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「もうすぐ時間だ。教材は片付けるように」
生徒たちが教材を片付けていく。全員が片付け終わったのを見計らい、教師がそれぞれの席に自ら大きな紙を二枚ずつ配り始めた。
この学校の試験は学期ごとに三回あるが、そのうちの最初の二回は科目が少ない。その代わりに、朝から昼まで通して一度にやってしまうことになっている。その日の午後のうちに教師たちが採点を済ませ、翌日の朝に発表されるという流れだ。
つまり。今リリアに配られたこの二枚の紙に全ての問題が書かれている、ということになる。
――がんばれリリア。ファイトだリリア。ふれーふれー!
――さくら。うるさいわよ。
――うん。邪魔しようとしてるから。
――なるほど。よく分かったわ。
――あ、ごめん嘘だよだからそんな頭のすみっこでちらっとピーマンを思い浮かべないで!
危機感を抱いたのか、泣きつくほどの勢いでさくらが謝罪をしてくる。リリアは苦笑して、分かったわと頷いた。
――静かにしておきなさいよ。
――あいあいさー。
なんだその返事は。リリアは首を傾げながらも、教師の合図と共に用紙をひっくり返し、問題に取りかかった。
どれほど時間が過ぎただろうか。未だ周囲からはかりかりと物を書く音が聞こえてくる。どうやらリリアが最も早く終えたらしい。リリアは三度目の見直しを終えたところで、つまらなさそうにため息をついた。
――あ、リリア。終わったの?
――ええ。もう十分よ。
――じゃあ出よう。できるだけ早く。
ぴくり、とリリアの眉が動く。少しだけ怪訝そうに眉をひそめ、問いかける。
――必要なことなのね?
――うん。
迷うことなく即答だった。リリアは頷き、手を上げた。少しの間を置いて、教師の声が届く。
「ん? どうしたアルディス。何か落としたのか?」
そう言ってこちらへと歩いてくる。教師が目の前まで来たところで、リリアは言った。
「終わったので退室しても構いませんか? ここにいても退屈なだけですので」
周囲から音がなくなった。誰もがリリアを驚きに満ちた表情で凝視し、教師までもがぽかんと間抜けに口を開けていた。リリアが咳払いをするとすぐに我に返り、少しばかり困惑の色を見せる。
「本当にもういいのか? まだ半分以上も時間が残っているが……」
そんなに残っていたのか、と内心で驚きながらも、リリアは笑顔で頷いた。
「はい。構いません。見直しもしっかりしましたから」
そう言い切ると、教師は疑わしそうに目を細め、リリアの答案を手に取った。そしてそれを見て、わずかに目を見開いた。
「どうかされましたか?」
「いや……。何でも無い。分かった、退室を許可する。戻ってくることはできないが……まあこれなら問題はないな」
「ええ。もちろんです」
自信を込めて言い切るリリアに教師はわずかに笑い、リリアの答案を持って教卓へと戻っていった。リリアは少ない荷物を持って教室の出入り口へと向かう。囁き合う声が聞こえてくるが、気にするほどのものではない。
「それでは皆様、がんばってくださいね」
笑顔を見せてそう言って、部屋の扉を閉めた。
自室に戻ったリリアはアリサに驚きを持って出迎えられた。テーブルにはカップが二つ置かれている。どうやら誰かと紅茶を飲んでいたらしい。部屋を見回してみても誰もいないことから、相手は容易に想像がついた。
「密偵の子かしら?」
「はい。そうです」
素直に頷いたアリサに、リリアは機嫌良く頷いた。テーブルへ向かうと、アリサがすぐに紅茶を用意してくれる。
――密偵の子も呼ぼうよ。
――そうね。どこにいるの?
――天井。
お決まりね、と苦笑しつつ、リリアはテーブルを二度ほど叩いた。天井へと目を向け、言う。
「私と同じテーブルにつく許可を上げるわ。下りてきなさい」
そう言って、もう一度テーブルを叩く。天井の一部がずらされ、少女が顔を出した。
「あ、あの……。同じテーブルというのは恐れ多いので……」
リリアは何も言わずに、もう一度テーブルを叩く。その途端、少女はびくりと体を震わせ、泣きそうな表情になりながら下りてきた。無言の圧力でも感じているのか、震えながらリリアの対面に座る。アリサは笑いを堪えながら、彼女の紅茶も用意した。
「何をそんなに怯えているの?」
「え、あ、いえ、その、あの、えっと……」
しどろもどろになってしまい、しっかりとした言葉が紡がれていない。リリアはしばらく待ってみたが、少女は余計に焦るばかりだったので諦めてため息をついた。
「この間はしっかり話せていたじゃないの」
「その……。あの時は、直接指示を受けていたわけではなかったので……」
「どう違うのよ……」
リリアはため息をつき、紅茶を飲んだ。満足げに頷き、次はアリサへとテーブルを叩く。失礼します、とアリサもテーブルについた。
「それで? 名前は?」
「シンシア、です」
「シンシアね。覚えたわ」
そう言うと、シンシアが怯えた目を向けてきた。なぜそこまで怯えるのかと疑問に思っていると、笑いを堪えているらしいさくらから声があった。
――わざわざ名前を覚えたって言われたら、何か処罰が待ってると思われても仕方がないよ。
――そうなの? そんなつもりではなかったのだけど。
シンシアへと目を向ける。シンシアはリリアの顔色を窺うようにこちらを見ていた。
「シンシア。私が怖いの?」
「いえ、そんなことは……」
「ではしっかりと私の目を見なさい」
密偵の子の攻略を開始。冗談です。
ちなみにこの子は『お仕事モード』の時は多少なりともしっかりします。
リリアの初お出かけに出た時、みたいな感じですね。
ストックとは放出するものだ!
明日はいつも通りの6時と、朝と夜にも投稿できればいいですね。
多忙用のストックですが、まあ大丈夫でしょう。
枕元にさくらが立って言っていたから。大勢見てくれてる今こそがんばれよと。
さくらの導き(脅迫)に従って、投下。
誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。
ではでは。




