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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前休暇

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「それを聞いて、どうするつもりですか?」


 じっと、父を見つめる。父の目線がわずかに上がり、そしてすぐに戻った。


「その、なんだ……。次の相手を探すための参考にしようと思っている」


 なるほど、とリリアは頷いた。リリアの次の婚約者を探すつもりだろうか。それにしてもこんな時にする話ではないと思うのだが。そう思うが、隠す必要もないものだ。

 答えようと口を開き、しかしすぐに閉ざした。よくよく考えてみれば、そんなものを気にしたことがなかったように思う。今までは王子ばかり見ていたのだから。


 ――参考程度に聞きたいのだけど、さくらは?

 ――え? 聞かれると困るけど……。優しい人、とか!

 ――ありきたりすぎて参考にもならないわね。

 ――ひどい!


 考えてみても思い浮かばない。リリアは父へと首を振った。


「すみません、お父様。思い浮かびません」

「そうか。まあ、仕方がないな。まだあれから半年も経っていないのだから……」

「ケルビン」


 母の、低い声。父が言葉を詰まらせ、すぐに目を伏せた。


「すまない。忘れてくれ」


 それきり父は無言になった。


 ――気まずい空気になったね。

 ――何? 私が悪いの?

 ――いや、お父さんでしょ。リリアは気にしなくていいからね。失恋からまだ半年も経ってないんだから、思い浮かばなくても仕方がないよ。

 ――思い出させないでほしいのだけどね。


 リリアが苦笑すると、それをどう解釈したのか周囲が息を呑んだ。それに気づかず、リリアが言う。


「強いてあげれば、ですけど」

「ん?」

「私を守れるような方がいいですね。少なくとも私が守らないといけない人は嫌です」

「うぐ……」


 何故か隣からうめき声が上がった。レイを見ると、動きが完全に止まっている。どうしたのだろうかと首を傾げて周囲を見れば、誰もがレイに対して同情するような目を向けていた。


「ま、まだ挽回できるはずだ!」


 レイが叫んで立ち上がる。そして兄へと向けて、


「クロス! 僕と勝負だ!」

「唐突ですね。稽古ですか?」

「え? あ、そうそう! 稽古しよう! 全力で! おもいっきり!」


 突然何を言い出しているのか。リリアが冷たい眼差しをレイに送ると、う、とレイが怯み、いすに座り直した。


「あの、ですね。リリアさん」

「なによ」

「僕はこれでも、剣の腕にはそれなりに自信があります。是非とも、一度見て欲しい、と言うかですね……」

「はっきり言いなさい。いらいらするわね」

「はい! クロスと試合をしたいと思うので見に来てください! 是非!」


 リリアが眉をひそめ、本当にやるつもりなのかという意味を込めて兄を見る。察してくれたようで、兄は肩をすくめた。


「レイフォード様。手加減はできませんがよろしいですね?」

「もちろん!」


 兄が本気で試合をする。珍しいこともあるものだと思う。兄は剣の腕ならこの国でも随一だ。少なくとも、大勢の人がそう評価しているのを聞いている。


「レイ。大丈夫なの?」

「はい! ですから是非リリアさんに……」

「え? 嫌よ」

「え?」


 絶句して動きを止めるレイ。思考停止にでも陥ったのか凍り付いているレイに代わり、父がリリアへと問うてきた。


「理由を聞いてもいいかな?」

「理由というほどでもありませんが……。面倒だからですね。むしろどうして私が見に行かなければならないのですか?」


 真剣な表情で父へと聞くと、父は曖昧に笑いながら何も答えなかった。周囲を見ても、誰もが頬を引きつらせている。本当に意味が分からない。


 ――あはは! さすがリリアだね! お腹痛い!

 ――何なのよ。

 ――うん。さすがにレイがかわいそうだから、見に行ってあげて。

 ――面倒ね……。まあさくらがそう言うなら、見に行きましょう。


 リリアは内心でため息をつきながらも、レイの方へと視線をやる。


「昼からでもよければ見に行くけど」

「え……? 本当ですか!?」


 レイが正気に戻り、顔を輝かせる。その勢いに戸惑いながらも頷くと、ありがとうございますと頭を下げてきた。




 昼まではティナと共に勉強をして、昼食を取ってから庭へと向かう。昼食の席に兄とレイは現れなかった。代わりにメイドから場所と時間を聞いて、リリアは庭に来ていた。


「別に貴方まで来る必要はなかったと思うわよ?」

「うん。ちょっと興味があったから」

「そうなの?」


 ティナと言葉を交わしながら庭に出ると、すでに兄とレイは準備ができているようだった。一定の距離を取って、二人は向かい合って立っている。リリアに気づくと、レイは嬉しそうな笑顔を見せた。


「来てくれてありがとう!」

「怪我をしないように気をつけなさいよ」


 レイは頷くと、兄へと向き直る。持っているものを、木刀をゆっくりと構えた。


「レイフォード様。三本先取、ということでよろしいですね?」

「うん! よろしく!」

「はい。よろしくお願い致します」


 そして。二人が地面を蹴った。




 二人が木刀を打ち合う。木刀がぶつかる鈍い音が辺りに響く。リリアはその様子を見ながら、素直に驚きを顔に出していた。


 ――お兄様と比べるとひ弱そうだと思ったから勝負にもならないと思っていたのだけど……。

 ――強いね。お兄さんが自分の力で攻める剣で、レイが相手の力を利用する剣、かな?

 ――分かるの?

 ――分かると思う?

 ――期待した私が馬鹿だったわ。


壁|w・)日曜の2回目の投下ができそうにないので、代わりに今投下してみました。

そんなわけで、土日は朝6時の投下のみになります、よー。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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