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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

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 翌日。リリアが教室の席につくと、いつもの取り巻き二人がやってきた。挨拶をしてくる二人にリリアも適当に返しておく。煩わしいと思うが、さすがに無視はしてはならない、とさくらに言われている。

 続けてもう一人。セーラもリリアの元へとやってきた。


「おはようございます、リリアーヌ様」


 他の二人がぎょっとして目を剥く。今更何を、とでも思っているのだろう。リリアはそれを横目で確認して、そしてセーラへと微笑んだ。


「ええ。おはよう、セーラ。とても良い朝ね」


 他の二人が大きく目を見開き、絶句している。それはこの二人だけでなく、現在教室にいる全員が同じように驚いていた。


 ――みんな驚いてるね。うんうん、いいことだ!

 ――さくら。純粋に楽しんでない?

 ――うん。このためだけにあの子をもらった。

 ――え……。

 ――ごめん。冗談だから本気にしないで。


 さくらの言葉に耳を疑ったが、どうやら本気ではなかったようなので一先ず安堵する。さて、とセーラへと視線をやると、他の二人の顔が自然と視界に入った。二人とも、説明を求めるようにリリアを見ている。その視線を受けたリリアは、しかし何も答えなかった。

 セーラが昨日の夕食についての話題を振ってくる。リリアはそれに、淡々と返事をしていく。一見不機嫌そうに見えるリリアの態度だが、返事をしないことも多いことを考えると、実は良い方だろう。少なくとも教室にいる者はそう判断し、そして理解した。リリアはセーラが側にいることを許したのだ、と。


「あらあら、リリアーヌ様。どうしてそこの方とお話しているのかしら?」


 クリスが取り巻きを引き連れて、笑顔でリリアの元へとやってくる。リリアはそれに、笑顔を見せた。


「この子は私がもらったのです。何か不都合でもありますか?」


 クリスが目を細め、何かを探るような目を向けてきた。リリアはその視線を真っ直ぐに受け止める。やがて何かを察したのか、クリスは笑顔で頷いた。


「いいえ、何も文句などありませんわ。ですが、お気をつけくださいね」


 そのセーラの存在からお前を追い詰めるぞ、と普通なら捉えるだろう。教室にいる誰もがそう思っているようで、クリスの取り巻きなどは嫌らしい笑顔を浮かべている。セーラも蒼白になっていた。


「ええ。ご忠告ありがとう。気にしておくわ」


 クリスが言いたいことは、実際は言葉通りの意味だ。周囲の者に責められないように気をつけろ。ただそれだけである。リリアがしっかりと頷くのを見て、クリスも満足そうに頷くと、自分の席に戻っていった。


 ――見方が変わると、言葉の意味合いが全然違って聞こえるね……。堂々と仲良くすればいいのに。

 ――貴族社会には色々とあるのよ。


 リリアの返答に、さくらは、ふうんと興味なさげな相づちをうった。リリアは内心でため息をつきつつ、セーラへと視線を戻す。かわいそうなほどに狼狽えていた。


「あ、あの、リリア様……」

「大丈夫よ。気にしなくていいわ。それよりもうすぐ授業だから席に戻りなさい」

「は、はい……」


 セーラはまだ不安そうにしていたが、大人しく自分の席に戻って行った。他の二人も首を傾げながらも席に戻っていく。


 ――あの二人が何か言ってくるかなと思ってたんだけど、何もなかったね。

 ――別に言ってきても良かったのだけど。


 むしろそちらの方が好都合だったと言える。心置きなく潰す口実ができるのだから。それを聞いたさくらは、だめだこれ、とため息をついていた。

 教室の扉が開き、教師と王子が入ってくる。リリアとセーラの一件からかどうにも妙な空気になっていたためか、二人揃って首を傾げていたが、すぐに王子は席につき、教師は教卓の前に立った。

 さて、と教師が声を出し、リリアはいつも通りにさくらの講義に耳を傾けた。




 午前の授業が終われば、この場所に用はない。リリアは教師の終了の宣言を聞くと、すぐに教室を後にした。セーラのことが不安ではあるが、あまり過保護になっていても仕方がないだろう。

 食堂でサンドイッチを受け取る。料理人たちも慣れたもので、リリアが来る時には作りたてのサンドイッチが用意されている。それをリリアに渡してくる彼らの表情は、いつもどこか楽しげだった。


 ――今日の具材は何かな。


 サンドイッチを受け取った後、さくらはいつも楽しそうにしている。毎日サンドイッチを食べるリリアに気を遣っているのか、こちらが何も言わずともサンドイッチの具材は毎日違うものを用意してくれている。さくらはいつもそれが楽しみで仕方がないらしい。

 リリアとしては簡単に食べられれば何でもいいと思っているので、さほど気にしない問題だ。だがさくらにとっては重要なようで、料理人たちを絶賛していたほどだ。

 いつものように図書室の部屋で食事を済ませ、レイに勉強を教えていると、何気なくレイが口を開いた。


「そう言えば来週から試験ですけど、リリア様はご自身の勉強はよろしいのですか?」

「え?」


 この学園は、一年を二つにわけて、前学期と後学期に分けられている。各学期に学力を調べるための試験が三回あり、そろそろ試験の知らせがくるだろう、とは思ってはいた。だがまさか、来週からとは思っていなかったが。


「あれ? リリア様、もしかして気づいていませんでした……?」

「…………」


 リリアは静かにいすに座り、ゆっくりと息を吐いた。そして、心の中で静かに問うた。


 ――さくら。どういうことよ。

 ――ひぃ! 怖いよリリア! どういうことも何も、先生はちゃんと言ってたよ!

 ――は? いつ?

 ――先週の頭ぐらい。リリアは私のお話ばかり聞いていたから、無視してたと思う。


 リリアのこめかみがわずかに動く。リリアの不機嫌を察したのか、レイはそっとリリアから距離を取った。


※※※ある日の食堂にて※※※

リリア「さくらはピーマンが嫌いなのよね」

さくら『うん。苦いものが苦手だけど、ピーマンは特にだめ』

リリア「好きなものは苺大福」

さくら『うん。甘いものが好きだよ。苺大福は特に大好き!』

リリア「そう。ふふっ……。子供ね」

さくら『!?』

そんな会話が交わされているかもしれません。


ちなみにあとがきのこれはあくまで「あったかもしれないお話」です。

ファンクラブ含め、本編には関係がないのでご注意を……。


あれよあれよとブックマーク3000件、日間3位です。

皆様、ありがとうございます。とてもありがたく、嬉しく思います。

見放されないようにがんばりますよ……!


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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