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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

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「もしかして、だけど……」


 勘が鋭いのか、それともティナが鈍すぎるだけか。声に出して言っていいのか迷っているようで、アイラは何度もティナとリリアの間で視線を往復させる。ケイティンも察しているのか、口角がわずかに上がっていた。


「できれば内密にお願いしたいわね。……気づいてないようだし、ティナにも」

「あ、うん……。分かったよ。約束する。ティナには言わない」


 アイラがしっかり頷いて、リリアも満足そうに頷いた。そして、


「これでどうかな!」


 ティナが服を一着出してきた。広げると、真っ白なワンピースだった。装飾などはなく、とてもシンプルなものだ。


「白色だからリリアにぴったり!」

 ――ぶは! 白色! ぴったり! リリアがすごい誤解されてるよ!

 ――さくらの言い方に腹は立つけど、概ね同意よ。この子、私を美化していないかしら?

 ――ティナの中ではリリアはとてもいい人になってるみたいだね。裏切らないようにがんばれ。

 ――努力はするけど……。


 いつの間にこのような評価になっていたのだろう、とため息をつきながら、リリアは服を受け取ろうとして、


「待った」


 アイラがそれを横から奪い取った。


「アイラ?」

「どういうつもり?」


 ティナがきょとんと首を傾げ、リリアは目を細める。怖いよその目、とアイラは苦笑しつつ、


「リリアさん。あんたがこれをこのまま持って行っていいの? 間違いなく貴族連中が反応すると思うんだけど」

「ああ……。そうね。それで? そう言うからには何か良い案でもあるの?」


 挑発しているかのような問いかけだったが、純粋に気になって聞いているだけだ。それはアイラも理解したのか、真面目な表情で頷いた。


「ちょうど良いサイズの木箱があるからさ、それに入れてあんたの部屋に持って行くよ。あたしはあんたと騒ぎを起こしたところだし、詫びの品を持って行った、と見られる程度じゃないかな」


 なるほど、とリリアは頷いた。確かにそれなら不自然なところはないだろう。本来なら使用人が代わりに届けたりするものだが、下級貴族、もしくは庶民のアイラなら本人が直接訪ねてもおかしくはない。


「いいわね。それじゃあアイラさん、お願いできる?」

「ああ。任せて」


 アイラは頷くと、服を持って部屋を出て行った。ケイティンも頭をしっかりと下げてからその後を追う。残されたリリアとティナは、それを見送った後、


「いいお友達ね」

「えへへ。私にはもったいないぐらいだよ」


 友達が褒められたのが嬉しいのか、満面の笑顔だった。


「それじゃあ私は部屋に戻るわね。ティナ、このお礼は必ずするから」

「別にいいよ。その代わり、また一緒にご飯、行こうね」


 そう言って屈託無く笑う。リリアは一瞬だけ目を見開くと、ええ、と静かに頷いた。



 ――ティナは欲がないね。リリアにはもったいない友達だ。

 ――ええ、本当に。

 ――いや、そこは同意しないでよ。これからのリリアにはふさわしい友達だよ。ほんとだよ?


 寝室でさくらと言葉を交わしながら、リリアはアリサが用意したドレスに着替えさせられていた。ドレスといっても華美なものではなく、落ち着いた印象を受けるものだ。着替えもしやすく、これならリリア一人でも脱ぐことができるだろう。ドレスの準備を始めたアリサに盗まれても困らないものをと頼んだので、リリアが着るものにしてはそれほど高いものではない。一般的なものに比べると十分に高級品なのではあるが。

 盗まれても困らないもの、と言った時に当然ながらアリサは疑わしげにリリアを見つめてきたが、特に何も詮索することなく流してくれている。ただ、密偵に対して何かを相談していたようだったので、監視を兼ねた護衛はつきそうだ。邪魔されなければそれも構わない。


 ――来たみたいだよ。


 さくらの声に、リリアは顔を上げた。寝室の扉がノックされ、アリサの声が届く。お客様です、と。


「ここまで案内してあげてもらえる?」


 リリアがそう応えると、アリサの声が途切れた。絶句したかのような気配の後、かしこまりましたと気配が下がっていく。そしてさほど待つこともなく、再び扉がノックされた。


「どうぞ」

「失礼します……」


 そうして入ってきたのは、先ほど別れたアイラだ。大きめの木箱を抱えて、挙動不審になっている。物に触れないように気を遣っているのがすぐに分かった。


「別に何かを壊して落としてしまっても私は気にしないわよ?」

「いや、あたしが気にするよ……、気にします」

「言葉遣いも先ほどと同じで結構。今更改められても気持ち悪いわ」

「うぐ……。分かったよ……」


 アイラは肩を落とすと、木箱を持ってリリアに近づく。リリアがその場の床を指差すと、木箱をその場に置いた。


「なあ、リリアさん」

「なにかしら」

「もしかしなくても……南側に行くつもりなのか?」


 未だ信じられないのか、疑わしげにそう問うてくる。リリアはしっかりと頷いた。


「ええ、そうよ。何か問題でも?」

「いや、問題はないけどさ。学園の側ってことで治安も悪くないし。ただ、ちょっとイメージに合わなくて……。何が目的なんだ?」

「どら焼き」

「え……。は?」


 自分が聞いた言葉が信じられなかったのか、アイラが目を丸くした。その様子が少しおかしく、わずかに笑みを浮かべてしまう。


「この間、ティナにどら焼きをもらったのよ。それが美味しくて、買いに行こうかなと。あと他にも色々とあると聞いたから、少し見て回るつもりよ」

「なるほどねえ……。この間ティナがどら焼きをどこかに持って行ったのは知っていたけど、まさかリリアさんだったとはね。本当に友達なんだな。嫌がらせしてたってのは単なる噂か」

「あら、事実よ? ただ和解をしただけだから」


 ぽかん、と間抜けに口を開くアイラ。くすくすとリリアは忍び笑いを漏らし、さて、と立ち上がった。


なかなか進みませんね……。


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ではでは。

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