A4 皆でお買い物2
街への道中、馬車に揺られながら、リリアは隣に座るさくらを見る。
「はぐはぐ」
道中の軽食として持たされたのだろう、おにぎりを頬張っていた。さくらの足下には大きな紙袋があり、数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどの量のおにぎりがある。
「リリア、あれはどうしたの?」
ティナが小声で聞いてきて、リリアは肩をすくめて答えた。
「お母様が用意したのよ。私は知らないのだけど、さくらがおにぎりを食べたい、と言ったことがあったらしくて。街の往復のおやつ代わりにと渡されていたわ」
「へえ……。でも、どうしてあんなに……」
「全員で食べられるように、かしらね」
もう一度さくらへと視線を向ける。こちらを見るさくらと目が合った。さくらが口の中のものを呑み込んで、新しいおにぎりを差し出してくる。リリアは黙ってそれを受け取り、口に入れた。
「塩辛いわね」
「うん。アーシャさんの手作りだからね。下手だね。でも気持ちはこもってると思うよ。美味しい」
「そうね」
二人で食べ進めていく。塩辛いが、食べられないほどでもない。母がこれを作っている光景を思い浮かべれば、悪くはないと思えてしまう。
「貴族らしさから外れつつありませんか」
クリスの呆れたような声に、リリアは素直に頷いた。
「他には見せないわよ」
「そうしてください。私も頂いてもよろしいですか?」
「どうぞどうぞ」
さくらが嬉しそうにおにぎりを差し出した。クリスはそれを恭しく受け取り、口に入れる。何も言わなかったが、食べ進めているので悪くはないということだろう。
「わ、私も……」
ティナにはリリアが渡す。ティナは嬉しそうに頬張り、幸せそうな笑顔を浮かべた。
「はぐはぐ」
おにぎりを頬張る四人を乗せて、馬車はゆっくりと進む。やがてさくらがぽつりと漏らした。
「なんだこの状況」
「さくらが原因でしょう」
ぴしゃりとリリアが言い捨てて、さくらは楽しそうに笑いながら次のおにぎりを手に取った。まだ食べるのか、と他の三人が思ったりもしたのだが、誰も口には出さなかった。
馬車を降りて少し歩く。すぐに街に入り、ティナの先導で目的の店へと向かった。
「さくら様はどのような家具をお求めですか?」
ティナの問いに、さくらは真面目な表情で答えた。
「安っぽいもの。というより安いもの。見た目からして高そうな、ごてごてしたものはいらない。シンプルなものがいいな」
「それなら、あの店でしょうか」
ティナが選んだ店は、周囲の店よりも一回りほど大きな店だった。中に入れば、木で作られた家具が多く並んでいた。装飾などは何もなく、本当に木のみで作られているらしい。こんな家具もあるのか、とリリアは内心で驚きながら隣のさくらへと視線を向ける。さくらは瞳を輝かせて並ぶ家具を見つめていた。
「いらっしゃい。何か探しているのかい?」
店の奥から初老の男が姿を見せた。さくらが言う。
「えっとね、本棚とか、机とか、いすとか、色々!」
「ふむ。今店にあるのはここと二階のもので全部だ。いすなどの比較的小さいものは二階にある。自由に見て回ればいい」
「あいあいさー」
さくらは嬉しそうに二階へと駆け上がっていく。残された三人のうち、ティナとクリスはどうしていいのか分からないのか戸惑っていた。
「ティナ。クリス。さくらと一緒に行ってあげて。私も後から行くから」
「うん」
「畏まりました」
二人がすぐにさくらを追う。リリアはそれを見送ってから、男へと歩み寄った。
「一先ずこちらを」
そう言って、リリアは金貨を一枚、男に渡した。目を剥く男に、リリアが続ける。
「これから、いくつか家具を選ぶわ。それらの家具は売らずに置いておいてもらえる? あとで当家の者が受け取りに来るわ。足りない額もその時に支払うから」
「はあ……。畏まりました……」
さすがは商売人というべきか、戸惑いつつも頷いた。それでは、と二階へと向かうリリアへと男が言った。
「忠告、というわけではないんだが、あまり金貨なんてものを見せない方がいいぞ。女の子ばかりで来ているんだ、襲われることもあるだろう」
「あら。ありがとう。でも大丈夫よ、優秀な護衛がいるから」
「ん?」
男が不思議そうに首を傾げ、リリアは薄く笑いながら階段を上っていく。
そのリリアの頭の上には、スピルがしがみついて周囲に目を光らせているのだが、当然ながらリリアとさくら以外には誰にも気づかれていなかった。
二階には様々な家具が並んでいた。部屋をぐるりと見回してさくらたちの姿を探すと、部屋の隅の本棚を見ていた。
「さくら様、こちらの本棚でいかがでしょう」
「大きすぎない?」
「そうでしょうか。私はこれでも小さいと思ってしまうのですが……」
さくらとクリスが一つの本棚の前で言葉を交わしている。その側ではティナが興味深そうに家具を順番に見ていた。クリスもティナも、真剣に選んでくれているらしい。
「あ、リリア」
リリアに最初に気が付いたのはさくらだった。こちらへと振り返り、クリスと見ていた本棚を指差して、言う。
「これはどうなの? 大きい? 小さい?」
「私の部屋のものと比べると、小さいと思うけれど……。さくらはどう思うのよ」
「んー……。私はやっぱり、大きいと思うけど……」
さくらはまだしばらく考えているようだったが、やがて、よしと一度頷いた。目の前の本棚を叩き、リリアとクリスへと言う。
「これにする!」
「いいのですか? 私に気を遣っていただかなくても構いませんよ?」
クリスの不安そうな声に、さくらは笑いながら首を振る。そして唐突にクリスの手を握った。握られたクリスは戸惑っているが、さくらは全く気にしていない。
「この本棚はクリスと一緒に選んだもの。それでいいんだよ」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
店主に伝えてきます、とクリスは逃げるように階段へと走って行く。リリアが呆れ果てたような視線をさくらへと向けると、さくらはきょとんと首を傾げていた。
「なんだかとっても新鮮な反応だった」
「そうでしょうね。私たちは純粋な好意なんて向けられることなんてないのよ。クリスは慣れていないのだから、ほどほどにしておきなさい」
「ふうん……。貴族も大変だね」
私には向いてなさそう、とさくらは苦笑した。確かに、さくらが精霊ではなくどこかの令嬢だったとしたら、あっという間に潰されてしまうかもしれない。警戒心があまりに薄すぎる。もっとも、考えるべきところでは考えているようだが。そう信じたい。
「さくら様、このいすはどうでしょう!」
ティナの声が届く。どうやらティナはいすを探していたらしい。さくらは嬉しそうに声のする方へと駆けていき、リリアは小さく肩をすくめた。
「スピル、クリスを見ておいてもらえる?」
「はい、わかりました」
クリスの護衛はスピルに任せ、さくらの後を追った。
のんびりほのぼの。次話で終わりです。




