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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

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 ティナの様子を窺うと、ティナも紅茶に口をつけていた。どうやら話題を逸らすことはできたらしい。その場しのぎにしかならないが、リリアの目の前で不機嫌でいられるよりはましだ。というよりも、あとは王子の問題でもある。約束は果たしたのだからあとは自分でがんばればいい。

 そう言えば、と思い出す。王家主催の夜会の招待状が届いていたが、ティナはどうだったのだろうか。さすがに王子も同じ過ちは犯していないと思いたいが、念のために聞いてみることにした。


「ティナ。明日は夜会があるのだけど、まさか招待状なんて届いていないわよね?」

「…………」


 ティナが目を逸らす。それを見た瞬間、リリアの眉尻が吊り上がった。


「届いているの?」

「あ、あはは……」

「あのば……! 人は……」

 ――馬鹿って言いかけたよね。

 ――あの馬鹿何を考えてるのよ……!

 ――んー……。どうなんだろうね。


 ティナがどれだけ迷惑を被るのか理解していないのか。リリアは怒りでどうにかなりそうになる気持ちを必死に抑えつけ、さくらに促されてゆっくりと深呼吸した。一回、二回、三回とやる間に少しだが気持ちが落ち着いてくる。ある程度まで落ち着いたところでリリアはテーブルを指で叩いた。


「ティナ」

「は、はい! 何でしょう!」

「ん……? どうしてそんなに緊張しているの?」


 首を傾げて問いかけると、ティナは頬を引きつらせて目を逸らした。その反応からリリアが何かをしたのかもしれないが、思い当たるものがない。そう思っていると、さくらが笑いを堪えながら教えてくれた。


 ――リリア。顔がすごく怖いよ。ティナも怖がるよ。

 ――ああ……。気をつけるわ。


 落ち着いたつもりではあったが、どうやら表情は隠せていなかったらしい。少しだけ反省しつつ、笑顔の仮面を貼り付けた。そうしてティナに笑いかけると、それでもティナは不安そうにしていた。


「ごめんなさいね。ティナ、一つお願いがあるのだけど」

「うん……。なに?」

「その招待状を持ってきてくれる? 殿下と少しお話をしてくるから」


 ティナは逡巡していたようだったが、リリアが引き下がらないことが分かったのだろう、素直に頷いて退室していった。

 そして少し待つと、招待状を持ってティナが戻ってきた。


「ありがとう。貴方はもう部屋に戻っていてもいいわよ。明日の夜会には出席しなくても大丈夫だから」


 そう言うと、ティナは眉尻は下げたままだったが、笑顔を浮かべた。


「うん……。ごめんね、リリア。私だとどうしても断れなくて……」

「気にしなくていいわよ。気をつけて戻りなさい」


 ティナは最後に、無理しないでね、と心配そうに言いながら、退室していった。それを見送って、さらにしばらくいすに座って紅茶を飲み、やがてゆっくりと息を吐き出して立ち上がった。


 ――さあ、行きましょうか……。

 ――おー!


 さくらはとても楽しそうに返事をしてくれる。だがそのさくらの声が、怒りからかわずかに震えているのが分かった。どうやらさくらも思うところがあるらしい。さくらのそんな声を聞くと、リリアの怒りも再燃してきた。

 リリアはゆっくりと扉に向かう。途中でアリサが呼び止めようとしたのかリリアへと振り向いて、何故か凍り付いていた。

 そうしてリリアは誰にも邪魔されることなく、部屋を出た。

 後にアリサは語る。あれはリリア様の姿をした鬼だった、と。




 本来なら訪問する旨を誰かに伝えてもらうのが礼儀なのだが、そんなことは知ったことではない。リリアは笑顔のまま廊下を歩く。途中何人かとすれ違ったが、誰もがリリアを見るなり大きく距離を取って、リリアが通り過ぎるまで直立して姿勢を正していた。

 今のリリアには些細なことでも関わりたくないのだろう。それが分かるさくらは笑いを堪えるのに必死のようだ。ちなみにセーラともすれ違ったのだが、


「あ、リリアさ、ま……」


 尻すぼみになり、そっと道を空けていた。

 少し歩き、王子の部屋にたどり着く。立場故か、部屋の扉の側には二人の兵士が周囲に目を光らせていた。


「おや、リリアーヌ様ではありませんか」


 兵士が意外そうな声を出した。引きこもる前ならともかく、今ではほとんどこの場所には来ていないので珍しく思ったのだろう。リリアは兵士へと笑顔を向けた。


「殿下にお目にかかりたいのですが、取り次ぎをお願いできますか?」

「……っ!」


 兵士が短く息を呑み、すぐに恭しく頭を下げた。まるで悪鬼羅刹を見たかのような反応に少しばかり不愉快になるが、兵士は素直に扉をノックしてくれたので良しとする。


 ――いや悪鬼羅刹の方がまだ可愛いよ。


 さくらがそう呟き、リリアがそれに文句を言おうとしたところで、扉が開かれた。


「何か?」


 メイド服を着た女が顔を出した。兵士を見て、そして次にリリアを見て、驚愕で目を見開いた。何をそんなに驚いているのか、笑顔を作って彼女に向けると、勢いよく扉を閉められた。


「…………」


 気まずい沈黙が流れる。リリアの笑顔の仮面がはがれ落ちて、それを見た兵士二人が思わず一歩後退っていた。


「ふ……」


 リリアの口から声が漏れる。


「ふふ……」


 無表情のままに、笑いの声を。


「ふふふ……」


 そうしてリリアは部屋の扉に手を触れようとして、


「すまない、私の使用人が失礼を……うお!?」


 王子が顔を出して、リリアの表情を見て大きく後ろに下がっていた。


恋愛馬鹿がそう簡単に直るはずもなく。ついにリリアがブチギレました。

ある程度和解したけど、むしろある程度とはいえ和解した故に、遠慮などありません。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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