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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
番外編(S)・後日談(A)

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A5 二人の関係・王子とクリス2

 どれほど時間が経っただろうか。肩を揺すられ、リリアは目を開けた。いつの間にか眠っていたらしい。隣を見れば、さくらが苦笑していた。


「リリア。またお客様だよ」

「…………」

「そんな不機嫌そうな顔をしてもだめ。ちなみにクリスだよ」


 何故だろう。少しだけ嫌な予感がする。リリアは顔をしかめつつも、扉の側に立つアリサへと視線を投げる。頷いて見せると、アリサは恭しく一礼した。素早い動きでさくらがリリアの中へど戻っていく。

 アリサが扉を開け、クリスを招き入れる。アリサに案内されて、クリスはリリアの向かい側に座った。


「申し訳ありません、リリアーヌ様。突然押しかけてしまいまして……」

「暇だからいいわよ。用件は?」

「少し、相談したいことがありまして……」

 ――ぶるーたす、お前もか。

 ――誰よそれ。

 ――気にしないで。


 リリアはため息をつくと、いすに座り直した。それが不機嫌そうな動作に見えたのか、クリスは不安そうにリリアを上目遣いで見てくる。リリアは小さく手を振り、言った。


「聞きましょう」

「ありがとうございます。実は殿下のことなのですが……」


 やはりか、とリリアは頭を抱えそうになる。なぜ同じ日に相談に来るのかこの二人は。自分に対する嫌がらせだろうか。のろけにしか聞こえない。不愉快だ。


 ――リリアもいい人を見つけよう。結婚すればいいよ!

 ――本気で怒るわよ……?

 ――なんで!? 怖い! 本当に怖い! ごめんなさい!


 内心でため息をつき、クリスへと意識を戻した。


「殿下は私のことをどう思っているのでしょうか」

「何か気になることでもあったの?」

「いえ、そのですね……。避けられている、というわけではないのですが、最近少し冷たく感じてしまいまして。殿下がティナさんを好いていたことを知っている身としては、やはり私のことはお嫌いなのかと……」

 ――冷たいと言われているけれど。

 ――んー……。多分、どう接していいのか分からなくなってるんじゃないかな。それで、ちょっと冷たい態度になってる、とか。


 なるほど、とリリアは頷いた。クリスへとそのまま伝えると、難しい表情でうつむいた。どうしたのかと思っていると、クリスが言う。


「それは、やはりティナさんのことが気になるためでしょうか。私では殿下を振り向かせることは難しいのでしょうか……?」

 ――めんどくさ!

 ――こら。


 窘めたが、やはり同感だ。勝手にやってほしい。自分を巻き込むな。だがクリスとは長い付き合いだ。悩んでいるクリスを追い出そうとも思えない。


「殿下には聞いてみたの?」

「聞けません。もしそこで、お前には興味がないだなんて言われてしまうと、私は立ち直れる気がしません」

「そう……」


 その気持ちは多少なりとも分かるつもりだ。王子に婚約破棄されたあの日、リリアも絶望しかなかった。さすがにそこまでではないだろうが、辛いことには変わりない。


 ――むう……。恋愛相談になるのかな。私にはよく分からないよ。

 ――まあさくらだものね。

 ――どういう意味かな。


 だがリリアも恋愛経験があるかと聞かれれば、片想いをしていただけでそれ以外はない。クリスの気持ちを考えても、それは想像の域を出ないものだ。クリスの期待通りの助言ができるとは思えない。

 だがそれは、拒絶される可能性があればのことだ。先に訪れた王子のことを思い出せば、それほど心配する必要はないと思う。少なくとも、王子はクリスのことを考えようとしているのだから。クリスが勇気を出せれば、大丈夫、だと思う。


「クリス」


 リリアが名を呼ぶと、クリスは小さく息を呑んだ。緊張しなくてもいいだろうに、それほど自分は怖いのだろうか。リリアは咳払いをして、真剣な表情で言った。


「貴方の不安は分かるけれど、きっと大丈夫よ。一度、しっかりと話してみなさい。悪いようにはならないはずよ」

「それは、どうしてそう思うのでしょうか」

「二人を見ている私を信じなさい」


 自信を込めてそう言えば、クリスは少しだけ目を見開いた。まるで信じられないものを見るかのような目だ。確かに、ことこういった話についてはリリアは信用できないかもしれない。自分で言うと少し悲しくなるが。

 そう思っていたのだが、クリスは小さく微笑んだ。


「リリアを信じておくわ」


 小さな声で、素の口調でクリスが言った。


「そう……。まあ、応援しているわ。がんばりなさい」

「はい。本心を聞いても?」

「何かあると私に火の粉が降りかかるのよ。私を巻き込まないでほしいわね」

「ふふ。畏まりました」


 正直に答えると、クリスは楽しげに微笑んだ。それでは、と立ち上がる。リリアも立ち上がり、少しだけ迷いつつも口を開いた。


「応援しているというのは本当だから。私はあまり助言などできないでしょうけど、愚痴ぐらいなら聞いてあげるわ」

「ありがとうございます。是非、お願い致します」


 そうして二人で笑顔を交わす。扉へと歩いて行き、開ける前に振り返った。


「さくら様、殿下には内緒でお願いしますね」

「さすがにそんなことしないよ」


 ふわりとさくらが現れる。リリアの隣で心外だと言いたげに頬を膨らませていた。


「がんばってね、私も応援してあげるから」

「ありがとうございます。それでは」


 恭しく一礼して、クリスは部屋を出て行った。扉が完全に閉められてから、リリアはいすに座り直す。その対面、先ほどまでクリスが座っていた席にさくらが座った。


「どうして唐突に、二人そろって相談に来るのよ」


 リリアがつぶやき、さくらが笑う。


「それだけ信頼されてるってことだね」

「意味が分からないわね……。ああ、そうだ。さくら。少しお願いがあるのだけど」

「ん? なに?」


 お願いの内容をさくらに伝える。それを聞いたさくらはとても驚いていたが、やがて楽しげに口角を持ち上げた。反対されなかったことに少しだけ安堵する。これを依頼できる相手はさくらしかいない。


「了解、いいよ。でもリリアがそんなことを頼んでくるなんて思わなかった」

「まあ、気まぐれよ。詳しくは夕食の後にでもまた説明するわ」

「あいあいさー」


 さくらが上機嫌に鼻歌を歌い始める。楽しみにすることでもないだろうとは思いつつも、リリアはさくらの鼻歌を聞きながらそっと目を閉じた。


すれ違い、ではないか。恋愛って難しいですね。

リリアの依頼は次話で。

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