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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前休暇

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「えっと……。リリア。どうするの?」

「どうするも何も、ここで食べればいいでしょう。わざわざ移動する必要はないわ」


 ここなら誰も何も言ってこれないでしょう、と締めくくると、なるほどとティナは納得したようだった。では早速、と弁当箱を広げていく。

 白いご飯に唐揚げとサラダが入ったシンプルな弁当だった。お箸もしっかりとつけてくれている。そう、お箸だ。

 クリスとセーラを見る。二人とも、お箸を持って戸惑っているようだった。


「どうぞ」


 いつの間にか側に来ていたアリサが、クリスとセーラに見慣れたスプーンやフォーク、ナイフを配っていく。礼を言いながらそれを受け取ったクリスは、へえ、とアリサの動きを追った。


「優秀ですね」

「あげないわよ」

「分かっていますよ」


 先ほどと同じやり取りに、クリスは苦笑しつつ頷いた。




 ティナが何をしたかったのかと言うと、本当に特に目的はなかったらしい。単純に、もうすぐ寮を離れるからその前にもっとお話を、というだけのことだった。何か特別な話でもあるのかと思っていたリリアは肩すかしをくらった気分だ。何もないのが一番いいとは分かってはいるのだが。


「三人とも、ご実家は遠いのですね」


 静かに食べ進めていたクリスが口を開いた。ティナたちが頷く。


「私はここから馬車で一週間ほど、ですね。ケイティンも方角は違いますけどだいたい同じです。アイラはもっと遠かった、よね?」

「あたしは一ヶ月近くかかるね。雨とか他の事情で、遅れたり早くなったりするけど、だいたいそれぐらいだよ」


 アイラが普段の口調でそう言う。クリスが口調について注意しそうなものだが、どうやら今は目をつぶることにしたようで、わずかに目を細めただけだった。


「一ヶ月、となると国境付近でしょうか。ずいぶんと遠くから来ているのですね」


 クリスが驚いたように言う。リリアは表情にこそ出さなかったが、内心ではとても驚いていた。今までティナの実家を調べたことは引き籠もる前に一度あったが、他の者まで調べたことはなかった。ティナの実家ですら遠いと思ったものだが、まさかそんなところから来ている者がいたとは。


「休暇のほとんどが移動で終わってしまうの?」


 セーラが聞いて、アイラは頷く。


「まあ、うん。場合によっては間に合わなくて引き返すこともあるかな。前の休暇の時は大雪とか色々あって帰れなかったし。いやあ、あの時は大変だったよ」


 そう言ってアイラは照れくさそうに笑うが、無理して笑っていることはリリアにも分かった。


 ――かわいそうだね。一ヶ月もかかる上に、帰れるかも分からないなんて。

 ――そう? わざわざこの学園に通っているなら、両親とうまくいっていないだけじゃないの? 勉強だけなら他でもできるのだし。

 ――勉強だけなら、ね。でもこの学園を卒業したっていうのは大きいんだよ。それだけで仕事を探すのは困らないから。だって、読み書き計算、魔法の知識、そういったものが保証されてるんだから。それに家族とうまくいってなかったら、わざわざ帰ろうとしないよ。


 この学園にそこまでの価値があるのか、とリリアは少し意外に思った。確かにこの学園では多くのことを教えてもらえる。だがさくらから与えてもらっている知識と比べると、どうしても見劣りしてしまう。さくらが例外だとは分かっているつもりだが、それでもやはり意外には思う。


 ――何とかしてあげたいね。

 ――必要ないでしょう。本人もそれぐらい分かっているはずでしょうし。

 ――いや、それはそうだけどさ……。むー……。


 さくらは納得していないようだったが、リリアはどうしてかいまいち分からなかった。それに、まず方法もない。徒歩で一ヶ月ならまだ改善はいくらかできるかもしれないが、馬車で一ヶ月なら他に何をしてもそうそう変わることはないだろう。

 それこそ、転移の魔法陣という便利なものがなければ。


 ――転移の魔法陣なんてあるの?

 ――ないわよ。お伽噺にあっただけよ。実在したなんて話は聞いたことはないわ。

 ――まあ、そうだよね。


 転移、となると超常現象だ。魔法陣というのは精霊たちに依頼をして、それを叶えてもらうためのものだ。いくら精霊たちでも、物理的に不可能なことはできない。


 ――転移はできなくても、例えば空を飛ぶとか、他には……。


 なにやらスイッチが入ったかのようにさくらがよく分からない呪文を唱えだした。リリアはため息をつきながら、さくらの声から意識を外す。聞いていても仕方がないものだ。


「リリア」


 ティナの声。ティナを見ると、じっとリリアのことを見つめていた。


「なに?」

「休暇の予定は何かあるの?」


 いつの間にそんな話題になっていたのか。視界の隅でクリスが笑いを堪えている。どうやらさくらとの会話に集中しすぎていたらしい。


「特に予定はないわよ。のんびり過ごそうかとは思っているけど。そう言う貴方たちはどうなの?」


 リリアが聞き返すと、ティナはすぐに答えてくれた。


「私は家の仕事の手伝いだよ。お客様をおもてなしします!」

「そう。お客様がかわいそうね」

「どうして!?」


 どういうこと、と身を乗り出してくるティナを手で押さえつけながら、他の人の予定も聞いてみる。


「私は実家に戻っても勉強、ですね。ティナが六位になっている以上、生まれの環境なんて言い訳ができませんし」


 そう言ったのはケイティンだ。


「ティナ、六位だったの?」

「そうだよ。リリアのおかげ。でも褒めてくれてもいいよ」

「調子に乗らなかったら褒めてあげても良かったけど」

「ああ……。失敗した……」


 ティナがテーブルに突っ伏す。クリスが眉をしかめたが、しかし何も言わなかった。どうやらこの部屋にいる間だけは我慢すると決めたようだ。内心で感謝するが、口には出さない。


「あたしは無事にたどり着いても、帰りがあるからな。一日のんびりしたらそのまま帰りだ」

「大変ね……。がんばりなさい」

「ああ。ありがとう」


 アイラが笑みを浮かべ、そしてふと思い出したようにリリアに顔を寄せてきた。


「食べ歩きはほどほどにな」

「分かっているわよ……」


 苦々しげに答えると、アイラは意地の悪そうな笑みを浮かべて席に戻った。


壁|w・)お部屋での会話はもう少し続きます。


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ではでは。

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