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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期
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 花壇に戻ると、アリサは命じられた通りにその場で待っていたようだ。リリアの姿を確認して、何故か安堵のため息をついている。


「お父様と話してきたわ。ここにはこの花を植えるわよ」


 リリアが早速そう切り出すと、アリサはかしこまりましたと頭を下げた。


「この花壇はお嬢様のものです。ですから……」

「とりあえずアリサ、道具を取ってきなさい。今すぐに」

「え、あ……。はい。かしこまりました」


 アリサが釈然としない表情をしながらも、道具を取りに行くために走り出す。リリアはそれを見送った後、そのまま待つことにした。さくらが何かを言いたそうに唸っているが、それは無視だ。

 少しして戻ってきたアリサは、両手に小さなスコップなどの道具が入ったかごを持っていた。


「お待たせしました」

「ええ。それじゃあアリサ」


 リリアが真っ直ぐにアリサを見つめ、アリサは何かしてしまったのかと緊張した面持ちになる。そんなアリサの内心など分かるはずもなく、リリアは告げた。


「この花壇は今日から私のものよ」

「はい……。そうです」

「でも私は花の育て方なんて全く分からないわ」


 首を傾げるアリサに、リリアは花の種が入った紙袋を差し出した。アリサはそれを受け取りながら、さらに困惑を深めてしまう。


「貴方が育てなさい」

「え……?」

「もちろんこの花壇は私のものだし、手伝うわ。だから一緒にここまで来てあげます。私が手伝ってあげるから、貴方はこの花を綺麗に咲かせなさい」


 ようやく意味が分かったのだろう、アリサが目を見開く。さくらの忍び笑いも聞こえてきて少しだけ不快になるが、リリアは一先ず言い終えることにする。


「貴方は私専属のメイドよ。私はこの花が綺麗に咲くところを見たいの。できるわね?」


 アリサは何度も頷き、そして勢いよく頭を下げた。


「はい! ありがとうございます、お嬢様!」


 リリアは少しだけ優越感を覚えながら、それじゃあ、と早速指示を出す。アリサが持ってきた道具からスコップを取り出し、


「それじゃあ植えましょう。教えてくれる? アリサ」

「はい! もちろんです!」


 嬉しそうなアリサの笑顔を見て、リリアは眩しそうに目を細めた。



 アリサと土いじりを終えたリリアは、もう一度風呂に向かった。アリサに新しい着替えを持ってくるように命じて、リリアは風呂場へと向かう。


 ――リリアって結構照れ屋さん?


 途中、さくらの楽しげな声が聞こえてきた。それを無視していると、さくらが続ける。


 ――自分のプライドとか守りつつ、一緒に育てる方向に持っていきたかったんだね、でも多分、アリサは察してたよ?

 ――うるさいわよ。指示には従ったのだから文句はないでしょう。

 ――もちろん。よくがんばりました。

 ――いちいち頭に来る言い方ね……。


 それ以上相手をするのが馬鹿らしくなり、リリアは何も言わずに浴室に入った。



 風呂から出て、アリサが用意したドレスに着替え、食堂へと向かう。土いじりに時間を取られてしまったが、そろそろ朝食の時間だ。


 ――今日はどんな朝ご飯かなあ。楽しみだね。

 ――食べるのは貴方じゃないでしょう。

 ――ふふふ。天使さんのすぺしゃるな能力です! 私は貴方と感覚を共有してるんだよ!


 えっへん、と得意げに言う。体があれば自慢げに胸を反らしているだろう。その姿が容易に想像できて、リリアは思わず笑みを零していた。


 ――貴方って本当に天使なの?

 ――モチロンデス、トウゼンジャナイデスカ。

 ――どうして片言なのよ……。


 本当に何者なのか、と思いながら、リリアは食堂の扉を開けた。

 広い食堂の中央にある大きなテーブル。そこにはすでに家族全員が揃っていた。父親ケルビン、母親アーシャ、兄クロス、弟テオの四人。リリアを含めた五人が、この屋敷に住むアルディス公爵家の全員だ。

 リリアがテーブルにつくと、使用人たちが朝食を運んできた。テーブルの中央には焼きたてのパンが並べられたかごが置かれ、リリアたちの目の前にはスープの満たされた皿。さらには果実を煮詰めたジャムのようなものも出されている。

 王家に次ぐ権力を持つ公爵家にしては質素な朝食だが、この屋敷ではこれが当たり前だった。母が質素な食事を好むので、食べきれないほどのご馳走が並ぶといったことはない。リリアが不満に思うことの一つだ。


 ――男爵家にも劣る食事だなんて恥でしかないわ。

 ――まあまあ。美味しいんだしいいじゃない。ご馳走なんて、たまに食べるから美味しいんだよ。


 さくらの言葉に、リリアは意味が分からないと首を振った。

 全員が手を組み、祈りを捧げる。この世界の神に。

 朝食時は誰も喋らない。静かに食べ進めていく。母曰く、食べ物と作ってくれた者に感謝しながら食べなさい、ということだ。リリアにはやはり意味が分からない。


 ――公爵家らしくないのはアーシャさんが原因だよね。いいことだね。

 ――意味が分からないわ。当然の権利を放棄するなんて。

 ――あはは。リリアは根っからの公爵家だね。


 どういう意味だ、と思うが相手にすると無駄な体力、というより精神力を使うだけだろう。気にせず食事を済ませるとする。


 ――うん。やっぱり美味しいなあ。特にこのジャムが美味しいよね。

 ――本当に私と感覚を共有しているの? ちなみに嫌いなものは?


 冗談だと思っていたのだが、嬉しそうな口調からどうやら本当に共有しているらしい。少し驚きながらも、リリアはいたずらっぽく笑む。


 ――ピーマン。苦いと無理!

 ――いいわね。覚えておくわ。

 ――ちょっと待って何をするつもりなの嘘だよ私が嫌いなものはこのジャムだよ!


 その後しばらくさくらは嫌いなものは、本当はと叫んでいたが、あえて無視。食事が終わる頃には静かになっており、小さく首を傾げる。どうしたのか、と。


 ――ごめんなさい……。生のピーマンだけは避けて……。あとは我慢するから……。


 完全に涙声だった。思わず飲んでいた水を噴き出してしまう。周囲が驚き、使用人たちが慌てて駆け寄ってくるが、リリアはそれどころではない。


 ――冗談よ、そんな変なことしないから!

 ――本当?

 ――本当よ、約束するわ。

 ――リリア……。ありがとう!


 今度は一転して小躍りしていそうなほど嬉しそうな声だ。調子が狂う、と思いながらも、そこまで悪い気はしなかった。

 汚れてしまったテーブルなどを使用人たちが素早く綺麗にしたところで、父がおもむろに口を開いた。


「リリア。今朝のことだが……」


 何だろう、とリリアは父と向き直った。悪いことはしていないはずだと父の顔をしっかりと見ると、父は気まずそうにしながらもリリアの目を見つめ返してきた。


「アリサから話を聞いた」

「そうですか。何か問題ありましたか?」


 さくらからは問題ないということを聞いているが、父の判断では違うのかもしれない。不安になりながら、父の言葉を待つ。


「いや、問題はない。これからはアリサと一緒に育てるらしいな」

「はい。ああ、そうだ、お父様。アリサは私がもらいますが、よろしいでしょうか?」


 父の目に困惑の色が浮かぶ。だがそれは父が首を縦に振った時には、すでに消えていた。その代わりに浮かんでいたのは苦笑だった。


「アリサはもともと、お前専属のメイドなんだがな……」

「はい? すみません、お父様。よく聞き取れなかったのですが……」


 その時だけ父の声はとても小さなものだった。よく聞き取ることができなかったのでもう一度、と言うが、父は今度は首を横に振った。


「気にしなくていい。アリサのことだが、構わない。リリアの専属のメイドにあげよう」

「本当ですか? ありがとうございます、お父様」

 ――リリア! そこで笑顔!


 さくらが突然そう言って、リリアは思わず怪訝そうに眉をひそめた。別にいいことがあったわけでもないのに笑顔は不自然すぎるだろう。それでも、と催促してくるさくらに、一先ずは従うことにした。


「ありがとうございます、お父様」


 もう一度礼を言って、笑顔を見せる。笑顔の作り方は幼い頃より教え込まれているので問題はない。しかし父は苦笑を濃くしただけだった。


「無理して笑顔を作る必要はない。気にしなくていい」

 ――ちょっと……。失敗じゃないの?

 ――あれ?


 どうやらさくらも万能ではないらしい。自分で判断することも必要か、とさくらの評価を少しだけ下方修正。父が咳払いをしたのですぐに視線を戻した。


「話を戻すが、アリサと花を育てると聞いた。正直なところ、お前は自分のことしか考えていないと思っていたから驚いた」

「まあ、ひどいですねお父様。私はいつだって周りのことを気に掛けていますよ?」


 父の頬がわずかに引きつり、母と兄が小さくため息をつく。弟だけがそんな皆の反応にきょとんと呆けていた。


「まあ、うん。いいか。リリア。周囲の人も大切にするように」


 父はそう言い終えると、では戻る、と食堂を後にしてしまった。母がそれに続き、兄と弟もそそくさといった様子で部屋を出て行く。最後に残されたリリアはただただ首を傾げるばかりだった。


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