表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/259

69

 明日の準備を済ませ、ベッドに横になるとすぐに意識が遠のいた。少しだけ覚えのある感覚に、そう言えば今日か、と思い出す。

 そして気が付けば、リリアは黒い世界にいた。


「生リリアだ!」


 そして後ろから抱きついてくるさくら。予想通りの行動であったため避けることはできたが、抵抗はしなかった。


「さくら。暑苦しいわよ」

「もう少し」

「仕方ないわね……」


 そう言うリリアの頬は、照れくさそうに緩んでいる。人肌が恋しい、というさくらはリリアに遠慮なく抱きついてくるが、それが少しばかり恥ずかしい。だが嫌われていないことを考えると、不快とは思えなかった。

 しばらくさくらに抱きしめられたまま、リリアは目の前の桜をのんびりと見つめていた。本物の花ではないと分かってはいるが、綺麗に咲き誇るこの木がリリアは好きだった。

 やがて満足したのか、さくらはリリアを解放した。だが何か思うところでもあるのか、リリアの手は握ったままだ。気にすることでもないので、何も言わずにそのままにさせておいた。


「それじゃあリリア。ちょっと真面目な話、しようか」


 真剣な表情でさくらが言って、少し驚きながらもリリアは頷いた。


「まずは、そうだね。第一目標が達成されました!」


 やったね、と手を上げるさくら。手を繋いでいるので自然とリリアも片手を上げる格好になる。


「第一目標が何なのか分からないのだけど」

「えっとね。とりあえずはリリアが変わろうとしていることを認めてもらうこと、かな。王子が最難関だと思っていたけど、案外うまくいくものだね」


 良かった良かった、とさくらは一人満足そうに頷いている。そういったことは一切聞いていないので、リリアにとっては意味が分からないことばかりだ。それを察したのか、さくらはリリアを見つめ、言う。


「いきなり全面的に認められるわけがないからね。一歩ずつしっかり進んでいこうって決めていたんだ。で、その第一目標が達成されたんだよ」

「分かったような分からないような……。それじゃあ、まだ終わりじゃないのね?」

「うん。まだリリアを認めていない、というより怖れている人はいっぱいいるからね。それに、王子たちもまだリリアを認めてくれたわけじゃない。リリアが変わろうとしていることを認めてくれただけ。だから油断しちゃだめだよ。変なことして台無しにしないでね」


 じっと、真剣な眼差しでリリアを見つめてくる。知らず知らずリリアは生唾を呑み込んだ。しっかりと頷いて、気をつける、と言うと、ようやくさくらに笑顔が戻った。


「うん! 今のリリアなら大丈夫! だからこのままがんばろう!」

「ええ。よろしくね、さくら。私は貴方を信じるから」


 しっかりとそう告げると、さくらは照れたようにはにかんだ。


「ところでさくら。一つ聞きたいことがあるのだけど」

「なにかななにかな! 何でも答えちゃうよ!」

「じゃあ、そうね。貴方の目的は?」

「……っ!」


 さくらが大きく目を見開いた。笑顔が消え、ただただ驚愕に目を丸くする。それを見たリリアは苦笑してしまった。そんな反応をすればやはり何か目的があるのだと分かってしまうだろうに。


「あのね。その……。私はリリアを助けたいだけだよ?」


 未だに惚けようとするさくらに、さすがに苛立ちを覚え、さくらを睨み付けようとして、


「…………」


 さくらの顔を見て、口を閉ざした。

 リリアでもさくらに対しては恩を感じている。例えさくらに何か目的があるとしても、それは変わらない。全面的に信じると、決めている。

 そのさくらが、今にも泣きそうなほどに、苦しそうに表情を歪めている。そんなさくらを問い詰めることは、リリアにはできなかった。

 リリアはゆっくりと息を吸い、吐き出す。そして小さく肩をすくめた。


「言えない、ということは分かったわ」

「ん……」

「今はそれで十分よ。さくらが言いたくなった時でいいから」

「うん……。ごめんね、リリア」


 普段のさくらからは想像もできないほどに落ち込む様を見て、リリアは狼狽してしまう。こんな顔をさせるつもりではなかったのに、と。


「私の方こそごめんなさい。本当に無理に聞きたいわけではないから。気にしなくていいのよ」


 そう言って、さくらを優しく抱きしめてやる。さくらは一瞬驚いたように息を呑んだ後、続いて嬉しそうに笑った。


「恥ずかしいよ?」

「誰もいないわよ」

「それもそうだね! じゃあリリアを堪能しちゃう!」


 そうして前回と同じようにじゃれついてくるさくらの相手をしながら、リリアは横目で桜の木を見た。その根元を。そこで光る、黒い何かを。


「…………」


 少しだけ気になるが、リリアは首を振った。不本意ながら先ほどさくらを追い詰めてしまったばかりだ。今は何も見なかったことにしよう。あれも、いずれさくらが教えてくれるだろう。


「いい加減しつこいわよ!」

「あはははは!」


 楽しげにはしゃぐさくらの相手をしながら、残りの時間はずっとそうしてさくらと遊んでいた。


     ・・・・・


 約束の時間が経ち、リリアが手を振って消えていく。そうしてリリアがここから去り、眠りに落ちると。

 世界から急速に色が消えていく。あれだけ咲き誇っていた桜も、小さな光を発するものも、全てが黒に染まっていく。そうしてさくらの見る世界は全てが黒に支配された。

 黒。黒。全てが黒。何も見えない黒の世界。


「大丈夫……。まだ、大丈夫」


 リリアと過ごした時間を振り返りながら、さくらは黒い時間を堪え忍ぶ。この場所で楽しそうに笑うリリアを思い浮かべながら、さくらは笑った。


「任せてね。ちゃんと助けてあげるよ……」


 そう。


「最後まで」


 あは、とさくらの笑い声が、孤独を耐える少女の笑い声が黒の世界に吸い込まれていった。



一章っぽいものはこれで終わりです。区切りのいいところ、ということで。

あとがきの続きは活動報告にでもぶち込みましょう。


明日からは3回ほど別視点を投下します。

明日はさくら。彼女の生前のお話です。始まりの前の終わりのお話、です。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] メリバな予感もちょっとありつつ 高位貴族は怖がられる部分も大事だと思う。 現代もさ、いるじゃん? 他人とのプライベートゾーンがない人。悪い意味で。 友達が居ないジャイアンというか。 身分…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ