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「まさか、あり得ない!」
教室で、王子の叫び声が響いた。誰もが王子に視線を向け、次に王子に相対するリリアに目を向ける。何となく理由を察したのか、誰もがそっと視線を逸らした。
「ですから言ったでしょう、殿下。実力だと」
「く……!」
二人の手にあるのは、成績表だ。リリアの持つそれには一の数字が書かれ、王子の持つそれには二の数字がある。王子はその結果に不満があるらしい。
「私は……今までにないほど勉学に時間を費やしたのだぞ……。それが何故、他者にまで教えているリリアーヌに負けてしまうのだ……!」
――すごいショックを受けてるみたいだね。かわいそうな王子様。
そう言うさくらの声は笑いを堪えて震えている。一応和解をしたというのに、どうやらさくらは本当に王子のことが嫌いらしい。ならばさくらのために一言添えておいてもいいだろう。
「殿下。答えは分かりきっています」
「な、なんだと……? どういうことだ!」
「恋に溺れていた方に私が負けるとでも?」
にっこりと。満面の笑顔でそう言ってやる。殿下はしばらく呆然としていたが、やがて怒りに我を忘れるでもなく、理解を示したように目を逸らした。リリアが小さく咳払いをすると、王子が慌てて怒りの表情を作り、リリアへと叫んだ。
「私がいつ恋になど溺れたのだ! 見ていろ、次はこうはいかんぞ……!」
――あはは! よくある悪役さんのセリフみたいだ!
さくらは本当に楽しそうだ。リリアも自然と上機嫌になり、ついそのまま言ってしまった。
「殿下。言っていることが悪役のそれですよ」
ぶふ、と王子の側で誰かが噴き出した。そちらを視線だけで見てみると、グレンが口を押さえて必死に笑いを堪えている。お前が笑ってどうする、と思いながらも、口には出さない。
「くっ……!」
王子はそれ以上は何も言わず、自分の席に座ってしまった。何も知らずに見れば、口論では不利と悟った王子が勝負を避けたように見えるだろう。
王子の評価を落としてしまったように思うが、それほど問題でもない。この王子の評価がむしろ高すぎたほどだ。どれほどの英才教育を受けていようと、これまで一位を維持し続けた王族などこの王子ぐらいのものだろう。それだけ努力を続けていたと分かる。
その努力を粉々にしてしまったのが自分なのだが。
「恋か……。そうか、たしかに……。もう少し時間を考えて……」
王子がぶつぶつと独り言をつぶやいている。余計なことを言ってしまったようだと思いつつも、リリアもそれ以上は何も言わないことにした。
「アルディス」
呼ばれて、教師の方へと振り返る。困ったように苦笑していた。
「これから試験の解説だが……。お前には必要ないな」
「はい」
「じゃあ気をつけて戻るといい。明日の準備をしておくように」
「はい。ありがとうございます」
しっかりと教師に頭を下げる。教師はわずかに驚いたように目を丸くした後、少しだけ嬉しそうに頷いた。
今日は学期末の試験だ。明日からは休暇に入り、それぞれ実家に戻ることになる。当然ながらリリアも例外ではなく、明日は屋敷に戻ることになっていた。寮とはしばらくお別れだ。
――寂しくなるね。せっかくみんなと仲良くなれたのに。
――そう? 久しぶりにゆっくりできるじゃない。
――むむ……。そうかもしれないけど……。
まあ休みも必要か、とさくらがため息をついた。
自室に戻ると、すでにアリサが紅茶を用意していた。驚くリリアに、アリサが言う。
「前回の試験の時にとても早くお戻りになられたので。予想通りでしたね」
どうぞ、とアリサがいすを引く。リリアは苦笑を浮かべながら、いすに座った。
「試験の結果はどうでしたか?」
「一位よ」
「今回もですか! すごいですね……」
アリサが自分の事のように喜んでくれる。それを見て、ようやくリリアも現実味がわいてきた。叫びそうになるのを堪え、ゆっくりと息を吐く。しかし頬が緩んでしまうのはどうしても止められなかった。
「リリア様、ティナ様から預かり物があります」
「ティナから? 直接渡せばいいのに」
首を傾げながらも、アリサが持ってきた紙の箱に目を落とした。もうすっかり見慣れた箱で、そしてそれを見たさくらの反応もいつも通りだ。
――苺大福だ! さすがティナだね女神様だ!
――安すぎるわよ本当に……。
内心で苦笑しつつ、アリサを見る。アリサはすぐに頷いて説明してくれた。
「今朝方、リリア様が出られた後にこれを届けに来られました。一位のお祝いに渡してほしい、と」
「今朝方って……。まだ成績は分からなかったでしょうに」
「ええ。ですが疑っておられないようでしたよ」
リリアは少し目を見開き、そしてそっぽを向いた。アリサがどことなく嬉しそうに微笑む。いかにも分かっていますとでも言いたげなアリサに、リリアは苦虫を噛み潰したような表情になった。
――リリア! 苺大福!
――はいはい。
ため息をつきながら、苺大福を口に入れる。いつもの味だ。さくらが機嫌良く鼻歌を歌い始めた。
――前々から思っていたのだけど。
――ん?
――その歌はさくらの故郷の歌? 私は聞いたことがないのだけど。
――うん。そうだよ。今度リリアにも教えてあげる。
だから一緒に歌おうよ、とさくらが笑い、リリアも断る理由はないので頷いておいた。
色々と片付けた?のでほのぼのモードに入りましょう。
というわけで、少しばかり時間は流れて、休暇編?です。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。




