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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前休暇

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「私はこのまま相談に乗っていいものなのでしょうか。殿下のためにも、はっきりと言うべきなのでしょうか。リリアーヌ様はどう思われますか?」


 なるほど、とリリアは頷いた。クリスの言いたいことも分からないではない。王子に助言をするにしても、結ばれないと分かっていると、このままでいいのかと不安になるだろう。言わなかったことを責められるかもしれない。

 だが、その心配は杞憂だとも思う。さすがに王子もその程度のことは理解しているはずだ。こちらが何をせずとも、本人がどうにかするだろう。


「これまで通りでいいわよ。殿下もそれぐらいは分かっているでしょう」

「分かっていると思いますか……?」

「…………」

 ――あの王子だからねえ……。

 ――さくらはどう思うの?

 ――ん? 放っておこうよ。言いたくないけど、それすら気づかないのなら手に負えないよ。


 少し棘のある言い方だが、確かにその通りだと思う。さくらの言葉をそのまま伝えると、それもそうですねとクリスも頷いた。


「ありがとうございます、リリア様も私と同じ結論に達していただいて、安心しました」

「なによ。すでに決めてあるなら来る必要なんてないでしょうに」

「いえ。正直不安がありましたので……」


 そう言ってクリスが曖昧に笑う。リリアはそれ以上深くは聞かずに、紅茶のカップを持った。


「ところでリリアーヌ様、休暇のご予定は?」


 クリスが聞いて、リリアは首を振った。


「特に何も決まってないわよ。しばらくは実家でゆっくり過ごそうとは思っているけどね。クリスはどうなの?」


 そう言えば、学園に来てからクリスが休暇をどう過ごしているのか聞いたことはない。少しばかり興味を覚えて聞いてみると、快く答えてくれた。


「私も似たようなものです。ゆっくり過ごしますよ」


 あとのことはあとで考える、とのことだった。リリアと似通った予定で少しばかり頬が緩む。しかしすぐに咳払いをして誤魔化した。

 その後は二人でのんびりと紅茶を飲み続ける。時折思い出したように会話をするが、二言程度で途切れる話題ばかりだ。

 そんな時間を過ごし、そろそろ昼食の時間かと思い始めたところで、再び扉がノックされた。やはりアリサが出迎えに行く。


「リリア様。セーラ様です」


 リリアの眉がぴくりと動く。セーラとは毎朝話をするが、彼女が自らリリアの部屋を訪れることは珍しい。というよりも、初めてではないだろうか。内心で驚きながらもアリサへと頷くと、アリサはセーラを招き入れた。


「失礼致します。……え?」


 セーラがぎょっと目を剥いて固まっていた。どうしたのかと首を傾げ、セーラの視線を追う。そしてすぐに納得した。

 クリスも驚きこそ顔に出してはいなかったが、セーラを見て固まっていた。


「ど、どうしてクリステル様がここに……?」


 セーラの硬い声に、我に返ったクリスは何も答えず、リリアへと視線を投げてくる。どうするのか、と問いたげな視線だ。リリアも特に考えがあったわけではないので、頭が真っ白になっていた。


 ――さくら、助けて!

 ――へ? 助けてって……。普通に紹介すればいいと思うよ。今のセーラなら、黙っておくように言ったら例え拷問されても口を割らないと思うよ。


 例えが物騒すぎるだろうと頭の片隅で思いながら、リリアは引きつりそうになる頬を笑顔の仮面で覆い隠した。セーラへと親しげな声で言う。


「いらっしゃい、セーラ。珍しいわね、貴方が自分から来るなんて」

「あ、はい……。ご迷惑でしたか?」

「そんなことはないわよ。アリサ、紅茶の用意を」


 アリサがすぐに一礼して、紅茶の準備を始める。リリアが手招きすると、おずおずといった様子でセーラがリリアの側まで歩いてきた。そのいすに座りなさい、とクリスの隣を指し示すと、セーラの頬が引きつった。


「あ、あの……。その、ですね……」

「心配しなくてもいいわよ。別にクリスと対立しているわけではないから」

「え……?」


 セーラが驚きの声を漏らし、クリスへと振り返る。クリスはクリスで怪訝そうに眉をひそめていた。


「クリス。心配しなくてもいいわ。この子は信用できるから」

「そう、ですか……。リリアーヌ様がそう仰るのでしたら、信じましょう」


 あっさりと納得してしまった。少し説得が必要かとも思っていたので拍子抜けだ。セーラの方が困惑したままになっている。


「セーラ。一先ずこの場ではクリスのことは信用しなさい。今はそれでいいから」

「はい。分かりました」


 こちらも即答。やはり説得を考えていただけに、リリアの方が訳が分からない。


 ――信用されてるんだよ。がんばってきた結果だね。

 ――むしろ不安にしかならないのだけど。


 だがさくらが納得しているのだから、今は問題はないだろう。そう自分に言い聞かせ、話を戻すことにする。


「それで? セーラの用は?」

「いえ……。ティナさんから、後で向かうから先に行っておいてください、と昨日のうちから」

「私は何も聞いてないのだけど……」


 わずかに戸惑いながら、まさかクリスも、と視線を投げる。しかしクリスは、少しだけ寂しそうに笑いながら首を振った。


「私は違います。まあ、あの子とはそれほど親しくしておりませんから」


 確かにクリスはティナと親しいわけではない。なら聞くだけ無駄だろう。ティナはどうしたかったのかと考えようとしたところで、三度扉がノックされた。今回もアリサがすぐに扉を開け、そして告げる。


「ティナ様、アイラ様、ケイティン様です」


 クリスの眉尻が吊り上がった。


 ――どうしたの、この子。

 ――多分、以前忠告したのにどういうつもりだ、とかそんな感じじゃないかな。

 ――ああ、なるほど。


 納得はするが、間に立つのも面倒だ。リリアはクリスへと少しだけ厳しい声で言った。


「クリス。気持ちは分かるけれど、抑えなさい」

「そうですね。失礼致しました」


 すぐにクリスが表情を取り繕う。リリアはそれを確認してから、アリサへと頷いた。

 アリサがティナたちを招き入れる。ティナたちもクリスを見て、驚いて目を丸くしていた。


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