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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
番外編(S)・後日談(A)

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A5 二人の関係・王子とクリス1

後日談その5。王子とクリスのお話です。

 寮の自室で、リリアは優雅に紅茶を飲んでいた。リリアだけなら、その姿だけで一枚の絵になりそうだ。だが、目の前にいる親友が全て台無しにしている。


「やっぱり苺大福はあの店だよね。あ、リリア、こっちも美味しいよ」


 テーブルの上に菓子を広げて、さくらは次々と食べ進めていく。リリアはその様子に文句の一つでも言うべきかと思ってしまうが、さくらの幸せそうな笑顔を見ると、まあいいかと思えてしまう。さくらに甘くなっている自覚はあるが、やはりそれも、まあいいか。

 時折さくらからお菓子を受け取りながら、のんびりとした一日を過ごしていく。ゆったりとした、弛緩した空気。だがその空気は、ある一人の来訪者で壊されることとなった。


「リリア様、さくら様、殿下がいらっしゃるそうです」

「げ」


 二人そろって嫌そうに顔を歪め、それを見てしまったアリサは苦笑した。


「さくら、どうするの?」


 リリアが聞いて、さくらは不満そうに頬を膨らませつつもお菓子を片付け始めた。アリサが手伝い、すぐにテーブルの上は綺麗に片付けられる。そうして一息ついたところで、部屋の扉がノックされた。


「まるで見ていたかのようなタイミングだね」


 さくらが呟き、リリアはまさか、と思いつつも頷いた。さくらがそそくさとリリアの中に戻っていく。それを待ってから、アリサへと言った。


「アリサ。お願い」

「畏まりました」


 アリサが一礼して扉へと向かう。外と短く言葉を交わし、そしてすぐに扉が開けられた。

 王子とグレイの二人が部屋へと入ってくる。アリサによって扉が閉められ、グレイは扉の側で直立の姿勢を取った。どうやらあそこで待つらしい。王子は一人でリリアの座る席へと歩いてきた。リリアはすぐに立ち上がり、王子へと恭しく一礼した。


「お待ちしておりました、殿下。どうぞお掛け下さい」

「ああ」


 リリアの対面の席に王子が座る。リリアもすぐに座った。


「リリア。さくら様はどちらだ?」

「今は席を外しております。お呼びしましょうか?」

「いや、構わない。気にするな」


 どうやらさくらに用事があるわけではないらしい。リリアは首を傾げつつも、次の言葉を待つ。しかし言い辛いことなのか、王子はしかめ面で黙り込んでいた。

 アリサが新しい紅茶を二人の目の前に置く。リリアがまず飲んでみせると、王子もカップに口をつけた。


「うむ。美味い」

「ありがとうございます」


 王子はカップをテーブルに戻すと、意を決したようにリリアを見つめた。リリアも紅茶のカップをテーブルに置き、王子を見据えた。


「相談がある」

 ――面倒事がきたよ!

 ――こら。


 面倒事だと断じたさくらを窘めはしたが、リリアも同じ考えだ。気持ちだけ身構えていると、王子が続ける。


「お前も知っている通り、私はクリスと婚約している」

「婚約解消をしたいのなら、私は全力で貴方を潰しにかかりますが」

「今更するわけがないだろう!」


 思わずといった様子で王子は腰を浮かせていたが、すぐにため息をついていすに座り直した。


「その、なんだ……」


 口だけが動き、言葉になっていない。リリアがもう一度カップに口をつけ、そして戻したところで、ようやく王子が頷いた。


「私は、クリスにとって良い夫となれるだろうか」

 ――知らん! 帰れ!

 ――こら。


 今回も窘めはしたが、やはりさくらに全面的に同意だ。本当に今更、何を言っているのだろうか。リリアが表情を消して王子を睨むと、小さく息を呑んだのが分かった。


「殿下。お伺いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか」

「ああ。構わない」

「ありがとうございます。殿下は今もクリスに、ティナのことを話していますか?」


 王子はまさか、と首を振った。迷いのない否定に内心で安堵する。


「私はもう、迷いはしない。クリスを生涯愛することを誓おう」

「いつの間にか愛称で呼んでいますしね」

「…………。あ」


 どうやら気づいていなかったらしい。王子は気まずげに視線を彷徨わせ、リリアからそっと目を逸らした。この様子を見ている限り、あまり心配はないように思える。


「すまない。あー、私は生涯、クリステルを愛すると……」

「別に構いませんよ。ここには私たち二人しかいませんから」

 ――さらっとグレイさんをいないものとして扱うリリアが私は大好きです。

 ――護衛とはそういうものよ。


 ちらりとグレイへと視線を向けると、アリサと並んで小さな声で会話をしているようだった。アリサの表情が、心なしか楽しそうに見える。

 いらっとした。


 ――こら。

 ――あの子は私のものよ。グレイを叩き出しましょう。

 ――落ち着け、少し前の自分の言葉を思い出しなさい。

 ――ちっ。

 ――舌打された!?


 愕然とするさくらを放置して、改めて王子へと視線を向ける。怪訝そうにこちらを見ていた。


「どうした?」

「いえ、何でもありません」


 愛想笑いで誤魔化し、咳払い。王子へと言う。


「殿下は何をそれほど不安に思っていらっしゃるのですか?」

「む……」


 王子は迷いつつも、口を開いた。


「私は、一度はお前と婚約し、さらにはティナへと言い寄っていた。それはクリスも知っていることだ。クリスはそれをどのように捉えているのか、と思ってな……」

「なるほど……」


 王子も王子なりにクリスを受け入れようとしているのだろう。そしてだからこそ、クリスが自分をどう思っているのか、気になっているのだろう。リリアは薄く笑みを浮かべた。


 ――ようやく、私の知っている殿下に戻りつつあるような気がするわ。

 ――ん……。後悔してる?

 ――それはないけれど。

 ――即答だね。


 小さくさくらと笑い合い、表情は真剣なものにしつつ王子へと言う。


「殿下」


 その真剣味を帯びた声に、王子は姿勢を正した。


「クリスはあまり人に弱みを見せません。ですが、見せないだけで抱え込みます。殿下があの子を支えてあげてください。あの子も殿下を支えてくれるはずですから」

「それは、無論そうするつもりだが……。具体的にどうすればいい?」

「それは殿下が考えることですよ。必要だと思うことを、クリスのためにしてあげてください」


 王子はしばらく考え込むような素振りを見せていたが、やがてしっかりと頷いた。


「分かった。感謝する、リリアーヌ」

「いえ。少しでもお役に立てたのなら何よりです」


 王子は小さく頭を下げて、グレイと共に戻っていった。それを見送ってから、リリアはカップに口をつけ、ため息をついた。


「面倒くさい……」

「あはは。そんなリリアを労ってあげよう」


 いつの間に戻ったのか、さくらがリリアの隣にたち、リリアの頭を撫でてくる。リリアはそれを受け入れつつ、目を閉じた。


「お疲れ様、リリア」


 さくらが優しく微笑んでいるような、そんな気がした。


王子とクリスの現在の関係について触れてみます。

次話はクリスサイドです。

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