~」
《大高を離れ尾張に戻れば、敵前逃亡と見なす。》
― 山崎城 ―
織田信益は、尾張守護.斯波義銀公より使者をいただき山崎城守備を命ぜられている。
山崎城は、尾張の東部の守りの要の城である。
最前線ではないが、重要な拠点を任されたのだ。
「これは、義銀公も私のことを相当期待されておられるな」
信益は感涙にむせび、尾張を守る盾になると誓った。
犬山勢の一部、1000名が城に詰めている。
「これで、私も晴れて城持ちだ。日和見の兄者にあえて逆らったが、これで良かったのだ」
我が侭勝手な、信長の動向にも厳重に注意するように言われている。
いずれにせよ敵(信長も含む)を撃退すれば、山崎城がそのまま褒美として与えられるのだ。頑張らねば。
尾張の防衛戦のためと称して、与力の竹中重元が城を多少強化していた。
城攻めの装備を持たない信長軍は、攻めあぐねる事であろう……。
― 信長 ―
信長は、大高城にて頭を抱えていた。
山崎城を攻めないで通過するとすれば、行軍中に側撃されたり背後を取られる心配がある。
かといって、山崎城を攻めるとすれば、やはり背後が心配である。
鳴海城の岡部元信が、未だ開城をしないために信長は危険な状態であった。
「とりあえず、山崎城、それに鳴海城にも使者を出すのだ。」
「ははっ」
信長の苦難の戦いが、今ここに始まる。
次回は、桶狭間の日に戻ります。
その時、土岐が動いたん!




