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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
番外編(S)・後日談(A)

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A4 皆でお買い物3


「おお! かわいいいすだ!」


 ティナが選んだものは、木製のシンプルないすだ。少し小さめのいすではあるが、小柄なさくらにはちょうどいい大きさとも言える。装飾などはない。やはりさくらは装飾のない物を好むらしい。


「それに数もあるね」


 さくらの視線の先には、同じ造りのいすがいくつも並んでいた。それぞれ少しずつ大きさが違う。さくらは少し考える素振りを見せた後、リリアへと振り返った。


「リリア。その、予算は……」

「いくつでも。……そんな顔しなくても大丈夫よ。お父様から許可もいただいているわ」

「じゃあ……。このいすをたくさん、とか」


 問題はないが、それほど購入する理由も分からない。リリアがそう言うと、


「来客用、とか? ある程度数はいるかなって」

「来客用ならもう少しいいものも必要だと思うけど」


 例え誰かが訪ねてきたとしてもアルディス家の応接室で応対できるので、さくらの部屋に来客があるとは思えない。それでも念のためにと思うなら、このいすでは役者不足だろう。しかしさくらは、それはいい、と笑った。


「ティナが選んでくれたものだから、これがいいの。訪ねてきた人が文句を言ったら、うん、怒っておくよ」

「それは怖いわね」


 もっとも、さくらが用意したいすに不満を言うような命知らずはいないとは思うが。


「えっと……。私が選んだものでいいんですか?」


 ティナが遠慮がちにそう聞いて、さくらはすぐに頷いた。


「もちろん。本棚はクリスに任せたから、いすはティナね。あ、もちろん私は妥協とかしてないからね。私も気に入ったから買うんだからね」

「はい。ありがとうございます」


 そう言って、ティナが笑顔を見せる。クリスと違い好意から逃げ出さないのは育ちの違いだろう。

 クリスが連れてきた店主へとついでにいすのことも伝え、その後もいくつか家具を選んで店を後にした。




 ティナの案内のもと、次に訪れたのは人形店だ。店内には様々な種類の人形が並んでいた。部屋の奥にはぬいぐるみもある。さくらは目を輝かせると、ぬいぐるみのコーナーへとすっ飛んでいった。


「ぬいぐるみ、というのは初めて見ました」


 クリスが熊のぬいぐるみを持ち上げて、興味深そうに呟いた。それを聞いたティナが驚きに目を丸くした。


「そうなんですか? 私たちみたいな下級貴族では広まっていますけど……」

「上級貴族はこうして買い物に来る方が珍しいから、そのためでしょう。商人が持ってこない限りは私たちには縁の無いものだし」


 リリアの言葉に、ティナは納得したように頷いた。リリアが続ける。


「クリス。さくらはぬいぐるみが好きだから、何か自分用に選んでおくのもいいと思うわよ。さくらとの話題ぐらいにはなるでしょう」

「ではこちらのものを」


 クリスは持っていた熊のぬいぐるみを大事そうに抱えた。どうやら一目見て気に入っていたらしい。クリスのその様子を見て、ティナは嬉しそうにしていた。


「リリア! どれにしよう!」


 さくらの声が届く。ぬいぐるみこそ好きに選べばいいだろうと思いつつも、リリアはさくらの元に向かう。さくらは二つのぬいぐるみを両手で抱えて唸っていた。


「何で悩んでいるのか分からないのだけど……」


 さくらが抱えているのは両方とも犬のぬいぐるみだ。肌触り、とさくらが言うので、さくらが抱えるぬいぐるみ撫でてみる。片方は触り心地がよく、もう片方は抱き心地が良さそうだ。つまりは両方とも、惜しい。

 リリアは少し考え、さくらから棚へと視線を移し、並んでいた物の一つを手に取った。すぐに首を振り、また別のぬいぐるみを手に取る。しばらく続け、やがて満足したように頷いてさくらへと渡した。


「私はこれね」

「どれどれ……。おお、さっきの二つのいいとこ取りだ! リリア、目敏い!」

「褒められた気がしないわね」


 リリアが苦笑する前で、さくらはぬいぐるみを抱えてご満悦だった。だらしなく頬が緩んでいる。リリアの頭の上ではスピルが不服そうにしているのだが、おそらくはあのぬいぐるみと場所を代わりたいのだろう。

 リリアが選んだものはスピルとほとんど同じ大きさだ。そして犬の姿。嫉妬心に燃えているのが分かるのだが、リリアにはどうすることもできないので放っておく。


「リリア。我が儘言っても、いい?」


 さくらが小首を傾げて聞いてくる。さくらの我が儘は今に始まったことではないので何を今更と思うのだが、もしかするとおねだりをしたいのかもしれない。目線だけでさくらに続きを促すと、おそるおそるといった様子でさくらが言った。


「ぬいぐるみ、たくさん欲しい」


 さくらの上目遣いのおねだりに、リリアは二つ返事で頷くと、


「店主、ここにあるぬいぐるみを全部頂くわ」

「へ!?」


 店主の女が驚き硬直し、さくらたちも口を間抜けに開けて唖然としている。真っ先に我に返ったさくらが慌ててリリアを止め、結局半分ほどのぬいぐるみを購入するということで決着がついた。




 翌日。さくらの部屋には購入した家具が並び、本棚にはぬいぐるみが所狭しと並ぶ。本はどうしたと言いたくなるが、本人がこれでいいのなら、まあ問題はないだろう。

 本棚に収まりきらなかったぬいぐるみはさくらのベッドに並んでいた。ベッドに横になるさくらはとても幸せそうだ。テーブルの上にはリリアが選んだぬいぐるみが置かれ、スピルがそれと向かい合ってじっと見つめていた。


「貴方のご主人様には困ったものね」


 スピルを抱き上げ、リリアが言う。リリアに撫でられるスピルは不思議そうに首を傾げた。


「ぬいぐるみ、かわいいよ?」


 さくらがテーブルのぬいぐるみを抱える。そしてにへらとだらしなく相好を崩した。


「えへへ」

「何よ、気持ち悪い」

「ひどい!」


 文句を言いながら、しかしさくらは笑顔だ。

 改めてさくらの部屋を見回す。まだまだ家具は少ないが、以前よりはましだろう。何よりさくらが嬉しそうなので、行って良かったと思える。さらに、近いうちにティナとクリスを呼んでお茶会をしようということにもなっている。さくらが乗り気なのでリリアも一安心だ。


「次は食べ歩きもしたいなあ」


 さくらがぽつりと呟く。以前の買い物ではぬいぐるみを買った後はあまり時間がなかったために、そのまま真っ直ぐ家路についた。さくらはそれが少し不満だったらしい。リリアは小さく肩をすくめて言った。


「また近いうちに、二人を誘いましょう」

「うん。楽しみだね」


 屈託のないさくらの笑顔に、リリアも薄く微笑みながら頷いた。


皆でお買い物、でした。山なし谷なしのほのぼの日常。


次回はクリスと王子のお話にしたいと思います。

次回こそは予告詐欺にならなければいいな……。

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