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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
番外編(S)・後日談(A)

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A7 ファラ1

壁|w・)後日談その7。とある孤児のお話です。

 この国は豊かだ。精霊たちの加護もあり、あらゆる作物は豊作が約束されている。大地を休ませるために時折不作になる時もあるが、精霊たちから事前に連絡が入るという至れり尽くせりだ。

 だがそれほど豊かな国であっても、やはり貧しい者はいる。誰かに騙されたり、商いに失敗したりと、理由は様々だ。そしてそういった者たちにも子供がいる。自分たちでは育てることができない、と判断した大人たちはいくつかある孤児院に子供を預けることになる。

 孤児院は国が運営しており、大勢の子供たちが一つ屋根の下で生活していた。


 彼女、ファラもその一人だった。

 赤いセミロングの髪で、比較的整った容姿をしている。誰に対しても物腰が柔らかく、兄弟とも言える多くの子から慕われていた。今では国から派遣されてくる院長と二人でこの孤児院を切り盛りしている。

 院長はおっとりとした女の人で、少し頼りない。だが怒らせると怖いということもファラは知っている。

 だがファラも一応は孤児院に住む子供という扱いだ。それ故にそろそろ仕事を決めなければならない。そう思っていたところに、その話は舞い込んできた。


「ファラ。ちょっと来なさい」


 ある日、洗濯物を終えて一息ついていると、院長から呼び出しを受けた。子供たちを宥めつつ、院長の私室に入る。机と本棚、ベッドが一つずつあるだけの質素な部屋だ。院長は神妙な面持ちで封筒を差し出してきた。


「ファラ。先日ここを訪れた貴族の方は覚えてる?」

「え? 視察に来られた方ですよね。伯爵家の、レイモンド・フォート様、でしたよね?」


 数日前、視察という名目でここに伯爵家の男が訪れた。その男、レイモンドは適当に孤児院内を見て回り、そしてすぐに帰ったはずだ。子供たちを不愉快そうな目で見ていたためによく覚えている。そして、何故か妙に話しかけられたことも。


「そのレイモンド様が貴方をいたく気に入ったそうで……」


 とても、嫌な予感がする。顔を青ざめさせるファラに、院長は無情にも告げた。


「貴方を、フォート家のメイドとして迎え入れたい、と」

「正気ですか?」


 思わずといったように口を滑らせたファラに、院長は苦笑して肩をすくめた。

 フォート伯爵家。伯爵、つまりは上級貴族だ。孤児が上級貴族のメイドをするなど聞いたことがない。院長に時折礼儀作法を習ったりもするが、それでも貴族と比べると児戯のようなものだ。そんな孤児を雇うなど、正気を疑ってしまう。


「ファラ。どうする?」


 院長の気遣わしげな視線に、ファラは渋面を浮かべた。

 正直に言えば、行きたくない。伯爵の正気などどうでもいいが、周囲からは良い目を向けられないだろう。時折ならばともかく、毎日それではとても耐えられる気がしない。ここにも、戻って来られなくなるだろう。


 だが、相手は上級貴族だ。ファラに拒否権はなく、だからこそ院長も気遣うような目になっている。形式的に聞いてくれてはいるが、実際は命令のようなものだ。

 ファラは大きなため息をついた。


「分かりました。行きます」

「ありがとう……。ごめんなさい」


 院長は何も悪くない。そう分かってはいても、ファラは何も言えずに踵を返していた。




 伯爵家に向かうのは一ヶ月後ということになった。予想以上に準備に時間をもらえるようで、一先ずは安心といったところか。気の長いことだと思っていたが、どうやら院長が手を尽くしてくれたらしい。礼を言うと、泣きそうな顔をされてしまった。


 残りの一ヶ月、ファラは小さな子供たちに自分の仕事を教えていくことにした。仕事といっても難しいものではなく、いくつかのグループにわけて家事の手伝いを割り振っている。洗濯や買い出し、掃除などだ。

 ある日、ファラは買い出しのグループと共に出かけることにした。院長も一緒だ。買い物ついでに伯爵家へ持って行くものを何か選べ、とのことだった。


「いいんですか?」

「思い出になるものの一つぐらいいいでしょう」


 本当にいいのだろうか。そう思いつつも、ファラは院長に甘えて何か買うことにした。思い出になるものなら、形に残るものがいいだろう。白いカップでも買ってみんなに何か書いてもらおうか。

 そう考えながら、皆とは別行動をさせてもらい、商店を見て回る。

 そして、それを見た。


 少し離れたところを歩く二人の少女。一人は白いワンピース姿。もう一人は、ここでは見慣れない黒いセーラー服姿。白いワンピース姿の少女は、名のある商家かもしくはちょっとした貴族の令嬢だろうか。

 だがファラの目は、黒いセーラー服姿の少女に釘付けになっていた。


「あ、あの! あのお二人は……!」


 すぐ側の商店の人に聞いてみると、店員は怪訝そうに眉をひそめながらファラの示す二人を見て、ああ、と納得したように笑った。


「平民には見えないってか?」

「え、あの、えっと……」

「お嬢さん、あのお二人を見るのは初めてか。あのお二人は貴族の方だよ。白いワンピースの方はアルディス公爵家のご令嬢だ」

「こう、しゃく……?」


 予想以上の大物が出てきてしまった。そう言えば、最近上級貴族の人が出入りするようになったとは噂で聞いたが、あの二人がそうなのだろうか。


「あの、もうお一人の方は……?」


 ファラが聞くと、店員はさあ、と首を傾げた。


「どこかの国の没落した貴族の令嬢、とは聞いたけど、詳しくは知らないね」

「そう、ですか。ありがとうございます」


 ファラは頭を下げて、その場を後にしようとする。そんなファラへと、店員が言った。


「あの二人は毎週この曜日に来るよ」

「……っ! ありがとうございます!」


 店員にもう一度頭を下げて、ファラはその場を後にした。

 すでにあの二人の姿は見えない。今から探そうとは思えないため、一先ず家族のもとへ帰ることにする。

 孤児院のへの道を歩きながら、ファラは黒いセーラー服姿の少女を思い出していた。

 遠目ではあったが、あの笑顔は忘れられない。天真爛漫で、周囲に元気を振りまいていた、ファラにとっての憧れの少女。


「どうして、冬月さんがここに……?」


 ファラは答えの出ない疑問に、ずっと首を傾げていた。


壁|w・)今回はプロローグ的なもの、なのです。




Q.冬月って誰だっけ?

A.さくらの名字。

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