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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

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「それじゃあ私は夜会の準備があるから」

「あ、ああ……。まあ、気をつけて……。あ、そうだ。紙とペン、あるかな」


 リリアは怪訝そうに眉をひそめながら、机からさくらとの勉強で使っているものを取り出した。受け取ったアイラが、やっぱり高級品だ、と恐れおののいているが、気にすることでもないだろう。何をするのかと思って見守っていれば、アイラは何かを紙に走り書きしていた。

 そして無言で渡されたそれを見てみれば、地図だった。学園からいくつかの店を回るコースが書かれている。これは何かという意味を込めてアイラへと視線をやると、アイラは少し頬を染めてそっぽを向いていた。


「あたしたちがよく行く店だ。その通りに行けば順番に回れるよ。夜会を抜け出して、だとあまり時間ないだろ? 初めてならそれがおすすめだよ」

「あら……。ありがとう。使わせていただくわ」


 リリアは紙をしげしげと眺めると、それを丁寧にたたむ。


「ああ、それと。他の店には行くなよ。興味があるものがあれば後で言ってほしい。おすすめの店を教えてやるから」


 外れが多いからな、とアイラが苦笑する。ここまでされると、さすがに疑ってしまう。


「ずいぶんと良くしてくれるけど……。何か目的があるの?」


 そう聞くと、アイラはそうなるのか、と少し驚いたようだった。どう説明しようかと考えるようにあごに手を当て、考え始める。そのまま少し待っていると、やがて首を振った。


「うまく言葉にできない。まあ、目的ならあるよ」

「なにかしら。これに見合う価値のものなら、応えてあげるけど」

「はは。それだと何もしてもらえなくなるよ」


 リリアにとってはこの情報はそれなりに価値のあるものなのだが、どうやらアイラはそう考えてはいないらしい。訂正するつもりもないので、アイラの要求を待つ。


「別に難しいことじゃない。これからもティナと仲良くしてやってほしい。それだけだ」

「それは……。もちろんそのつもりだけど。貴方自身は何もないの?」

「ないね。まあ、そうだなあ……。今後ともよろしく、てことで」


 アイラはそう言って笑顔を見せると、それじゃ、と手を上げて退室していった。そのまま、部屋の前で待機していたのだろうアリサと共に気配が遠ざかっていく。リリアはゆっくりと息を吐き出すと、いすに深く腰掛けた。


 ――自分のことよりティナのことだなんて……。理解できないわ。

 ――親友、なんだろうね。いいなあ、羨ましいなあ。あ、でも私はリリアのこと、親友だと思ってるよ。

 ――やめて、気持ち悪い。

 ――ひどい!


 さくらがどれだけリリアのことを考えているか、というアピールを長々と聞いていたが、リリアはそれらを全て黙殺した。アイラから受け取った紙を広げて眺めるリリアの口角がわずかに上がっていたのだが、リリア自身は最後まで気づかなかった。



 夕方になり、時間が迫ってきたところでリリアは自室を出た。後ろには木箱を持ったアリサが続く。リリア一人で出ようとしたのだが、さすがにその荷物を持っていては不自然だとアリサに止められてしまった。


「リリア様がお出かけになっている間、荷物はしっかり見ておきます」


 そう言ったアリサは満面の笑顔で、リリアの計画は完全に見抜かれているらしかった。それでも止めようとしないのは、リリアが考えを変えるとは思っていないためだろう。面倒な説得がないのなら最初から説明をしておけば良かったと少しばかり後悔した。


 ――でも良かったんじゃないかな。次からはこんな無理をしなくても、アリサに協力してもらえるよ。

 ――間違いなく心配されるでしょうけどね。

 ――まあ、密偵さんたちが来てくれると思うから大丈夫でしょ。


 誰からも聞いていないのに確信しているような言い方に、少しだけだが違和感を覚えた、まさか、と思いつつ周囲を軽く見回しながら、


 ――どこかに……いるの?

 ――うん。でも油断はしないでね。一人だけみたいだから、大勢に襲われたらどうしようもないよ。

 ――そうね……。気をつけるわ。


 リリアは何も知らないふりをしつつ、会場へと足を運んだ。



 いつの間に準備をしていたのか、校庭には多くのテーブルが並べられ、様々な料理が運ばれてくるところだった。リリアより早くに来ていたらしい何人かが、集まって談笑している。校庭の入口にはテーブルと男が二人。男たちはリリアを認めると、恭しく一礼した。


「いらっしゃいませ、リリアーヌ様」


 そのうちの一人にリリアは招待状を渡した。拝見いたします、と受け取り、しかし中身など確認せずにどうぞ、と入るように促してくる。


「聞いておきたいのだけど、出入りは自由かしら」

「はい。いかがなさいましたか?」

「少し忘れ物があったから、取りに戻るわ。終わるまでには戻るから、私のことは気にしないように」

「畏まりました」


 男二人の礼に送られ、リリアはその場を後にする。そして側の校舎に入ると、教室の扉の一つを開けようとする。しかし当然ながら鍵がかかっていた。


「リリア様。失礼します」


 アリサとは違う声。かつ、アリサとリリアよりも高い声に内心で驚きながら振り返る。黒装束の少女がそこにいた。少女は懐から鍵を取り出すと、その鍵で教室を開けてしまった。


「どこから持ってきたの?」

「父上に預かりました。この鍵を使うだろう、と」

「そう……」


 リリアの頬がわずかに引きつり、見守っていたアリサが苦笑を浮かべた。


 ――完全に行動パターン読まれてるね。というより秘密の計画が秘密でも何でもなくなってるね。

 ――私の気苦労は何だったのよ……。

 ――無駄。無意味。あほだね!

 ――言い出したのは貴方ではなかったかしら?

 ――だめだよリリア。過去にとらわれたらだめだよ! 未来を見ないと! お菓子が私たちを呼んでるよー!


 ずいぶんと元気な声だが、先の話題を無理矢理に逸らそうとしているのは明白だった。やれやれと首を振りつつも、さくらの提案に乗ったのは間違いなく自分自身なのでそれ以上は何も言わないことにした。

 教室で素早く着替えを済ませる。着替え終わったリリアを見て、少女二人が歓声を上げた。


「似合っていますよ、リリア様!」

「とてもかわいらしいです!」


秘密の計画(笑)


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ではでは。

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