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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前休暇

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「そうだよな。馬車をもっと引き連れて、大勢の使用人を連れて、どこだろうがいつもの生活をする。俺が知ってる上級貴族はそんなんばかりだよ」

「アルディスもですか?」


 レイの声だ。少しだけ安堵しつつ、耳を傾ける。


「いんや、アルディスは例外だよ。あそこの人はよく遠方に出かけたりするが、いつもこんな感じだ。たまに護衛すら連れられない。まあケルビン様もクロス様も、強いからなあ」

「それでもあの人たちの部下としては困りものだよ。ずっと気が気じゃないからな。まあ、他の貴族に比べたら、その分かなり付き合いやすいけどな」

「ああ、それは分かるかも。僕もアルディスの人たちを見習ってるし」

「ん? どういうことだ?」

「何でも無いよ」


 リリアはそっと中に戻り、首を傾げた。


 ――この移動はおかしいの?

 ――上級貴族としてはおかしいね。でも悪いことじゃないからいいと思うよ。気にしなくていいよ。


 そう、とリリアは毛布に戻ろうとして、


「ところでお前さん、リリアーヌ様をよく見てるが、何かあったのか?」


 そんな声が聞こえてきて足を止めた。


「いやあ、別に何かってわけではないんだけど……」

「もしかして、まさか……。惚れた、のか?」


 レイが言葉に詰まったのか、静寂が訪れた。しばらくして、マジかよ、と護衛二人が漏らした。


「やっぱり高嶺の花、かな?」

「いやあ、そりゃあ、なあ……」


 気まずい沈黙が流れている。やがて、よし、とディオスの声が響いた。


「俺のとっておきの口説き文句を教えてやる! クラブ、お前もあっただろう!」

「ああ、そうだな。安心しろ、レイ! 俺たちがお前の実らない恋を応援してやろう!」

「本当? ありがとう!」


 レイの嬉しそうな声を聞いて、リリアはそっと毛布へと戻った。もう一度横になり、目を閉じる。


 ――すごくさらっと罵倒されてたね。実らない恋だってさ。

 ――あら。間違いないじゃない。

 ――あははー。オニリアめ。


 ぴくり、とリリアの眉が動いた。薄く微笑を浮かべ、思い浮かべる。


 ――あ、だめ! ピーマン禁止!

 ――確か村の特産はピーマンだったかしらね。

 ――やーめーてー!


 リリアが忍び笑いを漏らし、さくらは拗ねたように文句を言う。ひとしきり笑い終えて、一息ついた。


 ――それじゃあおやすみ、さくら。また明日。

 ――うん。おやすみ、リリア。


 そうしてゆっくりと眠りに落ちようとしたところで。

 何故か、暗闇の中で膝を抱えるさくらの姿が目に映った。

 その意味を考える暇もなく、リリアはそのまま眠りに落ちた。




 その後の行程も順調そのものだった。予定通りに村に入り、小さな宿で一泊する。そのまま特筆すべきことは何もなく村を出発して、その日の昼に別邸のある町に入った。

 アルディスの別邸は町の北東にある。その建物を目にしたティナは、口を半開きにして呆けていた。


「ごめんなさいね。小さな建物で」


 リリアが苦笑しながらそう言って、え、とティナが振り返った。


「小さい……?」

「ええ。小さいでしょう。本邸に比べたら」

「それは……そうかもしれないけど……」


 ティナはもう一度その別邸を見る。そして周囲の建物も。確かにこの別邸は周囲の建物とほぼ同じ大きさだ。ただし、その周囲が問題でもある。さらに外へと行けば、一般的な小さな家が建ち並んでいる。この近辺とは全く違う。


「もしかしてこの辺りの建物って……」

「どこかの貴族の別邸、というのが多いわね」

「そ、そうなんだ」


 ティナが引きつったような笑顔を見せ、次いでため息をついた。小さな声で、やっぱり住む世界が違うな、と呟いていた。


 ――ねえ、リリア。他にも別邸があるんだよね。


 リリアが眉をひそめ、続きを待つ。


 ――他もこんなに大きいの?


 怪訝そうに首を傾げ、リリアは言った。


 ――違うわよ。

 ――ああ、だよね! よかった、ちょっと安心……。

 ――こんなに小さくないわよ。

 ――じゃなかった! なにそれずるい!


 だから何がずるいのか。リリアは首を傾げている間に、馬車は敷地の中に入った。

 別邸の敷地もそれなりに広く、建物の前には広い庭がある。本邸のものとは違い、様々な植物が見栄え良く植えられている。その奥、建物の前にはここで働く使用人たちが並んでいた。人数は五人と少ないが、本邸の半分以下の小ささであり、さらには普段は誰も住んでいないことを考えればこんなものだろう。

 リリアたちが馬車から降りると、使用人たちが一斉に頭を下げた。


「お帰りなさいませ、リリアーヌお嬢様」


 一分の狂いもない挨拶に、リリアの方が頬を引きつらせた。よく見てみれば、使用人たちはどこか緊張しているようにも見える。

 護衛二人が荷物を下ろし始めると、使用人から二人、手伝いに走った。全ての荷物を、まるで貴重品を扱うかのように丁寧に屋内へと運び入れていく。それほど大事なものを入れていないのに、どうしたというのか。

 そこまで考えて、すぐに思い当たることがあった。原因は他でもない、リリアだ。


 ――言ったよね。リリア。

 ――ええ。そうだったわね。


 この町の人間は、リリアが変わろうとしていることを知らない。知っていたとしても、それは父や兄からの報告だけであり、そう簡単に信じられるものではなかっただろう。


 ――さくら。何かあれば、すぐに言って。

 ――あいあいさー。


 さくらの元気な声に笑みをこぼし、リリアは建物の中へと足を踏み入れた。


壁|w・)サブイベント?


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