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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

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「アリサ。悪いけどもう一杯、お願いできる?」

「はい。畏まりました」


 恭しく一礼して、アリサは紅茶の準備へと向かう。それを見送ってから、リリアはまた三人に視線を向けた。

 正直、リリア自身やり過ぎだとは分かってはいる。おそらくさくらも本来なら注意してくるだろう。だが今回ばかりはどうしても許せなかった。兄の命令で来たのなら、父に会っていない可能性もある。ならリリアがアリサをもらったと知らないのも無理はないだろう。しかし、リリアにとってはそんなことはどうでもいいことだ。調べることが仕事の者が調べることを怠ったのだから、リリアにとっても知ったことではない。


 ――お、終わった? 終わったよね?

 ――ええ。そう言えばずいぶんと静かだったわね。

 ――うん……。怖かったから……。本気で怒ってるのが分かったから、黙ってた。

 ――ああ、そう……。ごめんね、驚かせたわね。


 優しく謝罪を口にする。するとさくらから驚いたような気配が伝わってきた。


 ――その、ね。私は別にいいよ。それだけリリアがアリサを大事にしてるってことだから。いい傾向だと思うから、何も言わないよ。

 ――そう。ありがとう。

 ――でもやり過ぎだからね?

 ――そう、ね……。反省するわ。


 気持ちを落ち着かせるように、ゆっくりと息を吸って吐き出す。その間、誰も一言も喋らない。重苦しい沈黙が場を支配していた。そんな中でリリアが再び三人を見据える。老人と男はその視線を受け止めたが、少女の方はあからさまに怯えて目を逸らしてしまった。

 男がそれに気づき、少女を横目で睨む。少女はびくりとまた体を震わせると、すみません、とその場で項垂れた。


 ――これって、私が怯えられてるのよね? 何かしたかしら?

 ――あれを見たら誰だって怖いよ、自覚しようよ。

 ――この子に対してはまだ怒ってないのだけど。

 ――怒り方を見ただけで十分だから!


 そんなものか、と納得しておくことにする。リリアは努めて笑顔を浮かべると、少女を見た。少女の震えが大きくなる。


 ――ここまで怯えられるとは思わなかったわ。

 ――うん。仲直りは諦めてお仕事の話でもしたら?

 ――そうしましょうか。


 リリアはあからさまに小さくため息をつくと、老人へと向き直った。少女の顔が青ざめるが、今となってはどうでもいい。男はそんな少女に落胆したようなため息をついた。


「貴方たちに私から仕事を依頼してもいいのかしら?」


 この言葉は予想外だったのか、老人が目を瞠った。だが一瞬後にはすぐに無表情になっていたのはさすがというべきか。


「クロス様からリリア様を手助けするように言付かっております。何なりとお申し付けください」

「そう。じゃあ何人かの身辺調査をお願いするわ」

「身辺調査、ですか。どなたのでしょうか?」

「とりあえず私のクラス全員。ああ、さすがに殿下については必要ないわ。あと、図書室でよく勉強をしているレイっていう子もお願い」


 その人数の多さに驚いたのか、今度は男がわずかに眉を寄せていた。しかしこちらもやはりすぐに表情を消す。


「人数が多いので少々お時間をいただくことになりますが、よろしいでしょうか?」

「ええ。ただ定期的に……。そうね、一日に一回は報告に来なさい。その子がいいわ」


 リリアが指で指し示したのは、先ほどから怯えている少女だ。少女がこの世の終わりを見たかのような表情になっているが、リリアも今更意見を変えるつもりはない。


「何か問題はある?」

「いえ。問題ありません。確かに承りました」


 少女に聞いたつもりだったのだが、答えたのは老人だった。リリアは少しだけ残念そうに目を伏せ、すぐに首を振る。気を取り直して、では、と続ける。


「任せたわ」


 三人はしっかりと頷くと、天井の穴へと戻っていった。それを見送って、リリアは小さくため息をついた。


 ――ところでさくら。今も誰かいるの? それとも全員行ったの?

 ――さすがに一人だけは残ってるよ。リリアの護衛もしないといけないから。

 ――別にいいのに。学園で襲われたなんて聞いたことがないわ。

 ――リリア。見えてるものが全てじゃないよ。


 リリアがわずかに眉をひそめる。その言い方はまるで、過去何かがあったような言い方だった。


 ――命知らずもいるんだよ。


 さくらは楽しげに笑っていた。



「リリア様。お客様です」


 密偵三人との話の後、寝室で勉強をしているとアリサが声をかけてきた。誰が来たのか察したリリアは苦笑しながら席を立つ。部屋の扉まで行くと、やはりというべきか、ティナが立っていた。


「こんばんは、リリア。ご飯、どうかな? あ、これどうぞ」


 ティナが差し出してきた小さな紙の箱を反射的に受け取ってしまった。見ると、いくつかの焼き菓子が入っていた。


「お誘いありがとう。これはなに?」

「どら焼きだよ。知らない?」

「聞いたことはあるけど、初めて見たわね……」


 試しに一つ手に取ってみる。まだほんのりと温かい。どうやら買って間もないらしい。リリアは恐る恐るそれを口に入れた。


「……っ!」

 ――美味しい……!

 ――どら焼きだあ! こっちにもあるなんて! もしかして他にもあるのかな?

 ――他? 似たようなものがまだあるの?

 ――あるよ! いっぱいあるよ! たい焼きとか大福とか!


 少なくない興味を覚え、リリアはティナへと視線を向ける。ティナは嬉しそうな、満面の笑顔だった。


密偵三人の名前は未だにつけておりません。どうしましょうか……。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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