『桶狭間』 その前に!! そうだ、京都に行こう!! (下)
仲間と共に、将軍さまに拝謁します。
竜興の真意とは……?
― 京の町 ―
逢坂山を越えて、京の都に入りました。
『王城の地 平安京』です。
自分が思い描く、一休さんの町並み。そのような、ほのぼのとした町はすでに無い。
そこには物々しく、バリケードに囲まれた町があった。
もはや、ひとつの町ですらなかった。
規模が縮小し、幾つかの町に分裂している状態だ。
「これは、思った以上に荒れ果てていますね。」
思わず、素直な感想がもれた。
たぶん、この時代の人からすれば、よく保っている方なのでしょうが。
俺としては、この光景は心が痛みます。
平安京の都のはずが、平安な町ではありません。
(残念ながらSECAMが ありませんからね。)
「ずいぶんと荒れていますね」
「はぁ~、これでも随分とマシになったのだよ、竜興」
溜息を吐きながら、教えてくださった。
「お祖父様、そうなのですか?」
「ああ、応仁の乱で全て焼けてしまって、酷かったもんじゃ」
「「 無用な戦とは良くないものです、ホントにそうですぞ、若!」」
俺の下僕(お駄犬とシバ犬)の”やっさん”と、”銀ちゃん”も口を揃えてそう言った。
「最近ようやく、争いにめどが付いたところだ」
義賢公が、しみじみ述懐された。
京の権力争いというものは、よほど酷かったのであろう、大変ですね。
細川とか、三好だったかな?
「左様ですか……」
俺もそれ以上言葉が出なかった、いったい京の自宅警備員達は何をしているのであろうか?
いったん宿を借りました。
ここで、旅塵を払います。ここは、義賢公の京の邸宅だそうです。
この時代の旅は過酷です、ある意味命がけですからね。
旅装を解き、俺もようやく安堵の息を吐き食事を取り就寝します。
~ ・ ~ ・ ~ ・ ~ ・ ~
翌朝、身支度を完璧に調えて、将軍の御所にお伺いいたしました。
将軍足利義輝公は、なかなかムダに覇気のある方でした。
前世の自分だったら、その眼光にすくんでしまいそうです。
まあ何とか対面を果たしました。
一手、お手合わせをした後、『美濃の国守の跡取り(息子)』として正式に認めていただきました。
やはり、選考基準はそれ(剣技)でしたか。
(師匠からキチンと習っておいて良かったです。)
『自宅警備員』として、真面目に鍛錬した甲斐がございます。
まぁこれで、次の美濃の守護は、わたしで決まりです。
将軍様におかれましては、お供の者にも親しく声をかけていただきました。
親戚の六角義賢殿・祖父の土岐頼芸、そして、……斯波義銀に織田信安。
なかなかの顔ぶれですよね~。
このメンツを揃えれば、義輝公も満足でしょう、予想通りに上機嫌でした。
将軍 義輝公を筆頭に、保守大連立です。
斯波義銀が、しばらく尾張に帰っていない事を訴えます。
(織田信長という、守護代の家来の息子が暴虐の限りを尽くして暴れていると訴えます。)
「信長というのは、尾張守護の下の守護代の配下、三人居る奉行の内の末席の奉行.織田信秀の息子です。
3男だが信秀の意向で跡取り指定だったのはいいんですが、でもふたを開ければ大うつけでした。
不敬な奴らで、出来もしない国盗りを夢見て、あろう事かマムシと懇意でした。
父親の葬儀の際に喪主すら務めなかった、というか暴れたのですよ。そんな奴の相続は無効だと思います!
弟殺し、守護代殺し、卑怯な奴です。
守護を殺害した疑惑もあります、絶対に裏で糸を引いていました。
状況証拠は、真っ黒です。
さんざん利用した後、銀ちゃんをゴミ同然に追い出しました。
人として、最悪な男です!! 」
「土岐家や六角家が、銀ちゃんのサポートしてあげたいのですが……」と申し出た。
「なんとも危険な男だな!」
「ご理解いただき、有り難うございます」
「あい判った、『斯波義銀』を尾張守護として、儂が認めよう」
銀ちゃんを守護として、正式に認めて貰いました。
今、将軍義輝公がお住まいの屋敷は、実を言うと武衛家(銀ちゃん)のものです。
言うなれば銀ちゃんは、義輝の大家さんですからねぇ。
なんと言っても、足利一門ですし……義輝くんも多少はご機嫌を取らないと不味いでしょう?
『家無き子将軍、義輝』にはなりたくないでしょうね。
連帯保証人の、六角義賢くんもいます。
勢力を回復した、土岐家の跡取りのまともな申し出とお願いです。
詰んでますね~
斯波義銀復帰のついでに、織田信安の息子の信賢に尾張守護代を正式に相続させるつもりです。
ちなみに私達は信長について、最前線あたりを任せるという線で合意しております。
有効利用です。
ただ正式発表に関しては、様子を見るという密約です。
この件に関しましては、尾張国主の専権事項ですから将軍家にも今は内密です、というか報告の義務もありません。
目的も果たしたので帰りましょう。
― 小谷城下浅井屋敷 ―
帰りは小谷に寄りました。
浅井久政殿が、歓迎の席を設けてくれました。
かれも苦労人ですね、俺としても朝倉との伝手が欲しいので、浅井家とは仲良くしたいものです。
が、賢政殿は機嫌が悪くすぐ出て行ってしまいました。
代わりに、奥方様と賢政の弟君達(政元、政之)が親しくおもてなしをしてくれます。
弟くんとは年が近いですから友達気分で気楽です。
その夜は、戦の話・下ネタ話で盛り上がりました。
じわじわ、取り込んでゆきます。
まあ、伯父・甥というより、本当は従弟同士ですからね。
賢政くんも、彼らのように仲良くしてくれると有り難いのですが。
賢政殿は、斎藤家(道三)にシンパシーを感じているようで、名門の土岐家を嫌っているようです。
どうやら、六角家とイメージが被るのが原因でしょう。
現状では浅井家は六角氏に臣従しているというのに、あの態度ではバレバレですね。
今の時点で、次期当主としては失格です。
武勲があっても、最終的に国の舵取りが出来なければ、無能としか言いようがありません。
ヨワヨワなのもダメですが……『戦馬鹿』は、害悪です。
無垢(処女)嫁を追い出したという、あの逸話は、正直正気を疑いますからね。
『手を付けていないから、返品する』ってものじゃぁ無いんですよ。
この時点で、仲良くしたくはありません。
こういうのは、下克上を目指す者の思考なのでしょうね。
人間として冷たすぎて、俺はキライですね。
「リア充、滅びろ~!」
賢政に呪いの言葉をかけておきました。
平井の娘が心の中では、泣いていることでしょう。
気の毒です!
折を見て少しばかり慰めてあげましょう。
……なぐさめますた。
― 稲葉山城 ―
美濃に帰りました。
さあ、暗躍の時間を始めましょう。
大義は我にあり!
総力を挙げて、信長を苛めます。
(※詳しい様子は、次回 『桶狭間の裏側』 にて)
しっかり飼い犬の面倒を見る、竜興は良い子です。
次回も、お楽しみに。
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