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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前休暇

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 リリアの目の前では二人がまだ剣を打ち合っている。現在はお互いに二勝ずつしており、これで勝負が決まる。その様子を見ながら、リリアは無意識のうちに感嘆のため息をついた。

 どちらが優勢かなどリリアには分からない。ただ素直に格好良いとは思う。思う、だけだ。

 ふと気づけば。試合は終わっていた。


「どっちが勝ったの?」

「クロスさんだよ」

「あらそう」


 どうやらレイは負けてしまったらしい。ただそれほど残念そうにはしておらず、兄とレイは握手を交わしていた。


 ――男の友情だね。青春だ!

 ――青春ね。いいわね青春。汗臭いけど。

 ――台無しだよ!


 二人の様子を眺めていると、こちらへと向いたレイと目が合った。レイがこちらへと駆けてきて、リリアの目の前で立ち止まる。そして照れくさそうに笑った。


「負けちゃいました」

「そうみたいね」


 そこで言葉を句切り、少し考え、


「でも格好良かったわよ」

「え!?」


 そんな言葉が出てくるとは思わなかったのか、レイが驚きで目を見開いた。次いで嬉しそうに破顔する。その笑顔から顔を背け、リリアはきびすを返した。


「それじゃあ部屋に戻るから」

「え? あ、はい……」


 どこか残念そうなレイの声。少しばかり罪悪感を覚えるが、ここにいると余計なことを言ってしまいそうだ。リリアが屋敷の扉へと手を掛けたところで、


「リリアさん!」


 レイが呼び止めてきた。少しだけ煩わしく思いながらも振り返ると、レイがこちらを真っ直ぐに見つめていた。


「僕は、リリアさんを守れるよ!」


 力強い言葉。そう、とリリアは頷いた。


「お兄様に勝ってから言いなさい」

「うぐ……」


 レイが恨みがましそうに兄へと振り返り、兄はすぐに目を逸らした。先ほどまでの男の友情とやらはどこへいってしまったのか。薄く苦笑する。


「レイ」

「はい?」

「敬語とかさんづけとか、そういったものをやめなさい。弱々しく見えるから」

「え? いや、でも……」

「私をどう評価しているか分からないけれど、その方が私としても付き合いやすいわ」


 レイがわずかに目を見開き、ゆっくりと頷いた。


「分かったよ。リリアさ……。リリア」

「ぎこちないわね。まあいいでしょう」


 それ以上は何も言わず、屋敷の中に入りすぐに扉を閉めた。途端に庭の方が騒がしくなったが、気にせず部屋へと歩き始める。


 ――ねえ、リリア。

 ――何よ。

 ――私も面倒だから聞いちゃうけど、レイがリリアのことを好きなのは分かってるよね?


 足を動かしながら、リリアは首肯した。


 ――いつからかは分からないけれど、そんな気はしていたわ。

 ――リリアはどうなの?


 問われ、リリアはしばらく押し黙った。足を止め、考える。レイの笑顔を思い浮かべ、薄く微笑んだ。


 ――悪いとは言わないわ。けれど、正直なところ、よく分からないといった方が正しいわね。

 ――ふうん。もし私のことを気にしてるなら、私は静かにしてるよ? デートとかずっと静かにしてる!

 ――帰ってからからかうと。

 ――むむ! 失礼な! その通りだけど!


 ただそれも悪くはないとは思う。さくらにずっと見られているというのは恥ずかしいだろうが、あとでいろいろと教えてもらうこともできるはずだ。もっとも、さくらに恋愛経験があるとはどうしてか思えないが。


 ――失礼な。でも否定しない。

 ――ふふ……。ところでさくらは、もしかして私に恋愛してほしいの? ずいぶんと聞いてくるけど。


 笑いながらもそう聞くと、


 ――正直してほしくないかなあ。だってどうせ……。


 そこで、言葉が途切れた。


 ――どうせ、なに?

 ――あー……。何でもない。忘れて。


 忘れて、と言われて忘れられるはずがない。良くない言葉が続くような、そんな言い方だった。

 そこまで考えて、リリアは自嘲気味に笑った。今更気にすることでもないだろう。リリアはゆっくりと深呼吸すると、笑顔を浮かべた。


 ――さて、昨日買ったお菓子でも食べましょうか。

 ――おお! いつ食べるのかと思ってたんだよ!

 楽しみだな、とさくらが楽しげに鼻歌を歌い始める。リリアはそれを聞きながら、少しずつ覚え始めているその曲を同じように鼻歌で歌いながら、自室へと向かった。


     ・・・・・


 リリアが食べる菓子の味を楽しみながら、さくらはぼんやりと以前の記憶を思い出していた。

 まだ自分が生きていた頃。冬月さくらとして生きていた頃の記憶だ。自分にも人を好きになった経験ぐらいはある。同じ高校に行くことになっていたがために告白などはしていなかったが、今となってはしておけば良かったと思っている。友人にはいつも、さっさと行けよ、と何度も言われていたものだ。


 一度思い出すと、記憶の波がさくらを襲ってくる。好きになった人や友人はもちろん、家族や近所の人のことも思い出すし、居心地の良かった我が家のことも思い出す。本当に、満たされた生活をしていたものだ。


「ひっく……」


 気づけば、涙が溢れていた。慌てて拭うが、止まることはない。止め処なく流れ続けている。


 ――さくら。どうしたの?


 リリアの声を聞いて、さくらはわずかに目を見開いた。リリアにも聞こえてしまっていたらしい。さくらはすぐに、誤魔化すように笑顔を浮かべた。


「何でもないよ。それより次のお菓子は? はやくはやく!」

 ――はいはい。じゃあ次はこれを食べましょう。


 リリアが何かを口に入れるたびに、その味がさくらの口内にも広がる。さくらはそれを楽しみながら、自身の記憶に蓋をした。


     ・・・・・


壁|w・)レイの絡みはこの最後を書きたいがため、かもしれない。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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