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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

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 さくらは楽しげに笑い、リリアは小さくため息をついた。憮然とした表情のまま紅茶を飲むティナに、リリアは笑顔を見せる。


「殿下のことは嫌いなの?」


 ぴたり、とティナの動きが止まった。紅茶のカップをテーブルに置き、ティナは少し唸る。


「えっとね……。嫌い、というわけじゃない。むしろ、好き、なのかな……。でもリリアにあんなに冷たい態度を取っているのを見るのは、やっぱりやだな……」

 ――あと一歩なのにね。さすが馬鹿王子。

 ――見られていることを考えるべきね、あの馬鹿王子。

 ――それは無理だよ、だって馬鹿王子だよ。

 ――そうね。馬鹿王子に期待してはいけないわね。


 これでもかと二人で罵倒する。もう少し考えればティナがどう思うか分かるだろうに、本当に何を考えているのか。もっとも、これにはリリアの今までの行動が原因となっているところもあるので、王子が全面的に悪いとも言えないわけだが。


「あまり私のことは気にしなくていいのよ、ティナ。ちゃんと自分の気持ちに正直になりなさい。それに、殿下は貴方のことを心配して言ってくれていることなのよ。殿下がどうしても私と会うことを快く思わないなら、こうしてこっそり会えばいいわけだしね」

「うん……。ありがとう、リリア。やっぱりリリアは優しいね」


 そう言って微笑むティナ。リリアは少し恥ずかしくなり、目を逸らした。


 ――で、本音は?

 ――さっさとくっついて私の視界にあの馬鹿が入らないようにしてほしいのだけど。

 ――ついに王子とすら言わなくなったよこの子!


 リリアは内心で笑いながら、しかし表情には出さずにカップをテーブルに置いた。ティナも飲み終えたのか、同じようにカップを置く。


「ごちそうさま。美味しかったです、アリサさん」

「ありがとうございます」


 側に控えているアリサが丁寧に頭を下げる。ちなみにアリサは二人が勉強している間、ずっと直立のまま待っていた。リリアが紅茶のお代わりを要求するとすぐに淹れてくれている。もう少し気楽にすればいいのに、と思ってしまうが、それを許さなかったのは以前のリリアなので触れないことにした。


「それじゃあ、行くね。ありがとう、リリア」

「気にしなくていいわ。また明日、続きをやりましょう」

「うん! 明日はどら焼き持ってくるね!」


 笑顔でそう言って部屋を出て行く。それを見送ってから、


「リリア様が南側によく行っているとは夢にも思っていないのでしょうね……」


 アリサがぽつりと呟いた言葉に、何故かとてつもなく罪悪感を覚えてしまった。




 それからの毎日は、午前にさくらから講義を受け、午後はレイに、夜はティナに勉強を教える毎日が続いた。試験のための勉強を一切していないのだが、大丈夫だろうかと少しだけ不安になっている。さくらに言ってみても、時間の無駄だよと取り合ってくれなかった。

 週末はさすがに食べ歩きは自重しておいた。さくらは気にせずに行こうよとうるさかったが、黙殺している。少しは自分の勉強はするべきだ。少しだけ危機感を抱いている。


 ――むう。じゃあアリサからみっちりと魔法を教えてもらおう。不安要素があるとしたらその程度だよ。


 反論しようとも思ったが、リリアは素直に指示に従い、週末の自分の勉強はひたすらにアリサから魔法について教わることになった。




 そして、当日。


 ――さくら。魔法以外をろくに勉強していないのだけど、本当に大丈夫?

 ――大丈夫! 私を信じて! 嘘をついたことなんてないでしょ?

 ――え?

 ――え?


 そんな会話を教室で交わす。誰もが試験に備えて勉強している中、さくらとの会話で間抜け面をするリリアは少しばかり異質だった。

 さくらとの会話を中断させて、周囲を確認する。紙をめくる音や何かを書き殴る音が響く。時折誰かが教室に入ってきて席につく、という例外の音もあるが、その生徒すらもすぐに勉強を始めてしまう。


 ――必死だね。

 ――悪い成績を取るわけにはいかないもの。


 個人の成績が公表されるわけではない。だが当然ながら自分の点数と、そして学年での順位は分かるようになっている。それは両親にも見せることになる。貴族の、特に上級貴族の子の成績が悪いとなれば両親も黙ってはいてくれない。さらにこの成績は国の重鎮となれば自由に見ることができるものなので、当然ながら将来に響くことになる。

 この国は親から仕事や領地を引き継ぐためには一定以上の能力が求められる。当然ながらその能力が認められず、資格なしと判断されれば別の者に奪われることになる。優遇はされても無条件で認められるわけではない、ということだ。

 それらの理由から、誰もが必死に勉強する。


 ――リリアも前は試験前に勉強したの?

 ――教室ではしなかったわね。それに、授業を聞いていればある程度は取れるものでしょう。

 ――いや、うん。ソウデスネ。


 何故かさくらの声が最後は棒読みになっていた。リリアは不思議に思いながらも、触れるべきではないのかもしれないと聞かなかったことにする。


「あら、リリアーヌ様」


 頭上からの声。視線を上げると、クリスが立っていた。今日ばかりは取り巻きを連れていない。彼女たちも勉強中だ。


「リリアーヌ様。勉強はよろしいのですか? ああ、リリアーヌ様なら大丈夫ですわね」


 小馬鹿にしたような、そんな笑い声を上げる。リリアは少しだけ苛立ちを覚えながらも、笑顔を返した。


「ええ。特に問題ありません」


 堂々と見栄を張る。するとクリスはわずかに驚いたように目を開き、すぐに満足そうに小さく頷くときびすを返した。そのまま自分の席に座り、机の上に広げていた教材に目を落とした。


 ――もしかしてさっきのは……。リリアを心配してくれたの?

 ――そうでしょうね。

 ――分かりにくいよ!


 さくらが叫ぶが、そんなことをリリアに言われても困るというものだ。

 さらにしばらくして、教師と王子が教室に入ってきた。教師が抱えていたものを、紙の束を教卓に置くと、さて、と教室をゆっくりと見回した。


王子は決して悪い人ではないのです。むしろ今までのリリアが悪すぎたのです。

いずれ過去のリリアを書きたいと思っていますが、多分胸くそ悪いお話になるので自重します……。

壁|w・)忘れちゃだめです、リリアには処刑フラグがあったということを。


本編書いていたらアリサ視点の続きを書き忘れていました。

代わりに?本編を投稿しておきます、よー。


友人からさくらの外見を聞かれました。

流れ的におそらく一週間以内に出ることになるので、それまで黙秘です。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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