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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

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「リリアとリリアーヌ、そのままだろう」

「うぐう……」

「少し調べれば、私が一部の方からリリアと呼ばれていることは分かると思うのだけどね」

「ぐふう……」


 レイは床に膝と両手をついて項垂れた。がんばれ若人、とさくらが楽しそうに言うが、当然ながらリリアにしか聞こえない。リリアは表情を和らげると、席を立った。


「それでは殿下。お先に失礼しますね」

「ん? ああ……。いや、待て」


 きびす返して扉へと歩こうとしたところで、リリアは動きを止めた。まさか呼び止められるとは思わなかった。立ち上がったレイも不思議そうに王子を見ている。


「リリアーヌ」

「はい。何でしょうか?」

 ――話すことなんて何もないでしょうに。何なのよ。

 ――どうどう。落ち着こうね、リリア。

 ――分かってるわよ……。


 内心でため息をつきながらも、リリアは笑顔を貼り付けておく。王子はそんなリリアをしばらく見つめ、やがて複雑そうな表情を浮かべた。


「多くの者からお前は変わったと聞いたが……。本当に、変わったのだな。レイフォードを助けているのを見た時は驚いた」

「変わろうとは思っておりますが、変われているかはまだ分かりませんね」

「いや、変わったよ。お前は変わった。良い意味でな」


 そう言って王子は優しげに微笑んだ。王子のそんな表情を見たのは何年ぶりだろうか。驚きよりも困惑が勝ってしまい、リリアは何も返事をすることができない。


「噂には聞いていたけど、そんなに酷かったの?」


 そう聞いてきたのはレイだ。王子が頷いて答える。


「酷い、なんてものではなかったな。職を失った者までいるほどだ。まあ、父上とアルディス公爵殿で支援はしたようだが」


 王子のその話を、リリアは無表情の仮面でもって聞いていた。当時、リリアにはそこまでしたという自覚はなかった。職を追われ、家を潰され、そういったことがあったと知ったのは、さくらに教えてもらったのが初めてだ。

 だからこそ。リリアは王子の今までの対応について、文句は言っても仕方がないとは思っていた。そこまで好き放題した過去がある以上、簡単に信じてもらえなくて当然なのだから。


「そんなにだったのか……。僕が会った時は最初から優しかったよ。言い方はきつかったし厳しかったけど、しっかり勉強を教えてくれたしね」


「正直、その話がなければ私も意見を変えることはなかっただろうな。今まで聞いた話は、全て私の知り合いだとリリアも知っている者たちばかりだ。私に話が及ぶように動いているだけだと思っていたよ」


 今考えれば失礼なことだ、と王子が苦笑する。リリアは少しずつ落ち着いてきた思考をまとめながら、口を開いた。


「あら。実はレイを王子の知り合いと知っていたかもしれませんよ」

「先ほどのお前の反応は自然なものだったよ。あれが演技とは思えない。まあ……。本当に演技だったとしたら、私もその程度を見抜けない人間だったということだ」

「ではその程度の人間ですね」

「お前は本当に厳しいことを言うな……」


 王子が呆れたように言って、聞いていたレイは笑いを堪えていた。王子が咳払いをして、続ける。


「だがな、リリアーヌ。申し訳ないが、私はお前に対する態度を変えるつもりはない」


 リリアがわずかに眉をひそめると、さくらが教えてくれた。


 ――周囲の、特に被害を受けた人の友達とかは納得しないだろうからね。

 ――どういうこと?

 ――周囲の人は納得しない。文句を言いたいけど公爵家のリリアに言えるはずもない。でも自分たちは言えないけど王子がリリアに厳しくしている。王子が自分たちの代わりにリリアを責めてくれる。一先ずはそれで納得しよう。そんな感じ、かな? それでも納得していない人は大勢いるかもしれないけど、リリアに対する不満はすごく抑えられていると思うよ。

 ――よく分からないわね。言いたいことがあるならはっきり言えばいいじゃない。

 ――それができれば誰も苦労はしないと思うよ。


 リリア自身は今の説明で全て納得できたわけではなかったが、あながち間違ってもいないのだろう。王子へと笑顔を向けて、


「畏まりました。これは私の今までの罪でしょう。他の大勢より殿下一人で責めてくれる方が私としても気が楽です」

「ああ……。理由も察してくれたか。本当に変わったものだな。私よりも良い成績を取っただけはある」

「あんなものは偶然ですよ。ところで殿下はどうだったのですか?」

「二位だ。今回はお前にしてやられたが、次はこうはいかんぞ」

「あら。楽しみにお待ちしておりますわ。返り討ちにして差し上げます」


 うふふとリリアが笑い、はははと王子が笑う。二人とも口元は笑っているのに目は笑っていないという有様だ。レイが怯えて頬を引きつらせていたが、何も言えるはずもなく静かに見守っていた。

 ふと王子が真剣な表情になった。リリアが首を傾げると、王子はしばらく悩んでいるような素振りを見せた後、よしと頷いてリリアを見据えた。


「リリアーヌ。もしも周囲から理解を得ることができたのなら。その時は私に協力してほしい。この国を良くするために、私を支えてほしい」


 リリアが目を見開き、おお、とレイが声を上げる。何故かさくらが不機嫌になったのが分かったが、その理由は分からない。リリアは少し考え、苦笑を持って答えた。


「殿下。その言い方だと誤解されますよ」

「は? 何にだ?」

「愛の告白に」


 今度は王子が絶句し、目を見開いた。どうやらその可能性を考えなかったらしい。


 ――良かった。リリアが勘違いしないで。

 ――さすがに貴方がそこまで不機嫌になると分かるわよ。口で言えばいいのに。

 ――ん……。ちょっといらいらしちゃって。ごめんね。


 謝罪を求めたわけではなかったので、リリアは、そういうつもりじゃないわ、とだけ答えておいた。


「待て、そういうつもりで言ったわけではなくてだな……!」

「分かっていますよ、殿下。言葉通りの意味だと理解しております。今はまだはっきりと言えませんが、考えておきます、とだけ」

「そうか……。色よい返事を期待している」

「期待しないでください。私は貴方のことが嫌いですから」


 笑顔で、しかしはっきりとそう言うと、王子は面食らったように目を丸くし、そして自嘲気味に笑った。


「私にも非があったことは自覚している。周囲から認められ、かつお前が私を許せたら、その時は、協力してくれ」

「はい。考えておきましょう」


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ではでは。

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