ちまき
壁|w・)ちまきを食べていたら唐突に浮かんだ小話です。
今書き上げたところなので誤字脱字のチェックはしていません。
ごめんなさい。
もぐもぐ。
リリアは自室で対面に座る相手を、少し呆れたような目で見ていた。対面に座るのはいつものごとく、とても精霊には見えない精霊もどきのさくらだ。
「今何か失礼なこと考えなかった?」
「気のせいよ」
もぐもぐもぐ。
短く会話を交わした後も、さくらの口は止まらない。手に持った食べ物を幸せそうに食べている。それは、リリアの知らないお菓子だ。さくらが毎日のように食べる苺大福とは違う。緑色の葉に包まれた白い細長い、おもちのようなお菓子。ひものようなもので巻かれている。
昼過ぎにリリアが自室に戻ってきて間もなく、さくらがどこからかこの得体の知れないお菓子を大量に持ち込んできた。今もテーブルの上にはこのお菓子が何十個と積まれている。テーブルに置いた直後から、さくらは一心不乱にこれを食べ続けている。
試食か何かで持たされて食べさせられているのか、とも少しだけ思ったが、さくらは終始ご機嫌なのでそれは違うだろう。
「ねえ、さくら」
リリアが声をかけると、む? と口を動かしながらリリアへと視線を向けてきた。
「それは、なに?」
「ちまき」
「ちまき?」
「ちまき」
美味しいよ、とさくらが一個差し出してくる。リリアは少し躊躇してしまうが、とりあえず受け取って食べてみることにした。ひもを解いて、草を取って、白いものを口にいれる。
「中に何か入っているのかと思っていたのだけど、何もないのね。不味くはないけど……」
「すごく美味しいってわけでもないよね」
「そう、ね……」
「素朴な味なので私はとても大好きです」
「みたいね」
幸せそうなさくらの声にリリアは薄く苦笑を漏らし、残りをさっさと食べてしまう。食べ終わったところで、ふむ、と小さく頷き、
「ねえ、さくら。もう一個……」
「いいよー」
「ありがとう」
もぐもぐもぐもぐ。
二人で会話もなく黙々と食べ続ける。先ほども言った通り、リリアにとってこれはとても美味しいというわけではない。そして不味いというわけでもなく、悪くはない、というもの。ただ何故か、ついつい手が伸びてしまう。
「ちなみにこれ、今日しか食べられないよ」
「は?」
「なんで怒るの!? えっと、気に入った?」
認めるのは負けのような気になりつつも、渋々といった様子で頷いておく。さくらは嬉しそうに破顔した。
「で、理由は?」
「うん。これ、子供の日に食べるものなんだよ」
「なにそれ」
「あ、そこからか」
さくら曰く、さくらの世界には五月五日は子供の日と呼ばれる特別な日らしい。子供のための日、なのだとか。その時に食べるものの一つがこのちまきだそうだ。
「平民の人には子供の日って一応あったみだいだけど、貴族にはないんだね」
「そうね。初めて聞いたわ」
「ふむ……。まあ平民の間でも休みとかじゃなくて、こういったお菓子を食べる日になってるみたいだしね」
賢者さんはもっとちゃんと伝えるべきだ、とさくらは頬を膨らませる。ついいつものくせでその頬で指でつつくと、ぷすぷすと空気が漏れた。
「何するの」
「何となく。それよりさくらとしては、お菓子があればいいんじゃないの?」
「失礼な! だが否定はしない!」
再びさくらがちまきを頬張る。先ほどまでの表情はどこへやら、すぐに幸せそうに頬が緩んだ。それを見ながら、リリアももう一個手に取る。
「リリア」
「え、あ……。ごめんなさい。食べ過ぎね」
「いや別にそれはいいんだけどね。いや同じ意味だけど」
首を傾げるリリアに、さくらは無情に告げた。
「太るよ」
「……っ!」
凍り付くリリア。気にせず食べ続けるさくら。いつの間にいたのかテーブルの下でちまきをかじるスピル。
リリアは少し考えて、ふっと小さく笑った。
「ダイエットはいつでもできるわ」
「もぐ?」
「でもちまきは今しかないのでしょう」
「もぐ」
「じゃあこちらを優先するに決まっているでしょう」
今度こそちまきを手に取り、また口に入れる。うん。これはこれで、やはりいい。
「気に入ってもらえて、私はとても嬉しいです」
「はいはい」
スピルを膝に乗せて、また食べ始める。スピルは器用に前足でちまきを持ち、食べている。精霊でも好きになる味なのだろうか。
テーブルの上が綺麗になるまで、リリアとさくらは二人でちまきを食べ続けていた。
「ちなみに柏餅もあります」
「ふむ……。もう結構食べたのだけど」
「いらない?」
「いらないとは言ってないでしょう。いただくわ」
「わーい」
壁|w・)年に一度の楽しみ、ちまき。
柏餅は年中あったりしますが、ちまきは子供の日前後しか見かけないのですよね。
ちょっと寂しい。




