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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

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29


 翌日とその次の日は大して何もない一日だった。早めに起床して自室で朝食を済まし、教室で授業を受ける。朝は取り巻き三人が話しかけてくるので適当に流しておく。授業が終われば食堂でサンドイッチをもらい、図書室の個室でレイと食べる。そのままレイに勉強を教えて、早めに貴族用の食堂で食事を取り、自室に引きこもる。それが二日間続いた。

 その二日とも、夕食後に密偵の少女と会っている。どうやら一日につき一人、しっかりと調べてくれているらしい。まずは取り巻き二人が調べられ、名前や家族関係などを聞くことができた。


 ――あの二人とは付き合わない方が良さそうね。

 ――うん。でも完全無視はよくないからね。適当に話を合わせておけばいいと思うよ。

 ――そうするわ。


 二人の実家に後ろ暗いところがあるわけではない。ただ、リリアとの接点があまりにもなさすぎた。時折開かれる夜会などでも会っていないはずだ。アルディスの名に釣られて何とかリリアに取り入ろうとしているのだろう。無駄なことを、と思う。もう王子との婚約もないというのに。


 ――ティナに媚びを売った方がいいと思うけどね。

 ――貴族のプライドが許さないのでしょう。くだらないわ。

 ――リリア。鏡がそこにあるから見てみるといいよ。

 ――どういう意味よ……。


 それ以外に目立ったことは特になかった。ティナが訪ねてくることも、だ。王子の目が届きそうな時に誘うとリリアに迷惑がかかるとでも思っているのだろう。そう思われても仕方がないので、しばらくは大人しくしていることにした。

 そして週末。この学園は週末二日は休みになっている。形式的には初日は自習をする日となっているが、真面目に勉強をしている者がどれだけいるだろうか。


 ――結構多いと思うけどね。レイは間違いなく勉強してそうだし、ティナもしてるだろうし。

 ――そうね。

 ――あ、もちろんリリアもだよ。さすがはリリアだよ! だから早く問題といて! 遅い!

 ――もうちょっと……。


 本当に、勉強になると厳しくなる。しかし決して無理難題を言ってくることはないので、リリアは黙々と勉学に勤しむ。今はさくらが用意した問題を解いているところだ。

 昼になり、アリサに取りに行かせたサンドイッチを食べながら、勉強を続ける。休憩は取らない。必要性を感じない。ただただ目の前の問題に集中する。

 ようやく解き終わり、さくらの解説を聞いていると、寝室の扉がノックされた。


「リリア様。招待状が届きました」

「招待状? 何の?」


 扉まで向かい、アリサから封筒を受け取る。しっかりと封のされた封筒を開き中を読む。今日の夜会への招待状だった。

 この学園は広大な敷地を持っている。月に一回から二回程度、週末にはその一角を使い、夜会が開かれていた。主催は王家であったり学園であったり、様々だ。そして主催者により、招待される者は変わってくる。極端に言えば、王家主催であれば上級貴族が呼ばれ、学園主催なら庶民含め全員呼んでもらうことができる。

 リリアは公爵家なので、全ての夜会で必ず招待状が届いている。一応恒例なのだが、この三週間があまりに濃すぎて夜会の存在そのものをすっかりと忘れてしまっていた。


「リリア様。いかがなさいますか?」


 リリアは招待状をさっと読み、主催者を確認する。王家だ。当然ながら王子も来ることを考えれば、本来ならリリアが行かないわけにはいかない。だがどうせ王子もリリアの出席など望んでいないだろう。仮病でも使おうかと思ったところで、


 ――リリア、待って!


 さくらの声に、口を閉じた。


 ――なに?

 ――夜会って、雨が降ってなければ外でやるんだよね。

 ――そうね。

 ――出入り自由だよね。

 ――そうね。

 ――人目につかない場所もあるよね。

 ――そうね。

 ――ちょっと早めに出て、そこで着替えってできる?

 ――できるわね。


 一体何を言いたいのか。早く結論を言えと苛立ち始めたところで、


 ――じゃあ、こっそり南側に行かない?


 その提案に、リリアは息を呑んだ。目を伏せ、しっかりと考える。南側に行けないのは、リリアの顔がこの近辺では有名であることと、そしてリリアの家柄の問題だ。ならば顔を隠すことができれば、いけるのではないか。


 ――さくら。

 ――なにかななにかな!

 ――その話、乗ったわ。


 さすがリリア、とさくらは嬉しそうに笑った。リリアは小さく頷くと、アリサへと向き直った。


「行くわ。準備をお願いできる?」


 これまでの経緯からまさか行くとは思わなかったのだろう、アリサが目を見開いて絶句していた。しかしすぐに気を取り直すと、恭しく一礼した。


「畏まりました」


 そうしてアリサが部屋を出て行き、リリアは机に戻る。さて、とこれからのことを考えようとしたところで、


 ――さくら。変装はどうすればいいの?

 ――あ……。


 そう。変装するにしても、持ち合わせがない。リリアの部屋にあるのは制服か、華美なドレスばかりだ。今から買いに行くにしても、現在リリアが行ける店は北側のみ。当然ながら変装できる服は売っていない。


リリア様、南側に行く、前編?


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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