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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

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「ここに来るまでにも色んな人がその噂話をしていました。王子殿下と婚約を解消したという噂も以前ありましたけど、事実みたいですね」

「そ、そうね……」

 ――リリア落ち着け! 声が震えているでごじゃる!

 ――そう言う貴方は口調がおかしいわよ。なにこの子、やっぱり私のことを知っていたの?

 ――ち、違うと思うよ。うん。違うんじゃないかな。多分、単純に話題の一つだと思うよ。


 そっとレイの顔を窺い見る。レイは教材を睨み付けて唸っていた。


「レイ。その……。そのリリアーヌって人がどうかしたの?」

「え? いえ、別に。王子殿下と口論できるなんてどんな人なのかな、と思っただけです。そう言えばリリア様は上級貴族ですよね。リリアーヌ様に会ったことはあるんですか?」

 ――さくら。これどっちなの? 気づいてるの? 気づいてないの?

 ――ん……。多分、気づいてない。

 ――分かった……。さくらを信じるわ。


 内心で深呼吸をし、こちらを見つめているレイの目を見つめ返す。レイはいつもの屈託のない笑顔だ。確かに何かを企んでいるようには見えない。


「一応知ってはいるわよ。ただ直接話したことはないけど」

 ――うん。嘘は言ってないね。

「そうですか。王子殿下と口論するぐらいですから、きっとすごく偉そうな人なんでしょうね」

「そ、そうかしらね……」


 リリアの頬が引きつってしまう。なるほど、何も知らなければそのように思えてしまうのか、少しばかり動き方を考えるべきか、と思ったところで、


 ――あのね、リリア。よく知ってる方が偉そうという感想になると思うよ。

 ――それは……。気をつけるわ……。

「いずれお話してみるわ」


 下手な話をして余計なことを言ってしまう前にと話題を終わらせることにする。レイはそれに気づいているのかいないのか、


「本当ですか? 楽しみに待っていますね」


 そう笑顔で言った。リリアは曖昧な笑みを浮かべ、視線を本の上に戻した。




 それからしばらくは、何の変哲もない毎日が続いた。あの日の翌日からリリアの取り巻きからセーラの姿は消えていたが、教室に来ていなかったわけではない。ただ、自分の席で大人しくしているだけだった。

 リリアが入ってきた当初こそ話しかけてきたが、リリアが無視していると諦めたのか自分の席に戻っている。その後も知人が入ってくるたびに話しかけていたが、誰からも相手にされていなかった。

 それでも教室から逃げずに残っているのは、素直に賞賛できる。それが反省からくるかは分からないが、彼女はしばらくは動けないだろう。


 噂で聞いた話では、セーラは放課後に王子に呼び出されていたらしい。そこで根掘り葉掘り聞かれたことだろう。セーラにとっても、王子にとっても何かしらの薬になればいいとは思うが、さすがにそれは期待できないだろうというのがさくらの予想だ。

 ちなみに、噂を聞きつけたティナにはとても苦い表情をされた。だがリリアに対して何かを言うでもなく、最後には苦笑いで、ありがとう、と言ってくれている。

 週末もその様子は変わらなかった。セーラは自分の席で、うつむいて大人しくしている。


 ――ねえ、リリア。


 頭の中に響くさくらの声に、リリアは意識を傾けた。


 ――セーラ以外の五人はいいの?


 さくらが言っているのは、ティナに不愉快な手紙を送りつけた残りの五人だ。これは密偵たちの捜査により犯人は分かっている。だがリリアはその五人には一切手を出していなかった。


 ――必要ないわよ。セーラが見せしめになってくたから、これ以上嫌がらせをするような愚かな人はいないでしょう。まあ、一時的なものでしょうけど。

 ――ふうん……。それならいいよ。


 そこまで話したところで、教室に教師と王子が入ってきた。いつものように教卓と席につき、授業が始まる。当然リリアは、


 ――今日は科学だー!

 ――はいはい。


 さくらの講義を受けるために、全ての話を聞き流し始めた。




 午前の授業が終わり、昼食を済ませ、午後は図書室で過ごす。そのいつもの一日が終わった後、リリアは自室に戻らずに教室に向かった。

 ちょうど授業が終わったところのようで、教師が教室から出てくる。リリアの姿を認めると、ぎょっとしたように目を剥いた。


「先生、それは少しばかり失礼ではありませんか?」

「あ、ああ……。すまない。戻ってくるとは思わなくてな……。だがな、アルディス。失礼と言うなら、授業をまともに聞いていないお前には言われたくないぞ?」

「あら。気づいていたのですか。申し訳ありません」

「直す気がないというのはよく分かった。まあ、成績がいい間は、これ以上は言わないさ」


 教師はそこで会話を終わらせると、そのまま廊下の奥へと姿を消した。それを見送ったリリアは少しだけ感心したような表情をしていた。


 ――あの先生、気づいてたんだね。リリアが全く授業を聞いていないことに。

 ――気づかれるとは思わなかったわ……。意外と見られているものね。もう少し気をつけないと。


 せめてもう少し有意義な授業なら、と思うが、さくらの講義と比べるのは酷というものだろう。リリアはため息をつくと、教室の扉を開けた。

 雑談をしていたのか教室の中は騒がしかったが、リリアが入った途端に静かになった。何も気にしなくていいのに、と思いながら教室をぐるりと見回す。誰もがリリアから視線を逸らしていた。

 不思議に思いながらも、目的の人物を、セーラを探す。そしてそれはすぐに見つかった。

 セーラは自分の席に座ったままだった。うつむいているため表情は見えない。そしてそのセーラの周囲には、クリスたちが立っていた。リリアの取り巻き残り二人の姿もある。それを見ただけで、彼女たちが何をしていたのか想像できた。


 ――馬鹿王子は何をしているのよ。

 ――この部屋にはいないね。まあふらっといなくなる人だし、仕方ないんじゃないかな。

 ――仮にも王子というわけね。城から呼び出しでも受けているのかしら。そんなことより……。


 リリアがクリスたちを見ると、誰もが気まずそうに視線を逸らした。やれやれと首を振り、そちらへと歩いて行く。


 ――リリア。助けてあげてね。

 ――分かっているわよ。


 リリアは短く返事をして、クリスたちの前に立った。


意外と鋭い先生さん。


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ではでは。

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