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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

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58

「何をやっているのかしら?」


 リリアの声が廊下に響く。低い、とても低い声だ。ひっと周囲から悲鳴が漏れるが、そんなことはどうでもいい。リリアは静かに、目の前の五人を見据えていた。


「な、何だよお前……」


 大柄な男子が震えた声を出す。どうやらリリアのことは知らないらしい。そのことに少しだけ驚くが、それもやはり、どうでもいいことだ。


「ば、ばか。リリアーヌ様だよ。リリアーヌ・アルディス様」


 寄り添う女が耳打ちする。廊下が静まり返っているせいでリリアにも聞こえていたが。


「リリアーヌって……。あ、あの……?」


 リリアの顔は知らなくても悪名の方は知っているようだ。本来なら悪名をどうにかしたいのだが、今回ばかりは利用する。



「リリアさん……?」

 レイのか細い声が届く。小さな声だったのでリリアにしか聞こえなかったようだ。リリアは一瞥すらくれずに、じっと大柄な生徒を見つめていた。


「何だよ、公爵家とか関係ないだろ! 何しにきたんだよ!」


 リリアの目が細められ、周囲の四人が顔面蒼白になった。リリアの悪名を少しでも詳しく知っているなら、こんな言葉は吐けないはずだ。


「私はただここを通りたかっただけなのだけど……」


 リリアの口角が吊り上がる。とても楽しげな笑みだが、当然ながら安堵できるようなものではない。


「貴方は誰に対してそんな口をきいているのかしらね?」


 リリアは大柄な生徒へとゆっくりと歩いて行く。レイと同学年ならリリアよりも年下のはずだが、さすがは男子というべきか、体格はリリアよりもずっとしっかりしている。だが、それでもすっかり怯えきって震えてしまっていた。


「いえ、あの……。おれ、は……」

「どうやら貴方たちはこの子をいじめていたらしいけど……」

「そんな……おれたち、ただ、あそんで……」

「あそぶ? なるほど、あそびね」


 リリアは納得したように頷いた。目の前の五人が何度も頷くのを見て、リリアは優しく微笑み、


「では私と遊びましょうか」


 ぴたり、と五人が動きを止めた。五人の表情が絶望に染まる。さて何をさせてあげようかしら、と笑いながらゆっくりと近づいていき、


「何をしている」


 五人の奥から声が届いた。その声にリリアは内心で舌打ちをしてしまう。

 王子が歩いてくるところだった。王子の側には少し年下に見える生徒と、リリアと同じ教室の生徒が一人ずつ従っていた。


 ――失敗したわね……。


 何も知らずにこれを見たなら、間違いなくリリアが悪者だろう。リリアですらそう思う。せめてレイだけは保護しなければと考えを巡らせようとしたが、さくらは忍び笑いを漏らしながら言った。


 ――大丈夫だよ、リリア。

 ――大丈夫って……。何がよ。


 内心で首を傾げるリリアの目の前で、王子は当事者となっている七人を順番に見ていく。希望を得たかのように表情を輝かせる五人と、リリア、そして最後にレイ。よく分かった、と言ってリリアに厳しい視線を向けた。


「リリアーヌ」

「何でしょうか?」


 きたか、と内心で身構える。しかし王子の言葉は予想とは違うものだった。


「お前の隣にいる少年をこちらに連れてきてくれ。その者たちと一緒にいては気が休まらないだろう」


 リリアが大きく目を見開き、絶句する。さくらから声をかけられてすぐに我に返ったが、ずいぶんと間抜けな顔をさらしてしまった。リリアはすぐに表情を消し、レイへと手をさしのべた。


「立てるわね?」

「あ、はい……」


 リリアの手を取り、レイが立ち上がる。そして五人の横を通り過ぎる時に、一度立ち止まった。あからさまに警戒する五人へと、リリアは笑顔を見せた。


「この子は私がもらうわね。この子はこれから私のものよ。手を出すなとは言わないけれど、今後はよく考えなさい」


 リリアのその言葉に、五人ともが重々しく頷いた。それでは、とそのまま通り過ぎる。

 リリアを迎えた王子は、呆れたような表情をしていた。しかし何も言わず、改めて五人へと視線を向けた。


「さて、何か言いたいことはあるか?」


 王子の言葉に、女生徒二人が声を出そうとして、


「言い忘れていたが、すでに何があったかはだいたい聞いているぞ。嘘をつくなとは言わないが、それ相応の覚悟はしておけ」


 結局誰も何も言うことなく、その場で項垂れてしまった。

 それからしばらくは誰も一言も発しなかった。やがて王子が小さくため息をつき、一緒に来ていたクラスメイトへと指示を出す。後のことは頼む、と。


「はい。畏まりました」


 丁寧に一礼して、生徒たちの方へと向かっていく。王子はその結果は見届けず、リリアたちへと目を向けた。


「移動するぞ」


 そう言って、先に歩いて行く王子。リリアとしては一応の解決のようなのでさっさと退散してしまいたいと思うが、さすがに王子を無視するわけにはいかず、仕方なく彼の後を追った。




 案内されたのは、一階の空き教室だ。静まり返った教室に王子が最初に入り、リリアとレイがそれに続いた。二人が入ったことを確認して、王子は部屋の扉を閉めた。しっかりと鍵を閉めて、部屋の奥へと歩いて行く。リリアも少し距離を空けて、それに続いた。


「さて」


 王子が声を発して立ち止まる。そして振り返り、リリアを睨み付けてきた。


 ――今度こそ何か言われるのかしら?

 ――どうだろう?

「リリアーヌ。今回の件は感謝する。ありがとう」


 そう言って、頭を下げてくる。これにはリリアだけでなくさくらも驚いたようで、二人そろって絶句していた。

 そして、王子が今度はレイを見る。レイも王子を見つめ返した。いつもより力のこもった瞳で。それにリリアが驚いていると、王子が口を開いた。


「何をしているんだ、レイフォード」

「いや別に。いじめられただけだよ」


レイの素性はまた明日、なのです。

結構察しがつきそうではありますけども。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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