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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
番外編(S)・後日談(A)

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A6 二人の関係・ティナと、4

「リリア!」

「入っていいかしら?」

「うん、もちろん!」


 ティナの許可を得たので、ティナに続いて部屋に入る。以前から変わらないティナの部屋だ。勉強をしていたのか、机の上には本とノートが開かれていた。


「邪魔したかしら」


 それを見ながらリリアが聞くと、ティナは笑いながら首を振った。


「そんなことないよ。暇つぶしみたいなものだったし」

「そう。ならいいのだけど。それじゃあ遠慮無く渡せるわね」


 何を? とティナに聞かれる前に、リリアは弁当箱を一つ、ティナに押しつけた。反射的にそれを受け取ったティナはしばらく呆然としていたが、やがて視線を落とし、何か分からなかったのか、リリアへと視線を戻してくる。リリアは自分の弁当箱を示しながら、言った。


「一緒にご飯でも、と思ってね。私たちが使う食堂でもらってきたわ」

「え……。ええ!? じゃあ、これ、その、すっごく高い……?」

「さあ、どうかしら」


 リリアが楽しげに笑い、ティナが唖然として渡された弁当箱を見る。まだ温かいはずなので、できれば早めに食べたいところだ。


「ティナ。先に食べましょう。冷めてしまうわ。それとも、夕食には早すぎたかしら」

「そ、そんなことないよ! ちょっと緊張しちゃって……。でも、どうやって食べるの?」


 机はこれしかないけど、とティナが申し訳なさそうに眉尻を下げた。教材さえ片付ければ机の広さは足りるだろうが、いすが一つしかない。リリアは肩をすくめて、言った。


「私は立って食べるから気にしなくていいわよ」

「気にするよ! 私が立つから! リリアは座って!」

「気にしなくていいと言っているでしょう。ただ立つだけよ?」


 リリアもティナも、お互いに立つと言い張る。どちらも遠慮を続けていると、やがてさくらがため息をついた。


 ――すっかり平民らしくなっちゃって……。もう二人とも立っていればいいじゃない。

 ――それもそうね……。


 さくらの提案に従い、ティナへと告げる。ティナはまだ釈然としない面持ちだったが。このままだと終わらないと思ったのか、しぶしぶながら頷いた。

 ティナが手早く机の上を片付け、二人分の弁当を広げる。中身は二段組みになっており、片方は肉厚のステーキとサラダ、もう片方は白米だった。ステーキはナイフがなくても食べられるようにと配慮してくれたのだろう、すでに切られていた。


「わあ……」


 ティナが瞳を輝かせる。今にも食べたそうにうずうずとしていたが、何故かリリアの方をちらちらと見て手を付けようとはしない。


 ――リリアの許可を待っているんじゃないの?

 ――意味が分からないのだけど。


 ティナへと視線を向ければ、目が合った。どうやら本当にリリアが何かを言うのを待っているらしい。少し考えて、リリアは言った。


「冷めてしまうわ。食べましょう」

「うん!」


 二人で祈りを済ませ、早速ステーキを口に運ぶ。噛んだ瞬間、肉汁が溢れてきた。


「んんん!」


 ティナが妙な奇声を発している。見てみれば、恍惚とした表情でうっとりとしていた。美味しいとは思うが、そこまでの反応は予想外だ。


 ――さくらは満足?

 ――ちょっと黙って。今堪能してるから。

 ――そ、そう……。


 どうやらさくらの口にも合い、気に入ってくれたらしい。ただ邪険に扱われたのは不満というべきか、少しだけ寂しく思ってしまった。

 やがて弁当を食べ終えて、ティナが幸せそうなため息をついた。その笑顔を微笑ましく思いながら、手早く弁当箱を片付ける。部屋に戻るついでに返しに行かなければならない。


「すっごく美味しかったよ!」


 ティナが笑顔で言って、リリアも同じ表情で頷いた。


「喜んでもらえたのなら良かったわ。それじゃあ、少し話をしましょうか」

「話? 何?」

「お兄様のことについて」


 ティナの笑顔が凍り付いた。何かあることがすぐに分かる、分かりやすい反応だ。


 ――ひどい不意打ちを見た。


 呆れたようなさくらの言葉を無視しつつ、リリアは続ける。


「どうしたの? どうして黙っているのかしら。何か、言えないことでもあるの?」

「そ、そんなことは、ないんだけど……」


 ティナの視線があちこちへと彷徨っていたが、やがて観念したようにため息をついた。


「いつから気づいてたの?」

「今日、南側でお兄様と一緒にいたでしょう」

「うわ、見られてたんだ……」


 思わずといった様子で頬を引きつらせるティナに、追い打ちをかけるようにリリアは笑顔で、


「貴方たちが入った店、隣の席に私たちはいたわよ。さくらが見えないように色々としていたから、気づかなかったのも無理はないけど」

「なにそれずるい」


 ティナは頭を抱えてしまい、黙り込んでしまった。怒らせてしまっただろうかと少し不安になってしまうが、かといって遠回しに聞くようなことは自分の性分ではない。ただこれ以上言葉を続ける気も起きず、リリアはティナの反応を待つことにした。

 しばらく待つと、ティナがゆっくりと顔を上げた。怒りとは違う、どこか怯えたような表情だ。そんな顔をされるとは思っておらず、リリアは内心で狼狽した。どうにか表情には出さずに済んだが、さくらには伝わってしまっていることだろう。


「あの、ね。リリア……。怒ってる……?」


 ティナの小さな声での問いかけ。どうして自分が怒るのかと意味が分からないまま、リリアはすぐに首を振った。するとティナは安堵したように小さくため息をついて、それでもリリアの顔色を窺いながら、言う。


「以前から、たまに会ってるんだよ。その、リリアがどんな生活をしているのか、とか……」

「本当にそれだけ? 今日見た限りでは、そうは見えなかったけれど」

「うぐ……」


 ティナが言葉に詰まり、視線を彷徨わせる。しかし今度はすぐに、リリアを真っ直ぐに見つめた。


「今は、あまりリリアの話はしてないよ。ご飯に行ったり、買い物したり、とか……」

 ――デートだね! お付き合いだね!

「デート? というものになるの?」


 リリアがそう言った瞬間、ティナの顔が真っ赤になった。本当に分かりやすい反応に、リリアは呆れてしまう。隠すつもりがないのだろうか。


「ティナ。はっきり聞いてもいいかしら?」

「う、うん」

「お兄様のこと、どう思っているの?」


 ティナは、今度は目を逸らさなかった。真っ直ぐにリリアを見つめ、短く、


「好きだよ」


 やはりそうか、と妙な納得をしていると、ティナが続ける。


「でも、それをクロスさんに言ってしまうと、すごく気を遣われると思うから、何も言わないことにしてる」


壁|w・)進まぬ。

6話構成でも足りない感じでしたが、だらだら続けるのもあれなので、次話までに書き上げて一気に投下します。


時折聞かれる第二部について。

A.これが終わったら。あと第二部じゃなくて中編程度のものです。どんな話かはぼんやりとしていますが、とりあえずクソガミさんこんにちは、賢者さんいらっしゃい、そんな話になってるといいな!

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