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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

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 何故か、しばらく返答がなかった。やはり一人ではまずいかと諦めようとしたところで、さくらからの声が届いた。


 ――『あっち』って……。昨日の夜に行った方、だよね……?

 ――他にどこがあるのよ。

 ――あ、うん。えっと……。問題ない、と思うよ。うん。いいんじゃないかな。


 どうやらさくらは反対ではないらしい。リリアは安堵のため息をつくと、席を立った。食堂へと一人で歩いて行く。


 ――どういう心境の変化?

 ――別に……。昨日の料理が美味しかったから、ではだめ?

 ――だめじゃないよ。むしろいいことだよ。よし行こう今すぐ行こう!


 そんなに意外だったのか、と思うと同時に、そうだろうなとも思う。リリア自身、昨日のことがなければあんな場所には絶対に行かなかっただろう。ただ、どうしても昨日の料理の味が忘れられない。せめて完食はしておきたい。


 ――あ、ピーマンはだめだよ! ちゃんとピーマン抜きって言ってね!

 ――分かってるわよ。相談してみる。


 リリアは少なくない期待を抱きながら、食堂に向かった。



 食堂はとても混雑していた。部屋の中を見ながら前を通るだけでその様子を確かめられる。それだけでリリアが諦めるのは十分だった。


 ――リリア。ご飯は?

 ――混みすぎでしょう……。今日はいいわ……。

 ――晩ご飯は自由に食べられるけど、お昼ご飯はみんな同じ時間だからね。そりゃこうなるよ。でも、どうするの?


 リリアは少し考え、貴族用の部屋へと入る。すでに見知った顔の生徒が席につき、優雅に紅茶などを飲んでいる。隣の部屋とは雲泥の差だ。リリアも先日までは特に疑問も思わずにここで食事をしていたので、今更ここで食事をする者に何かを言うつもりはない。

 だが、どうにもここで食事をしようとも思えなかった。


 ――じゃあテイクアウトだね!

 ――ていくあうと?

 ――む、これは通じないのか……。受付の人に言って、外で食べられるようにしてもらったら? サンドイッチとかでも作れるでしょ。あんな料理が作れるんだから。


 なるほど、とリリアは頷いた。早速奥のカウンターに向かい、そこに立っている者に声をかける。サンドイッチを用意できるか聞いてみると、心底驚いたように目を見開いていたが、すぐに、もちろんですと頷いた。

 できあがるまで側の席に座って待っていると、先ほどの取り巻き三人を見つけた。どうやらあちらはリリアには気づいていないようで、黙々と食事を続けている。会話とかないのか、と思ったが、そう言えばリリアと一緒に食べていた時もリリアが話しかけなければずっと静かだったことを思い出した。


「お待たせしました」


 カウンターの奥からの声にリリアは顔を上げた。料理人らしき初老の男が笑顔でリリアを見つめていた。その手には小さなバスケット。それを受け取ると、ほんのりと熱が伝わってきた。


「ここに長い期間勤めておりますが、こちら側でサンドイッチの注文を受けたのは初めてですよ」


 そう言う男の顔はとても嬉しそうだった。リリアは不思議に思いながらも、ありがとうと礼を言って、食堂を後にする。手に持っているだけで、いい香りが鼻先をくすぐった。


 ――リリア! 早く食べようよー!

 ――そうね……。


 視線を巡らせる。エントランスにも大勢の生徒がいる。とてもではないが落ち着いて食べることなどできない。少し考え、リリアは移動することにした。



「入るわよ」


 リリアがそう言って入るのと、


「ぶふっ! げほっ……!」


 レイが驚きからかむせたのは同時だった。唖然とした様子でレイはまじまじとリリアを見つめてくる。レイの目の前には小さな木製の弁当箱があった。


「驚きました……。リリアさん、どうしたんですか?」


 小首を傾げて聞いてくる。リリアは答えずに、手に持っていたバスケットをテーブルに置いた。いすを出そうと積んでいるところへ向かおうとして、


「どうぞ」


 いつの間にかレイはいすを持って側に立っていた。何という早業だ、と思いながらも、ありがとうとそのいすに座った。


「別に用件はないわよ。落ち着いて食事をできるところを探して、ここに来ただけ。せっかくだし、一緒に食べましょうか」

「僕とですか? はい、喜んで」


 嬉しそうに満面の笑顔を見せてくれる。屈託ない笑顔にリリアの口角も自然と上がった。

 リリアはバスケットの中身にかけられていた白い布を取り、側に置く。中を見てみると、サンドイッチがぎっしりと敷き詰められていた。う、とリリアが思わず眉をしかめる。複数人で食べるとでも思っていたのだろうか。

 リリアは簡単に祈りを済ませ、一つを手に取り口に入れる。しっかりと味わっていると、


 ――おお、美味しい……。なにこれリリアもっと食べようよ早く早く!

 ――うるさいわね……。


 どうやらさくらのお気に召したらしく、次を早くとリリアを急かす。苦笑しつつも食べ進み、機嫌良さそうに鼻歌を歌い出したさくらにリリアは笑みを零した。そしてふと視線を上げると、きょとんとした表情でこちらを見つめているレイと目が合った。


「なに?」


 リリアが聞くと、レイが慌てたように首を振る。


「いえ、その……。美味しそうに食べているなと思いまして……」


 邪魔してすみません、と頭を下げようとするレイに、リリアは大量にあるサンドイッチを一つ取ると、それをレイに差し出した。首を傾げるレイに、リリアは言う。


「あげる」

「え、あの……。いいんですか……?」

「私だけだと食べきれないのよ。遠慮なんてしなくていいから、食べなさい」


 それじゃあ、とレイは受け取ると、すぐに口に入れた。大きく目を見開き、美味しい、と言葉を漏らしていた。


「まだまだあるから、好きなだけ食べなさい」


 そう言ってバスケットをテーブルの中央に移動させる。レイも遠慮するのをやめたのか、すぐに二つ目に手を伸ばした。食べ進めるレイの笑顔は、見ていて何故かほっとする。


 ――やばいこの子和む、でもそんなことよりサンドイッチが美味しいよ! リリアもっと!

 ――はいはい……。じゃあこのピーマンの入ったものを……。

 ――え……。り、リリアが食べたいなら、我慢、する、よ……?

 ――冗談よ。そんな本気で泣かないでよ……。


 ピーマンを食べると言った直後からさくらの声が震えていた。昨日のことといい、何故そこまで嫌いなのか。妙なところでさくらの過去が気になってしまった。


今日で投稿開始から1ヶ月です。……あれ、あまり進んでない気がする……?

今後とも暇つぶし程度にお読みいただければ幸いなのですよー。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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