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シンシアがおずおずといった様子でリリアの目を見てきた。リリアは満足そうに頷き、続いて指示を出す。
「覆面を取りなさい」
「……っ!」
シンシアが息を呑み、目を泳がせた。その視線が天井へと何度かいっていることに気づき、リリアはそちらへと目を向ける。おそらく、男の密偵のどちらかがいるのだろう。
「構わないわね?」
リリアが天井へと問うが、返答はない。ならばそれは構わない、ということだ。リリアはそう結論づけて、シンシアへと促すようにテーブルを指で叩いた。
「うう……。分かりました……」
シンシアが覆面を取り、リリアのみならずアリサもわずかに目を見開いていた。
まだあどけなさが残る少女だ。おそらくはリリアよりも、もしかするとアリサよりも若い。髪は茶色で短く切りそろえられていた。
「へえ……」
リリアが興味深そうにつぶやき、シンシアは羞恥からか頬を染めた。顔を隠すための覆面だと思っていたが、どうやら人前に顔をさらすのを恥ずかしいと思うようだ。
「貴方はお兄様に仕えているの?」
リリアが聞いて、シンシアは首を振った。
「私はまだ特定の主を持っていません。その、見習いとして、父上に同行しています」
なるほど、とリリアは頷き、アリサへと目を向ける。アリサは頷いて、
「十年に一人の天才と聞いています」
「へえ。素晴らしいわね」
シンシアへと視線を戻す。顔を真っ赤にしてうつむいていた。
――リリア。
――ええ。欲しいわね、この子。
年齢を考えると経験不足はあるだろう。しかし才能があるなら、是非とも手中に収めておきたい。
「シンシア。仕えたい主とかはいるの?」
兄に頼めば、リリアの要望を聞き入れてくれるかもしれない。だがそうして無理矢理手に入れようとは今は思えない。しっかりと、自分の意志でリリアに従ってくれる人材が欲しい。
「いえ、今は特には……」
「そう。なら私に仕えなさい」
――おもいっきり命令になってるよ!
――あら、失礼。
「間違えたわ。私に仕えない?」
リリアの言葉に、シンシアは目を丸くしていた。再び目を泳がせ、やはり天井へと何度も目をやる。だが誰もそれには応えない。シンシアはうつむいて、か細い声で言った。
「考えさせてください……」
「そう。分かったわ。急がないからじっくり考えなさい」
少しだけ残念に思うが、こればかりは仕方がない。リリアは紅茶を飲み干すと、ではごゆっくり、と寝室へと向かった。
昼過ぎに図書室に行ってみたが、レイはいないようだった。勉強を教えた身としてどうだったのか聞きたかっただけなので、少しだけ残念に思いながらも自室に戻った。
そして夜になって来客者があった。寝室でさくらと共に勉強をしていたリリアはアリサに呼ばれ、出迎えに行く。扉を開けると、満面の笑顔のティナがいた。
「リリア!」
「わ……!」
リリアを認識すると、すぐにティナが抱きついてきた。リリアは少し慌てながらもしっかりと受け止め、ティナを睨み付ける。
「危ないじゃない。何をするのよ」
「えへへ。すごく嬉しくて!」
言葉通り、ティナは満面の笑顔でリリアを見つめてくる。抱きついたままの姿勢のためにとても顔が近い。リリアはわずかに頬を染めると、ティナを押しのけた。
「いいからとりあえず座りなさい。全く……」
そう言ってテーブルにつかせる。すぐにアリサが紅茶を出してくれた。
「それで? 試験はどうだったの?」
聞かれたティナが笑顔を濃くする。それだけで応えは分かった。
「ばっちり! リリアのおかげだよ。本当にありがとう!」
そう言って、今度はテーブルが間にあるためにさすがに抱きついてこないが、テーブルに置かれていたリリアの手を取った。嬉しそうに笑っているティナを見ていると、リリアも少しばかり達成感を覚えることができた。
「そう。それなら良かったわ。ところで離してくれないかしら」
ティナはずっとリリアの手を握っている。離すどころが握る力がさらに強くなったような気がする。
「もうちょっと」
「何なのよ……」
リリアはため息をつくが、それほど悪い気はしないので強く言うことはしなかった。
――照れてるリリアが可愛い。
――照れてないわよ。
――えー。顔真っ赤だよ? リリア可愛い!
――………。
どうやら何を言っても無駄らしい。リリアはため息をつくばかりだ。
――でも親友一号は私だからね! 誰にも譲らないからね!
――あら、私は貴方を親友だなんて思ってないけど。
――え……。と、友達、とか……。
――友達? いやよ。
あえて感情を乗せずにそう言ってやると、さくらは完全に沈黙した。リリアがわずかに眉をひそめ、対面のティナが首を傾げた。
――私は……リリアを友達だと思ってるからね……。
――ちょっと、泣いてるの!? ああ、ごめんなさい、冗談よ! 私も友達だと思ってるから!
さくらの涙声にリリアは慌てて謝罪する。まさかこれほどまでに効果があるとは思わなかった。
――ぐす……。私はリリアのこと、好きだよ……。
――そう。私もさくらのことは好きよ。大切な友達だと思っているわ。
――えへへ。
どうやら機嫌を直してくれたらしい。機嫌よく笑い、そして、
――ところでリリア。
――何よ。
――リリアって単純だよね。
そして気づいた。さくらの猿芝居だと。
――さくら!
――あはははは!
ジャンルを友情にしたい。このままではジャンル詐欺のような気がとてもします。
何が言いたいかと言うと、ゆりじゃねーです、ということで。
女同士の恋愛かと友人に聞かれました。違うよ。
確かに未だにリリアさん恋愛してないけど。
あれです、人の恋愛を見守るお話なのです。無理がありますね。
ちょっと活動報告をかきかきしてきました。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。




