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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前休暇

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 部屋を移動して、広めの客室にリリアたちはいた。部屋の隅にはティナの荷物が丁寧に置かれている。部屋の中央のソファに座るティナは緊張した面持ちだ。

 ティナの隣にリリアは腰掛け、対面にいる三人を見る。短い時間で老け込んでしまったように見える父、ケルビン。その隣に、見定めるような視線をティナに送る母、アーシャ。ソファに座るその二人の後ろに立って、色々と考えることを止めたらしい諦観の表情になっている兄、クロス。

 自己紹介をする。それはいい。だが何だろうか、この三人の表情は。


 ――あはは! カオスだね! お父さんがかわいそうだよ!

 ――よく分からないのだけど。私何かしたかしら?

 ――気づいてないのがまたひどい。リリア、気にしなくてもいいよ。話を進めようよ。


 リリアは内心で首を傾げながらも、さくらに従い咳払いをする。父がはっと我に返り、姿勢を正した。兄が安堵のため息をもらしたことは見なかったことにしておく。


「遅くなりましたが、ただいま戻りました」

「あ、ああ。おかえり、リリア。父としてはできれば最初に挨拶を……」

「誰のせいでしょうね」


 ぽつりと母が漏らした言葉に、うぐ、とケルビンが呻く。今度はクロスが咳払いをすると、失礼、と母が謝った。表情は変わらなかったが。


「お父様。紹介をしても?」

「ああ……」


 やはりまだ落ち込んだままのように見えるが、気にしないことにした。


「こちらが私の友人、ティナ・ブレイハです。男爵家の方です」

「あ、あの! 初めまして! よろしくお願いします!」


 勢いよく立ち上がり、頭を下げる。父たちは一瞬面食らったようだが、すぐに微笑むと座るように指示した。少し恥ずかしそうにしながらティナは席に座った。


「ティナ。この三人が私の家族よ」

「ケルビン・アルディスだ。よろしく、ティナさん」

「クロス・アルディスだ」


 先に男二人が挨拶をする。だが残り一人、母は何も言わず、じっとティナのことを見つめていた。


「あ、あの……?」


 不安そうな表情で、ティナが恐る恐る口を開く。母はそれでも何も言わず、だがしばらくして、突然表情を和らげた。


「ごめんなさい。リリアの母、アーシャ・アルディスです。よろしくお願いしますね、ティナさん」


 ティナが戸惑いを隠せず、リリアへと目配せしてくる。だがリリアにもこれはよく分からないことだ。母は初対面の者にはほとんど同じ対応をする。最初は素っ気ない態度で、そしてその後は二つに分かれる。さらに冷たい態度を取られるか、今のように物腰が柔らかくなるか。この違いはリリアも知らないことだ。


 ――うん。精霊だね。

 ――精霊? 精霊がどうしたのよ。

 ――お母さんは精霊が見えるんだよ。多分、会話もできる人だね。事前に精霊たちにお願いして、ティナのことを調べさせたんだろうね。精霊がこの人はいい人だって言ったら歓迎して、悪い人だって言ったら冷たくしてるんだと思う。


 リリアは大きく目を見開き、母をまじまじと見つめてしまう。母は、どうしたのかと首を傾げていた。


「いえ……」


 すぐに表情を隠す。リリアは精霊を見ることができない。母に聞くと、何故知っているのかと逆に問い返されるだろう。その時に何も答えられないのはあまり良くないことだ。


「お父様。テオはどうしました?」


 話を逸らすために父へと問うと、父は苦笑して、庭だと答えた。


「リリアが帰ってくる前に、と花壇を手入れしている。任せたんだろう?」


 何のことか分からずにわずかに戸惑い、しかしすぐに思い出した。アリサと共に世話をしていた花壇を弟のテオに任せていた、と。


「それは見に行くのが楽しみですね。この後に行ってみます」

「ああ、是非ともそうしてあげなさい。テオも喜ぶだろうから」


 父は頷くと、少しだけ嬉しそうな笑顔になった。




 その後は少しだけ会話をして、三人は部屋を退室していった。最後に母がティナに、この部屋を使いなさいと言った時はティナはとても驚き、こんな豪華な部屋は使えませんと恐縮していた。


「ティナさん。貴方はリリアの友人としてここに来ています」

「はい……」

「私はね、正直嬉しいのです。あの子がクリスさん以外の友人を連れてくるとは思ってもみませんでしたから」


 だから、これぐらいはさせてください。そう言って今度こそ母は部屋を退室していった。ティナは唖然としたまま呆けていたが、すぐに慌てて頭を下げた。


「…………」

 ――リリア。顔真っ赤だよ。

 ――放っておきなさい。


 さくらの軽口に、リリアは仏頂面で答えた。

 その後は特に予定があるわけではない。落ち着かなさそうにしているティナに、リリアは少しだけ可笑しそうに声をかける。


「どうしたの?」

「あ、えっと……。どれも高いんだろうなって……」


 この部屋は客間だ。ここを訪れる客人の中には泊まっていく者もいる。当然ながら、ここに泊まる者はそのほとんどが上級貴族だ。調度品に安いものを使うわけにはいかない。父はあまり気にしない人だが、それでも他の貴族に侮られないように一定の水準のものを揃えている。

 試しにソファの値段を教えてみると、ティナは驚き飛び退いた。


「ど、どうしようリリア! 座っちゃったよ!」

「別に座っただけで請求するようなことはしないわよ。気にせず使いなさい」

「でも……」


 何を言ってもティナはずっと渋っていた。このままではベッドすらも使わなさそうだ。ティナの考えが分からない。


 ――リリア。使い慣れていない人は気にするものだからね。むしろこんな部屋を用意されると、逆に休みにくいと思うよ。

 ――何を気にするのか分からないけど……。そういうものなのね?

 ――うん。


 気にすることはないと思うのだが、泊まりに来た友人が休めないとなるとリリアも不本意ではある。小さくため息をつくと、待っていなさい、とティナに告げて、部屋を出た。

 母は自室に戻っていた。リリアが部屋に入ると、母はとても驚いたように目を丸くしていた。



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