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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

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 さくらの笑い声に、仕方のないやつだ、とため息をつく。そしてふと顔を上げると、ティナがこちらをとても心配そうに見つめていた。思わず、リリアの頬が引きつってしまう。


 ――挙動不審だったね。何もしていないのに表情が変わっていくなんて。リリアこわい!

 ――誰のせいかしらね……?

 ――ごめんなさいやりすぎました。


 リリアは、今度は内心でため息をつき、改めてティナに目を向けた。


「リリア。大丈夫? もしかして疲れてる、よね……? ごめんね、邪魔しちゃって」

「変な気を遣わなくてもいいわよ。疲れてないと言えば嘘になるけど、別にいつも通りよ」


 疲れているのはさくらの相手をして、だ。日常生活で疲れているわけではない。


 ――さらっとひどい。


 さくらの言葉は無視する。ティナは納得していないようだったが、大人しくいすに座り直した。


「今日は試験の報告だけ?」

「あ、うん。すごくお世話になったから報告はしないといけないと思って」

「そう。いい心がけね」


 ティナから来なければ、明日にでも部屋を訪ねようと思っていた。まあどちらにしろ、明日は結果の発表もある。それも聞きたいのでやはり部屋を訪ねることになるのだが。


「今日はこの後みんなで南側の食堂に行くんだよ。ねえ、リリアも……」

「行けるわけがないでしょう」


 ぴしゃりと言うと、そうだよね、とティナは眉尻を下げた。

 試験が終わっての、打ち上げ、というものだろうか。リリアには縁の無いものだったが、まさか誘われることになるとは思ってもみなかった。だが、さすがに不特定多数の人間と南側に行くわけにはいかない。おおっぴらに行くと問題しか起こらないだろう。


 ――面倒な世の中だね。

 ――ええ。本当に。


 お土産を持ってくるね、と言うティナを送り出してから、リリアは寝室に戻った。 




 翌日。リリアが教室に行くと、誰もが不安そうな表情をしていた。それらの気持ちが今なら分かるリリアは、しかし表情にはおくびにも出さずに自分の席に座った。


「おはようございます、リリアーヌ様」


 取り巻き三人が挨拶をしてくる。セーラも含め、やはり不安そうにしていた。


「おはよう。三人とも元気がないわね。勉強はしていたのでしょう?」

「もちろんしていましたけど……」


 それでもやはり不安なものなのだろう。この成績によっては両親から叱責を受けるかもしれないのだから当然だ。家によってはわざわざ学校を休ませて呼び戻す親もいるらしい。学校を休んでしまうと本末転倒なような気もするのだが、リリアが気にすることでもない。

 教室の中で普段通りなのはリリアともう一人、クリスだ。クリスは彼女の取り巻きに力強い言葉をかけている。


 ――リリア。あれがお手本。

 ――あれをするの? 私が?

 ――がんばれ!


 リリアが三人を見る。三人が首を傾げ、リリアが小さくのどを鳴らした。そして、


「みんなおはよう、早速配るぞ」


 時間よりも早く入ってきた教師に邪魔されて、結局何も言えなかった。セーラたちが自分の席へと戻っていく。


 ――むー……。

 ――ごめんなさい……。次は、がんばるわ……。


 さくらの計画ではもしかすると必要なことだったのかもしれない。申し訳なく思い謝罪すると、さくらは、大丈夫、と笑ってくれた。


 ――私もいきなりできるとは思ってないよ。気にしないでね。

 ――ええ……。ありがとう。


 いえいえ、とさくらはすでに気にする様子もなく、次はどうしようかなと考えを巡らせていた。

 教師は朝の挨拶もそこそこに、それぞれの答案用紙と成績が書かれた紙を一人一人に手渡しで配り始めた。受け取った生徒が喜んだり落ち込んだりと、見ていて少しだけ面白く思える。


 ――ところでリリアの前の成績は?

 ――順位で言えば五番目よ。可も無く不可も無く、といったところね。

 ――いや十分すごいから! 不可じゃないから!

 ――これで成績が上がらなかったらさくらを信用できなくなるわね。

 ――今更そんなプレッシャーかけないでよ……。


 もっと勉強してもらえば良かった、とさくらが沈んだ声を出す。実際のところ、例え前回より成績が下がったとしても、さくらを責めるつもりはない。さくらからは、普通に生きていればまず得られなかったであろう知識をもらっているのだから。

 それに、おそらくだが。リリア自身一切不安には思っていない。


「アルディス」


 教師に呼ばれ、リリアは教卓の前に立った。

 教師は手元の答案を見ながら何か難しい表情をしていたが、やがてリリアへと顔を向けると表情を綻ばせた。


「よくやった」


 それは、心からの賛辞に聞こえた。答案と成績を受け取り、目を通す。


「……っ」

 ――おー!


 リリアがわずかに息を呑み、さくらは嬉しそうな声を発した。リリアも人目がなければ大声で叫んでいたかもしれない。それほどまでに嬉しく思えた。今まで成績などどうでもいいと思っていたが、これは素直に嬉しく思えてしまう。


「アルディス」


 再び教師に呼ばれ、リリアが顔を上げる。彼もとても嬉しそうな笑顔を浮かべていた。いや、これはどちらかというと、可笑しそうな、だろうか。


「今日は授業はしない。試験の問題を一つずつ解説していくだけだ」

「はい。平常通りですね」

「そうだ。だから、な。必要ないだろうから、今日は帰ってもいいぞ」


 何も知らなければ教師がリリアを追い出そうとしていると思うだろう。しかし教師の表情からそうではないとすぐに分かる。


「真っ直ぐに出てもいいからな?」


 リリアの頬が緩みかけているのに気づいているのだろう。それ故に可笑しそうにしているのだと察して、リリアの笑顔がわずかに固まった。しかしすぐに、教師の気遣いに感謝して小さく頭を下げた。


「ではお言葉に甘えさせていただきます」

「ああ。気をつけてな」


 見られないように、と教師の口が音を出さずに動き、リリアは頷いて教室を後にした。


友達が目の前で笑顔になったり神妙な表情になったり、一人で百面相。不気味ですね。


壁|w・)朝と夜と言いましたけど、読み直し諸々が終わり次第次も投下します。

その後は平常運行に戻ります。さすがに無茶やりすぎました。お仕事が!


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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