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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期
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 そんな生活が一週間続いた。さくらからは多くのものを学んだ。無論、一週間程度で全て教わることなどできるはずもない。ただこれ以上学校を欠席するわけにもいかない、というだけだ。今後は起床時や就寝前など、少しでも空いた時間で教わっていくことになる。

 リリアは久しぶりに学校の制服に袖を通した。白を基調としたセーラー服だ。


 ――前から気になってるんだけど、この服っていつ頃からあるの?

「歴史のことを聞いているのなら、百年以上続く伝統よ」

 ――ふうん……。やっぱり私以外にもいたってことかな……。


 さくらの言葉にリリアは眉をひそめた。まるでさくらと似通った存在が過去にもいたかのような言い方だ。だが確かに、過去にそういった存在がいなかったとは断言できない。

 さくらの存在を、リリアは証明できないのだから。

 着替え終えた後、さくらは朝食を取るために食堂に向かった。

 食堂にはすでに家族全員が揃っていた。全員の視線がリリアへと向き、リリアが制服を着ていることに皆の目が丸くなる。その反応を少しだけ気持ちよく感じながら、リリアは自分の席についた。


「リリア。学校に行くのか?」


 そう聞いてきたのは父だ。リリアは頷いて答える。


「はい。今日から寮へ向かいます。ご心配をおかけしました」


 リリアがそう言って頭を下げると、父がぽかんと間抜けに口を開けた。そんなに意外かと心外に思いながらも、さくらが忍び笑いをしていることに気が付き小さくかぶりを振った。


「しかしそんなに急では馬車の手配が……」

「ご心配なく。お父様のお手を煩わせるわけにはいきませんから、こちらでしておきました。実際に動いてくれたのはアリサたちですけど」

「そ、そうか……。でも報告とか……いや、いいんだけど……」


 肩を落として落ち込む父。威厳も何もあったものではない。こんな人だったかと不思議に思いながらも、テーブルに朝食が並べられたので考えないことにした。


「さて、いただこう。その前に……。クロス! いい加減その書類を置け!」


 父の怒号に思わず首を竦めてしまう。隣、といっても少し離れているが、兄を見ると、ずっと何かしらの書類を睨み付けるようにして読んでいた。


「クロス!」


 父の再度の怒声。兄は父を一瞥すると、小さく舌打ちをして書類を手元に置いた。舌打ちに父が反応するかと思ったが、どうやらそれは聞かれなかったらしい。朝から騒がしい人たちだ、とリリアは他人事のように思う。


「さて……。ではいただこう」


 食前の祈りを済ませ、リリアは目の前のパンを手に取った。



 朝食の間、さくらはとても機嫌がいい。リリアが聞いていることは分かっているだろうに、いつも鼻歌のようなものを歌っている。音程を外しているというわけではなく耳障りではないので、その件を注意したことはない。ただどうしてそんなに機嫌がいいのか聞いたことはある。


 ――美味しいごはん。


 とても短い答えだったが、それ故に分かりやすいものだ。リリアと感覚を共有しているさくらは、リリアが美味しいものを食べているとさくらも幸せな気持ちになるらしい。

 その時の会話をぼんやりと思い出していると、それは起きた。


「クロス! いい加減にしろ!」


 再びの父の怒声。うるさい人たちだ、と思いながら兄の方を見る。兄はまた書類を手を取り、眉間にしわを寄せていた。


「食事の間ぐらい仕事をするなと何度言えば分かる!」

「お言葉ですが、父上。これは早急に片付けなければならないものです。この書類の通りであるならば、あの者は我が家の金を不正に使用したことになる。食事など後回しにするべきでしょう」

「食事の時間でどうにかなる問題でもないだろうが」

「甘いですね、父上。不正に繋がるものなのですから、早急に片付けるべきです」


 見せしめのためにもね。

 兄の最後の言葉に、父が渋面を作った。どうやら父と兄には考え方の相違があるようだ。


 ――まあ私には関係のないことね。

 ――リリア。止めないの?

 ――あら。止めた方がいいの? 貴方がそう言うなら、やってはみるけど。


 そう問うたが、さくらの答えは分かっている。ここで止めるべきだとさくらが判断したのなら、リリアに聞いてくる前に止めた方がいいと進言してくるはずだ。


 ――言わないよ。だってどうせ言っても、女は口を出すなとか言うだろうし。

 ――でしょうね。簡単に想像できるわ。

 ――うん。私たちは学校の準備をしようよ。準備が終わったら少しでもお勉強。

 ――はいはい。


 リリアは父と兄を一瞥してから、母へと視線を移す。母はその視線に気が付くと、リリアの考えを察したのか苦笑して頷いてくれた。その母に小さく頭を下げて、リリアは席を立つ。舌戦を繰り広げる父と兄はそれに気が付かない。


「姉上。僕も行きます」


 弟、テオがおずおずとリリアの袖を掴んだ。リリアはわずかに顔をしかめながらも、さくらに注意されてすぐに笑顔を貼り付けた。この一週間で作り笑いも上達したものだと自分でも思う。


「いいわよ。行きましょうか」

「はい」


 テオも席を立ち、扉に向かおうとしたところで、テーブルに置かれた書類が目に入った。


 ――あら……。口論以前の問題じゃない。


 何に出費して、どういった収入があったのか、そういったことが書かれている書類だ。項目ごとに分けられていないがためにかなり複雑な内容となっている。これでは計算間違いをしてくださいと言っているようなものだ。

 事実、この書類を作った者も確認した兄も間違っているのだから。

 リリアは仕方がないと小さく吐息を漏らし、口を開いた。


「お兄様」

「なんだ。女が出しゃばるなよ」


 いきなりな物言いに思わず眉をしかめてしまう。父も兄の言葉に不快感を覚えたようで口を開こうとしていたので、リリアは口論に巻き込まれる前にと言い逃げをすることにした。


「私も急ぐ身ですので、一つだけ。ここと、ここと、ここ。計算を間違えています」

「何を言って……」


 兄が書類に視線を落とす。しばらく黙り込み、そして驚愕に目を見開いた。


「では失礼致します」


 リリアはそう言って頭を下げると、食堂の扉へと向かう。最早父と兄の口論になど興味はないので、テオを連れてそのまま部屋を出て行った。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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