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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前休暇

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 最後に答えるのは、セーラだ。


「私も勉強、ですね」

「貴方はどうだったの?」

「…………」


 そっと目を逸らす。悪かったと言っているようなものだ。リリアはやれやれとため息をついた。


「がんばりなさい」

「はい……」


 ほとんどの者は何かしら予定があるらしい。のんびり過ごす、つまりは予定らしい予定が入っていないのはリリアとクリスのみだ。これはいつものことなのだが、何故か少しばかり罪悪感を覚えてしまう。この休暇の間に何かやってみようか、と考えようとしたところで、ティナが言った。


「ねえ、リリア。よければ私の家の宿に来ない? 歓迎するよ」


 そう提案されて、リリアは押し黙った。ティナの提案はとても魅力的だ。家族と遠出したことは何度かあるが、北の方はあまり覚えていない。行ってみてもいいとは思うが、やはり距離が問題だろう。


「やっぱり遠すぎるかな?」

「そうね。一人で行ける距離ではないわね」

「家族と来ても大丈夫だよ。結構大きな宿だから、一家族ぐらい大丈夫!」

「ティナさん。泊まる相手が公爵家というのを忘れていませんか?」


 口を挟んできたのはクリスであり、それを聞いたティナは、あ、と口を間抜けに半開きにしていた。


「公爵家を普通の部屋に泊めるつもりではありませんよね?」

「そうでした……」


 あからさまに落ち込んでしまう。それほどリリアに来てほしかったのか。自分など呼んでも仕方がないだろうに。そう言おうかとも思ったが、本当に落ち込でいるようでどうにも声を掛けづらい。どうしたものか、と考えようとすると、すぐにさくらから提案があった。


 ――行こうよ。お忍び、ということにして。さすがにお父さんはだめだろうけど、お兄ちゃんあたりを巻き込んで。

 ――無理でしょう。お兄様は私のことが嫌いなのよ?

 ――それ、本人から聞いたの?

 ――聞かなくても態度を見れば分かるでしょう。


 ここに戻ってくる前の食堂での短い会話を思い出す。ため息しか出てこない内容だ。


 ――大丈夫だと思うよ。聞いてみたら?

 ――本当に? さくらがそう言うなら、聞いてみるわ。


 さくらの言葉とはいえ、さすがに簡単には信用できない。だがそれでも、試すぐらいはしてもいいだろう。


「家族の都合が合えば、そうね、お忍びという形で行くわ」


 けれど期待はしないように、と付け加えつつもそう言うと、ティナが嬉しそうに顔を輝かせた。そこまで喜ぶとは思っておらず、思わず視線を逸らしてしまう。逸らした先ではクリスが目を丸くしていた。


「何よ」

「いえ……。何も」


 クリスは何とも複雑そうな表情をしていたが、やがて諦めたようにため息をつき、立ち上がった。


「では私はお先に失礼致しますね。リリアーヌ様、またいずれ」

「ええ」


 そうしてクリスが他の皆にも挨拶をして、扉の方へと歩いて行く。ふと、リリアは思い出したように言った。


「がんばりなさい」

「思い出させないでくれますか?」


 王子のことを、と言わなくとも通じたらしい。振り向いたクリスは眉尻を下げた元気のない笑みだった。そうして今度こそ、退室していった。


「何かありました?」


 セーラが不思議そうに聞いてくる。リリアは何もないわと首を振った。




 しばらく談笑した後、それぞれが明日の準備のために部屋を出て行く。アイラなどは長旅なのでそれ相応の準備が必要とのことだ。リリアは遠出をするとしても使用人たちが全ての準備をしてしまうので、何が必要なのか一人では分からない。全てかは分からないが、一人でしてしまうアイラはすごいと思える。

 最後に残ったのはティナだった。何かを言いたそうに、ちらちらとリリアの方を見てくる。


 ――用があるならさっさと言えばいいのに。

 ――言いにくいことなのかな? 聞いてあげようよ。

 ――そうね……。


 このままでは話が進まないのも事実だ。リリアはため息をつくと、ティナへと顔を向けた。


「ティナ。何か言いたいことでもあるの?」

「え? あ、えっと……。その……」


 うつむいて、口をもごもごと動かすばかりではっきりとした言葉になっていない。いい加減腹が立ってくる。テーブルを指で叩くと、びくりと体を震わせた。


「はっきりしなさい」


 少しばかり強い語気で言うと、ティナは小さく頷いた。


「あのね……。リリアの家に遊びに行ったら、やっぱり迷惑、だよね?」

「は……? なによいきなり」


 当然ながらリリアはともかく、家族にとっては迷惑だろう。学園内では生徒同士の問題の一つだと判断されるため、上級貴族が庶民の部屋を訪れても、逆に庶民が上級貴族の部屋を訪れても、それほど問題視はされない。もっとも、それを見た者の心の内はまた別の話になってくるのだが。

 だが学園の外となるとそうはいかない。何かあれば、家と家との問題になる。面倒事しか起こらないだろう。


「やっぱりだめだよね」


 ティナが小さくため息をつく。リリアは眉をひそめた。


 ――つまり、なに? 遊びに来たいの?

 ――そういうことだろうね。

 ――どうして? 何か目的でもあるの?

 ――いやいや、友達の家に遊びに行きたい、に理由も何もないよ。強いて言うなら、リリアのことをもっと知りたい、とか。もてもてだね!

 ――それはどうでもいいわよ。どうしましょうかね……。


 腕を組み、リリアは考える。ティナが上目遣いにリリアを見てくるが、それには気づかなかった。


壁|w・)そんなわけで、休暇の計画作成中、なお話だったりします。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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