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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前休暇

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 レイがアルディスの屋敷に来てから一週間ほどが経った。未だにレイは帰っておらず、当然のように屋敷に居座っている。そのためリリアの生活にもわずかに変化があった。

 朝の勉強の時間にはレイも同席するようになった。二人に教えなければならないため少しばかり負担は増えているが、それほど苦でもない程度ではある。昼以降はいつも通りで、レイは屋敷で働く使用人を何人か連れて、周囲を散策しているらしい。


「お兄様、お仕事はまだかかりそうですか?」


 ある日の朝。朝食の席でリリアが兄に問うと、兄は頷いて答えた。


「ああ。まだかかるな。すまないがもう少し待ってほしい」

「分かりました。私ができることであれば、お手伝いしますが」

「女が出しゃばってくるな」


 ぴしゃりと兄に言われ、リリアはすみませんと頭を下げた。無理を言っているのは自分なので少しでも手伝えればと思っていたのだが、やはり兄には嫌われているようだ。


 ――違うと思うけどね。

 ――そう? 嫌われているようにしか思えないのだけど。

 ――多分、リリアに気を遣ってると思うよ。仕事を手伝うんじゃなくて、他のことに目を向けてほしいんじゃないかな。

 ――他のことって?

 ――えっと……。他の仕事、とか? 選択肢を増やせるように。


 いまいちさくらの言葉は理解できない。何の選択肢を増やすつもりなのか。


 ――リリア。学園を卒業したら、どうするの?

 ――どうするのって……。


 答えようとして、言葉に詰まった。言われてみるまで考えたこともなかった。漠然と、誰かに嫁ぐ未来しか考えていない。以前は王子であり、今はそれ以外の誰かに嫁ぐだろう、と。それが貴族の家の令嬢というものだから。


 ――それ、家族はそうしろって言ってないよね。

 ――そう言えば、そうね。


 王子との婚約はリリアが望んだものだ。それ以外で婚約の話が出たことはない。先日、好みを聞かれたが、結局その後は特に何も言われていない。


 ――リリアの希望を尊重してくれると思うよ。だから色んなことに目を向けてほしいんだと思う。貴族の仕事ばかりじゃなくて、ね。


 なるほど、とリリアは頷いた。もっとも、何も思い浮かばないのだが。


「ああ、そうだ。リリア」


 父の声に、リリアは顔を上げた。父が少し考えながら言ってくる。


「ずっとこの屋敷にいても退屈だろう。北の別邸にでも行ってみてはどうだ? 気分転換にもなるだろう。そのままクロスを待ってティナさんの実家に向かってもいい。どうだ?」


 悪くない提案だとは思う。確かに最近、少し退屈だと感じ始めていた。別邸に行くのもいいだろう。


「すごい。別邸があるんだ……」


 隣に座るティナが驚いたように言った。リリアが首を傾げて言う。


「別邸ぐらいあるわよ。ティナの家にもあるでしょう?」

 ――いや、ないよ。普通はないよ。

 ――そうなの? アルディスは別邸が四つあるからてっきり一つはあって当然だと思っていたのだけど。

 ――下級貴族だと無理、って待って、四つもあるの!? なにそれずるい!


 何がずるいのか分からないが、どうやら本当にないことが普通らしい。ティナを見てみると、苦笑いしていた。


「私の家にはないかなあ。だから別邸ってどういうものか、イメージつかないかな」

「別に普通の家よ。ここほど大きくはないけど」


 別邸の一つはここから北に、馬車で三日ほどの距離にある。小さな町で、どちらかと言うと村と言える場所だ。以前は静かすぎて行きたくもない場所だったが、今は少し魅力的に感じている。


 ――さくらはどう? 行きたい?

 ――行きたい。

 ――そう。分かったわ。


 リリアは頷き、父へと顔を向けた。


「行ってみようと思います」

「そうか。ではこちらで手配をしておこう。明日になるが、構わないな?」

「はい」


 リリアが頷き、ティナの方をちらりと見る。何かを言いたそうにしているのを見て、


「お父様。ティナも連れて行って構いませんか?」

「ああ。もちろんだ」

「あ、僕も行きたい」


 レイが便乗するかのように手を上げて、リリアが何かを言う前に父が頷いた。


「畏まりました。手配しておきましょう」

「護衛もいりますね。父上、私の部下から出しましょうか?」

「そうだな。頼む」

「護衛なら僕がするよ?」


 レイがにこやかに言って、父と兄が顔を見合わせ、少し困ったような苦笑を浮かべた。その反応の意味が分からなかったのだろう、レイが首を傾げる。


「レイ」


 リリアが呼ぶと、レイがこちらへと向いた。


「貴方はクラビレスの第三王子よね」

「うん」

「一番守られなければならないという自覚はある?」


 レイは何度か目を瞬かせる。それがどうしたのか、とでも言いたげなその反応に、リリアはため息をつくと改めて説明をする。


「一番守られないといけない貴方が一番前で剣を振ってどうするのよ」

「あ……。ほんとだ」


 本当に思い至らなかったらしい。リリアは頭痛を堪えるように指でこめかみを押さえ、わざとらしく長いため息をついた。


「ご、ごめんなさい」

「別に謝らなくてもいいわよ。お兄様、そちらの方も手配をお願い致します」

「ああ。分かった」


 兄はリリアへとしっかりと頷いてくれた。


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ではでは。

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