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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
番外編(S)・後日談(A)

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川遊び

壁|w・)暑いので勢いのまま書きました。

とても申し訳ないのですが、誤字脱字チェックをしていないのです……。

もし見つけたら、こっそり報告を入れてくれるとありがたいのです……


「リリアー。暑いよー」


 リリアの執務室で、さくらがテーブルに突っ伏していた。その手には冷たい水が入っていたカップが握られているのだが、すでに空になっている。その様子をちらと見て、リリアは言った。


「そうでもないけど」

「魔法使ってるからね! そうだろうね! ずるい!」

「ずるいも何も、精霊って暑い寒いは関係ないはずでしょう」


 精霊にも感覚はあるらしいが、暑すぎたり寒すぎたりすれば感覚を切ることができる、と以前聞いたことがある。でなければそういった地方にいる精霊がまともに仕事ができなくなるためだ。

 感覚を切ればいいだろうに、と視線だけで言ってやると、さくらはそっと目を逸らした。


「それがね。女神様が変な気まぐれ起こしたんだよ」

「気まぐれ?」

「うん。たまには人間がどう感じているか知るべきだから、今日は感覚を切ることを禁じますって」

「それはまた……」

「そう言った女神様が暑さでダウンしてゾンビみたいになってるのには笑えたけどね!」

「こら」


 ぞんび、というのはよく分からないが、まあ今のさくらみたいな状態だろう。提案した女神自身がダウンとは、この世界はいろいろと大丈夫だろうか。


「ということは、今日は他の精霊も?」

「はい、この通り」


 そう言ってさくらがテーブルの下に手を突っ込んで、引き抜くと。ぐでっと力が抜けたスピルがぶら下がっていた。薄く目を開けて、リリアを一瞥して、また目を閉じる。想像以上に辛いらしい。


「スピルは大変そうね」

「うん。うん……? 私は!?」

「それだけ騒ぐ元気があれば大丈夫でしょう」

「空元気だよ! 心配してよ! ぶーぶー!」

「心配する価値があったの?」

「ひどい」


 そろそろさくらが泣きそうなのでこの辺りでやめておく。あまり言い過ぎると拗ねて少しだけ面倒になるのだ。まあ、お菓子であっさりと機嫌を直すのだが。


「まったく。そんなに言うほどのものなの?」


 言いながら、執務机の下に貼り付けている魔方陣を切る。空気の層を作って中を冷やす魔方陣だ。これで外の、さくら曰く暑い空気が中に……。


「なにこれあっつい」


 想像以上に暑い。思わずリリアの頬が引きつる。さくらも文句を言うわけだ。

 さくらは普段女神に対して不平不満を言うことがほとんどない中、今日は女神へぶつぶつと文句を言っている。それから少しは察するべきだったか。


「リリアー。暑いよー」


 先ほどと同じ言葉。だが今回ばかりは、無下にすることもできない。さすがに少々、同情してしまう。


「でも、私には何もできないわよ」


 この世界の魔法は、精霊たちに協力してもらって効果を発揮する。女神の言いつけなら、さくらをその効果に入れることはしないだろう。リリアにはどうすることもできないことだ。

 いくらさくらでも、それぐらいは分かりそうなものなのだが。


「ん……? 今、何か失礼なこと考えなかった?」

「さくらは馬鹿ね」

「ストレートな罵倒!? ひどい!」


 ぎゃあぎゃあ、といつものように騒ごうとして、しかしすぐに静かになった。テーブルに突っ伏して、


「あっつい……」


 なるほど、これは重症だ。

 さて、どうしたものか。アリサに言えば氷ぐらい用意してくれるかもしれないが、きっとすぐに溶けてしまうだろう。あまり意味はないと思う。

 少し考えていると、さくらがこちらを見ていることに気が付いた。


「なによ」

「うん。ねえ、リリア。川に行こうよ。泳ごうよ。入ろうよ」

「気が狂ってるの?」

「そこまで言う!?」


 そこまでのことだ。公爵家という正真正銘の大貴族が、川に入って遊んでいる。他の貴族たちに何を言われるか分かったものではない。


「私が入りたいの。そう言えばきっと大丈夫だよ」


 それは確かにそうだろう。リリアが自分から入ったとなると問題しかならないだろうが、さくらが入ってその付き添いとなれば、誰も文句は言わないはずだ。


「だめ?」


 こてんと。首を傾げて聞いてくる。なるほど。


「気持ち悪い」

「ひどい」


 いつものやり取りをしつつ、それでもさくらの期待の籠もった眼差しは変わらない。リリアは大きなため息をつくと、仕方ないと首を振った。


「準備をするから、ちょっと待っていなさい」

「わーい! さすがリリア、話が分かる! よ! 女帝!」

「喧嘩を売っているのね……?」

「ひい!? ごめんなさい冗談です!」


 ぱたぱたと走って逃げていくさくら。リリアはもう一度ため息をつくと、黙って側に控えていたアリサに準備を頼んだ。

 それにしても。


「あれだけ元気なら、もう行く必要ないんじゃないの?」


 さくらが文句を言ってくるのは目に見ているので、言わないけども。




 当然ながら川遊びに行くと聞いたアリサは良い顔はしなかったが、さくらの我が儘だと聞くと小さくため息をついた。メイドの態度としては許されないことではあるが、気持ちは十分に理解できるので何も言わないでおく。むしろ迷惑をかけて申し訳ないぐらいだ。

 神に対して特に何も思っていないファラに至っては、女神は馬鹿なんですかと言う始末。これも理解できるので何も言わない。特に今回の発端は間違い無く女神だ。何を考えているのやら。


 ともかく、馬車に揺られること二時間。王都から少し離れた人目のない川にたどり着いた。さすがに王都の川には入れない。

 さくらが精霊に何かを指示する。何をしたのか聞いてみると、光を屈折させて見えなくするうんぬんかんぬん。なんとなく理解はできるが、面倒なので聞き流しておく。


「さらっとひどい。聞いてきたのはリリアなのに」

「理屈なんてどうでもいいから」

「えー。人生ってのは勉強なんだよ」

「さくらが言うの……?」

「どういう意味!?」


 騒ごうとしたところで、そのままさくらは元気を失った。空元気というのは本当らしい。


「ほら、さくら。川よ。準備ができたなら入ってきなさい」

「リリアは?」

「ねえ、さくら。海に面していない国の貴族が泳げるとでも思っているの?」

「あー。だよね。覚える気もないよね」

「ないわね」


 例え覚えたとしても、次に泳ぐ機会などそうそうない。それこそ女神が阿呆な思いつきをしない限りは。


「それじゃ、いってきまーす」


 ぽんぽん服を脱いで素っ裸になってしまった。これには思わずリリアが頬を引きつらせた。もう少し慎みを……。


「さくらに期待するだけ無駄ね」

「何のことか分からないけど、馬鹿にされたのは分かった」


 言いながら、川に飛び込みに行く。よく見るとスピルも首根っこを掴まれて連行されていた。まあ、あの子にとってもいいことだろうから、放置していていいだろう。


「すずしー!」


 ばちゃばちゃと泳ぎ始めるさくら。器用なものだと思ってしまう。よく泳ぎ方なんて知っているものだ。誰に教わったのだろう。

 そんなことを呟くと、同行していたファラが教えてくれた。


「私たちの世界では、全ての子供が教わります。さくらが特別なわけではありません」

「あら。そうなの?」

「はい。私たちの国は海に囲まれていましたから」


 なるほど。それなら教わっていてもおかしくないかもしれない。仕事に関わりがなくても、海に接する機会はきっと多いことだろう。


「リリア様。せっかくですし、足だけでもつけてみませんか? 気持ちいいですよ」

「ファラ。リリア様に何を言っているの」

「アリサさんも是非。足だけでも気持ちいいですから。誰も見てないわけですし」

「…………」


 アリサが黙った。これは、少し興味がある反応だ。リリアも、ファラがそこまで言うとなると、なんとなくやってみたくなる。


「そこまで言うなら……」


 先に折れたのはリリアだった。アリサに止められる前に靴を脱いで準備をしてしまう。普段ならあり得ない草の感触を足の裏で楽しみながら、川辺へと向かう。

 穏やかな流れの川だ。ふと少し遠くを見ると、スピルを頭の上に載せたさくらがこちらを見ていた。


「入るの?」

「足だけね」

「入ればいいのにー」

「嫌よ」


 足先を川につける。ひんやりとした冷たい水の感触。なるほど、これは少し、気持ちいいかも知れない。この暑い季節なら格別だ。

 地面に座り、足を川に入れてしまう。うん。意外といいかもしれない。


「気持ちいいでしょ? ほらほら、入りたくならない?」

「さすがにそれはないわよ」

「ぶー」


 さくらは不満そうだが、人の目がないとしても泳げないので入ろうとは思えない。さすがに恐怖心の方が勝るというものだ。

 何故だろう。これを言ったら、さくらが何を言うか想像できてしまった。恐怖心とかあったの、とか言われそうだ。あとで殴る。


「今、何故か悪寒がした。リリア、何か変なこと考えてない?」

「この苛立ちをさくらにぶつけようかなと」

「理不尽!」


 すすす、と離れていくさくら。心配しなくても冗談だ。……多分。


「あ、あの……。私も、失礼します」


 そんな声がしたので隣を見ると、アリサがリリアの隣に座るところだった。そのさらに隣には、ファラの姿もある。二人そろって足をつけて、アリサは少し目を瞠り、ファラは薄く目を細めた。


「川の水はこんなに冷たいものだったのですね……」

「いやあ、昔昔にキャンプに行った時を思い出すなあ」


 ファラの言葉は、おそらく前世の話だろう。さくらが聞けば共感を示したかもしれない。

 さくらが泳ぐのを眺めながら、リリアたちはのんびりとした時間を過ごしていた。




 屋敷に戻ってから。


「あーつーいーよー」

「結局こうなるのね」


 再びテーブルに突っ伏したさくらに、リリアたちは顔を見合わせて肩をすくめていた。


壁|w・)今回の戦犯は間違い無く女神様。

他の大精霊からもぐちぐちと文句を言われて陰で泣いていた、かもしれません。

誰得の水着回、と見せかけて、誰一人として水着を着ていない。


今回は宣伝はありません。本当にただ単純に書きたくなっただけです。

でも近いうちに新作は投下するかもしれないので、その時にもまた何か書いてきますよー。

ちなみに新作のタイトルは『座敷童の異世界旅暮らし』(仮)です。いずれそのうちー。


ではでは!

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