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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前休暇

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「これをいただきたいのだけど」

「は、はい! どうぞお持ち帰りください!」

「は……?」


 値段を聞きたいだけだというのに、老人は持って帰れという。理由は察しがつく。それほど自分が怖いのだろうか。リリアは小さくため息をつくと、硬貨を老人の手に無理矢理握らせた。


「え……? い、いけません! こんなにいただけません!」

「うるさいわね。本当に潰すわよ」

「……っ!」


 目を見開き、老人が絶句する。リリアはそれ以上は何も言わず、苺のかごを持ったままその場を立ち去った。




 果物の屋台でのことが伝わったのか、リリアを見る目は先ほどまでと違い明らかに敵意のあるものになっていた。怖れているわりには大胆なものだと思うが、以前のリリアならそんな視線も受け流していた。視線程度に反応すらしていなかったはずだ。

 けれど、今は。

 リリアは建物と建物の間、狭い路地に入り、そのまま歩いて行く。しばらく歩き、周囲に誰もいないことを確認して、リリアは壁にもたれかかった。

 変わるために努力をした。少なくとも自分では精一杯やってきたつもりだ。だがそれでも、まだ足りないらしい。ここにいると、自分の努力が全て否定されているような気さえする。


 ――リリア。大丈夫?


 さくらの声に、リリアは力無く笑った。


 ――大丈夫よ。少しだけ、疲れただけだから。

 ――ほんとに?

 ――ええ。行きましょうか。


 これ以上ここに留まっていてもさくらを心配させるだけだろう。リリアは体を起こし、歩こうとして、


 ――まだ足りないのは分かってるからね。


 さくらの言葉に足を止めた。


 ――なんですって?

 ――怖いよ。リリアの努力が足りないんじゃなくて、時間が足りないんだよ。確かにリリアは変わろうとがんばってる。でもそれを見てるのは、まだ学園の一部の人だけだからね。まだまだこれから、だよ。

 ――そう……。そうね。ありがとう、さくら。

 ――ん? なんでお礼を言われたのか分からないけど……。いえいえ。これからもがんばろうね。


 リリアは小さく頷くと、今度こそその場を離れるために足を動かそうとして、しかしまたすぐに呼び止められた。


「あれ? リリアさん? 何してるの?」


 目を見開き、振り返る。何故ここにいるのか、レイがいた。何をしているのか聞きたいのはこちらの方だ。丁度良かった、とレイは笑顔を向けてきた。


「迷子になりました。助けてください」


 ぽかんと、リリアは間抜けに口を開き、そして大きなため息をついた。


「何をしているのよ、レイ」

「リリアさんは休暇の間暇だって聞いたからね。遊びに行こうと思ったんだけど、色んな人に邪魔されて。ようやく抜け出したのはいいけど詳しい場所が分からなくて。彷徨った結果、ここにいます」


 なるほど、とリリアは頷いた。


 ――馬鹿だ。馬鹿がいるよ。


 さくらの笑いを堪えながらの言葉に、リリアは全面的に同意する。仮にも王族の一人がこんな軽い気持ちで、一人で行動していいものだろうか。だが、ここで出会えたことは幸運だと言えるだろう。


「アルディスの屋敷に行きたいの?」

「うん。だめ、かな?」

「私が答えていいものではないわね。とりあえず案内してあげるから、着いてきなさい」


 そう言ってリリアが歩き出すと、少しだけ距離を置いてレイもリリアの後を追ってきた。




 通りに出て、レイを従えて歩く。レイは興味津々といった様子で周囲を見回していた。自分と一緒に歩くのだからもう少し堂々としてほしいものだが、この近辺に来たことがないのなら物珍しく感じるのは当然だろうか。

 レイがいるためか、周囲の視線もいつの間にか困惑のものに変わっていた。相変わらず視線を感じるが、それほど不快なものではなくなっている。


「ここからどれぐらいかかるの?」


 レイの問いに、リリアはレイを一瞥してから答える。


「徒歩だと少し遠いわよ。馬車があるからそれに乗って帰るから。お兄様の買い物待ちね」

「へえ。何を買いに来たんですか?」

「剣、だそうよ」

「剣!」


 レイが唐突に大声を発した。嫌な予感に頬を引きつらせながら、そっと振り返る。レイの目が眩しいほどに輝いていた。


「リリアさん! 行こう!」

「一応聞いておくけど……。どこに?」

「リリアさんのお兄さんのところだよ! 僕も見たい!」


 そこまで聞けばリリアでも察する。兄と同じ人種だと。まさか、と思いレイの手を取る。レイが驚きからか凍り付くが、それを気にせずにその手を見た。


 ――剣だこ……。

 ――へえ。剣を使えるんだね。ちょっと意外。

「あ、あの、リリアさん?」

「ああ……。ごめんなさい」


 レイの手を離すと、レイは自分の手とリリアを交互に見ていた。心なしか顔が赤いような気がする。


「お兄様がどこに行ったかは私も知らないわ。大人しく馬車で待ちましょう」

「う、うん。分かった」


 どこか慌てているようなレイの様子にリリアは首を傾げるが、理由までは分からないので気にせずに馬車の方へと歩き出した。



(お兄様に)仲間ができました。


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ではでは。

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