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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
2学年前学期

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 取り戻す? 誰が? 誰の心を?

 リリアから笑顔の仮面がはがれ落ちた。目が据わり、不機嫌を隠すことができなくなる。他の二人がそれにすぐさま気づき表情を青ざめさせたが、話している一人は全く気づかない。


「クリステル様からすぐにあの席を取り返しましょう。大丈夫です、私たちも微力ながらお手伝いさせていただきますわ。リリアーヌ様は安心なさって……」

「黙りなさい」


 小さな、そして低い声だった。目の前の一人に聞こえればいい程度の小さな音。話していた一人がひっと短い悲鳴を上げ、言葉を止めた。それどころか、教室中が静まり返ってしまっている。だがリリアはそんなことは一切気にせずに、言葉を発した。


「もう一度言うけど……。私は今後、殿下と関わるつもりはないのよ。的外れな推測で余計なことをしないでほしいわね。それとも貴方は、私を怒らせたいのかしら?」


 三人そろって勢いよく首を振る。かわいそうなほどに震えているが、リリアは気づかない。気づいたとしても止めるつもりもない。


「ではそのうるさい口を閉じなさい。いいわね?」


 三人が何度も何度も首を縦に振る。それを見たリリアは、よろしい、と満足そうに頷いた。


 ――怖い。怖いよリリア。

 ――何がよ。私は丁寧に言ったわよ?

 ――確かに言葉だけだったけど! 怖いよ目が! なんか殺気を感じたよ!

 ――気のせいでしょう。


 小さく嘆息して視線を上げる。三人はまだリリアの前に立っていた。申し訳なさそうにうつむいてはいるが、離れようとはしない。リリアが怪訝そうに眉をひそめると、先ほどまで話していた一人が深々と頭を下げた。


「リリアーヌ様。申し訳ございません」

「別にいいわよ。次からは気をつけなさい」

「はい……」


 そうして頭を上げ、ようやくリリアから離れて自分の席へと向かっていく。リリアがその後ろ姿を眺めていると、さくらの声が頭に響いた。


 ――リリア。あの三人だけど。いや三人だけじゃないけど。

 ――何よ。

 ――まあ、うん。取り巻き連中のことだけどね。気をつけてね。


 リリアが眉をひそめ、さくらが続ける。


 ――あれらはリリアの公爵家としての力が欲しいだけだから。友達とかになったらだめだよ。いやまあ、いい人もいるけど。ちゃんとリリアを見てくれる人と友達になってね。


 突然何を言い出すのかと思ったが、どうやらさくらはリリアのことを心配しているらしい。リリアは内心で苦笑し、分かっているわと頷いた。


 ――ただ私は正直見極める自信がないのだけど……。さくらは分からないの?

 ――ん……。私の知識も取り巻きさんについては曖昧だからね。別の誰かを頼った方がいいよ。

 ――誰を頼るのよ。

 ――リリアの部屋の上にいる人。


 リリアの頬がわずかに引きつった。そんな話は聞いたことがない。誰が、何の目的でいるというのか。知らず生唾を呑み込んでいると、さくらは何でも無いように言った。


 ――リリアの屋敷にいた人みたいだから、お父さんかお兄さんが護衛か何かでつけたんじゃないかな? 気配の隠し方がすごくうまい人だから、情報収集もできると思うよ。

 ――…………。ああ、そう……。


 まさかの身内だった。あの二人もリリアに隠す必要はないだろうに、なぜ黙ってそんなことをしたのか。頭痛を堪えるようにこめかみを押さえながら、リリアはため息をついた。


 ――分かった。戻ったらお願いしてみましょう。

 ――うん。三人いるはずだから一人二人抜けても大丈夫なはず!


 三人もいたのか。リリアは今度こそ頭を抱えてしまった。



 朝礼間際の時間になって、王子が教室に入ってきた。そしてその直後に教師が入ってくる。同行していたように思ってしまうが、王子はただの偶然といつも言い張っていた。毎日そんな偶然があるのかと疑ってしまう。

 王子が朝礼間際に来る理由は単純で、リリア対策だ。早く来てしまうとリリアから相手するのも面倒なほどに話しかけられるので、それを避けているらしい。さくらからそう聞いた時は少し落ち込んでしまったものだ。今日もそれを続けているということは、先日のリリアの言葉は信じてもらえていないらしい。


 教師が教卓の前に立ち、何事か連絡事項を告げていく。しかしリリアは、それを一切聞いていなかった。頭の中では、暇つぶしと称したさくらの講義が続いている。

 今日のさくらの講義は科学、というものだった。今まで当たり前と思っていたことを理由づけて説明されていくのはなかなかに面白い。ふと気づけば教師の話は終わり、いつの間にか授業が始まっていた。


 ――あ、ごめん。授業だね。それじゃあ私は黙るから、がんばってね。

 ――なかなかいいところだったのに……。仕方ないわね。


 この続きは夜になるだろうか。少しだけ残念に思いながら、教師の方へと視線をやる。最初の授業は算術だ。教師の説明をしばらく聞いて、リリアは眉をしかめた。

 なんだこれは、と思う。二週間ぶりの授業だというのに、未だにこんな問題をしているのか、と。あまりにも退屈なその説明に、リリアは内心でため息をついた。


 ――さくら。起きていられる自信がないのだけど。

 ――ん……。続き、する?


 さくらもリリアと同じことを感じていたのだろう、リリアの発言を咎めることはしなかった。分かってるわね、とリリアは笑みを浮かべ、小さく頷いた。

 それからしばらく、教師の一方的な話、説明が続く。時折誰かを指名したりしていたが、幸いリリアには当たらなかった。

 そして気づけば、昼になっていた。授業ごとに教師が入れ替わっていたはずなのだが、リリアは全く気づいていなかった。周りが騒がしくなってきたことにふと視線を巡らせれば、誰もが教室を出て行くところだった。そのことと腹の減り具合から、今が昼時なのだと察する。さくらの話を聞いていただけで、午前中は終わってしまった。


「リリアーヌ様! ご一緒しませんか!」


 今朝の取り巻き三人がリリアの元へと来て、そう言った。リリアは胡散臭そうな目で彼女たちを見て、そして首を振った。驚いている三人へと、言う。


「ごめんなさい。今日は一人になりたい気分なの。せっかくだけど、私のことはいいから三人でどうぞ」


 そう言うと、そうですよね、と自分たちで納得して教室を出て行った。何をどう納得したのかは分からないが、都合良く一人になれたのだから良しとする。


 ――さくら。一つ聞きたいのだけど。

 ――うん。何かな?

 ――私が……その……。あっちの食堂に一人で行くのは、問題かしら……?


いつの間にやらブックマークが100件をこえていました。

本当にありがとうございます。今後とも細々と続けていきたいのでお付き合いくだされば幸いです。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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― 新着の感想 ―
[一言] 取り巻きは取り巻きで利用価値があるのに。 お手手繋いでお友達ごっこする為に学校に来たわけじゃなく、仲の良い人とも悪い人とも上手くやって将来的に領地や家を切り盛りする為に学校に行くのだから …
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