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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

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PVが10万をこえていました。皆様、ありがとうございます……!

とても嬉しかったので、残り少ないストックをひねり出しておきます。

「これは……何をしているの?」


 リリアの問いに、誰もが何も答えない。クリスですら気まずそうに視線をよそに向けている。リリアの取り巻き二人を見てみれば、体を小さくして震えだした。


「貴方には関係ないでしょう」


 無言に耐えられなかったのか、クリスが言う。リリアはクリスを一瞥すると、そうねと頷いた。


「だから私が何をしても、それも貴方には関係がないわね」

「は……?」


 クリスが首を傾げる中、リリアはセーラの前に立った。そして呼びかける。


「セーラ」

「…………」

「セーラ・ヴァルディア」


 フルネームで呼ぶと、セーラがびくりと体を震わせた。恐る恐るといった様子でリリアの顔を窺ってくる。リリアは無表情に、冷徹にセーラを見下ろした。


「話があるわ。ついてきなさい」

「え……。あの、どこへ……?」


 怯えたような目でそう問いかけてくる。リリアは少しばかり苛立ちを覚え、


「どこへだっていいでしょう。いいから来なさい」

「は、はい……!」


 リリアの冷たい言葉に、セーラは勢いよく立ち上がった。歩き始めるリリアを、セーラが追いかけてくる。


「それでは皆様、ごきげんよう」


 最後に笑顔でそう言うと、教室にいる誰もが頬を引きつらせていた。




 リリアはセーラを伴って、寮の自室に戻ってきていた。いすに座り、テーブルを挟んだ対面にはセーラが座っている。目の前には温かい紅茶で満たされたカップが置かれている。先ほどアリサが用意してくれたものだ。

 テーブルの中央には、南側で買えるどら焼き。紅茶には合わないが、さくらが食べたいとうるさいので出してもらった。ちなみにこれは昨日、部屋に遊びに来たティナが持ってきたものだ。

 リリアはどら焼きを一つ手に取ると、口に入れた。そしてセーラにも手を差し出して勧める。セーラは戸惑いながらも一つ手に取り、口に入れた。


「……っ! 美味しい、ですね……」

「でしょう。南側の街のお菓子よ。最近のお気に入りなのよ」


 南側、と聞いてセーラが目を丸くした。それほど意外なのかと苦笑するが、自分自身他の上級貴族の誰かが南側に行ったと聞けば同じ反応をするだろう。


「さてと、セーラ。そろそろ本題に入りましょうか」


 リリアがそう切り出すと、セーラが静かに目を閉じ、はいと頷いた。背筋を伸ばし、真っ直ぐにリリアの目を見つめてくる。


「セーラ。貴方はこの後、どうするつもりなの?」

「実家に帰ろうと思っています」


 予想通りの答えだった。


「リリアーヌ様には最後までご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ございませんでした」


 深く頭を下げてくる。リリアはそれを見つめ、そして鼻で笑った。


「つまりは逃げるということね。情けない」

「貴方が……それを言うのですか……」


 セーラの目が細められ、しかしすぐにはっとしたように我に返り、また頭を下げてきた。いい加減それはいいと思うのだが、好きなようにさせておく。


「失言でした。申し訳ありません」


 失言、だったとは言うが、今のはセーラの本音だろう。セーラを追い詰めたのは間違いなくリリアだ。それに、リリアには一度、王子から逃げたという事実もある。それらを踏まえての言葉だろう。だがリリアはそれを完全に聞き流した。自分のことは棚に上げて、セーラへと冷たく言う。


「例え誰が言おうと、貴方が逃げるという選択をしたことに違いはないでしょう。それとも、また戻ってくるつもりなのかしら」


 その問いには、セーラは力なく首を振った。そうだろうな、と思う。リリアは少しだけだがセーラを理解できる。リリアも逃げた一人であり、さくらがいなければ学園に戻ってくることはなかったはずだ。もっとも、さくらの話では学園に戻りはしたようだが。


「学園に留まるつもりはないの?」

「はい……。正直、耐えられません。この一週間でそれは理解しました……」


 それもよく分かる。リリアは午前中しか見ていなかったが、あれほど徹底的にいないものとして扱われるのは相当こたえるものだろう。ある意味では嫌がらせをされるよりも辛いものかもしれない。


「ではセーラ。三つ目の選択肢を取るつもりはないかしら」

「三つ目、ですか?」

「そう。セーラ。貴方、私のものになりなさい」


 意味が分からなかったのだろう、セーラが首を傾げる。


「別に私のメイドになれ、なんて言わないわ。ある意味ではこれまで通りよ。私の下につき、私に従いなさい。その間、貴方は私の庇護下に入る。悪い話ではないでしょう」

「それは……。私にとってはとてもいいお話ですが……。リリアーヌ様に何か利点があるのでしょうか。何も、殿下に敵と見なされている私を取り込む必要はないと思いますが。他の二人なら喜んで飛びつくでしょうし」

「そんなのはいらないわ」


 セーラの頬がわずかに引きつった。今までセーラもその二人と共にいたのだから、いらないと言われるとは思わなかったのだろう。ある意味では、今までの学園生活を否定されたことになる。もっとも、リリアを選んだのはこの三人なのでリリアが責められる筋合いはない話ではあるが。


「いつ裏切るかも分からないような者など必要ないわね。その点、貴方は私以外には頼る者がいなくなる。私を裏切ることができなくなる。これほど都合のいい駒はないでしょう」


 不適に笑うリリア。セーラは顔を青ざめさせるが、反論はしなかった。


「ですが、私は殿下に目をつけられていますよ」

「あら、それが何か問題なの? あんな男、気にしなくてもいいわよ」


 学園の外なら間違いなく不敬で罰せられる発言だ。セーラは目を瞠り、次いで苦笑した。


「今までのものは殿下の気を引くためのものだと思っていましたが、本音だったのですね」

「殿下の気を引く? 私が? 冗談でも言わないで、虫唾が走るわ」

「リリア様、さすがに言い過ぎです」


 リリアの背後に控えていたアリサが、さすがに見かねたのか苦言を呈してきた。リリアは肩をすくめ、気をつけるわ、と返しておく。そのやり取りを、セーラは興味深そうに見つめていた。


「メイドとも親しげなのですね」

「別に親しくしてはいけない、なんて決まりはないでしょう」

「はい。そうですね」


 セーラは少しだけ楽しそうに笑うと、すぐに真剣な表情になった。しっかりとリリアの目を見てくるセーラに、リリアも視線を返す。笑ったりはせず、真剣に聞く。


「リリアーヌ様、本当によろしいのですか? 私が言うのもおかしいことですが、今の私は毒にしかならないと思いますよ」

「私はそうは思わないわね。私が、私の下につきなさいと言っているのよ。さっさと決めて返事をよこしなさい」


 少しばかり苛立ちを覚えて語気を強くすると、セーラはすぐに頭を下げてきた。それは謝罪のものであり、そして、


「よろしくお願い致します、リリアーヌ様」

「ええ。よろしく」


 セーラの言葉に、リリアは満足そうに笑みを浮かべた。


クリスさんとの全面対決は見送りです。

……次の日曜までにストックを増やさなければ……!


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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