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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
番外編(S)・後日談(A)

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A4 皆でお買い物1

後日談その4。のんびりまったりお買い物。

 アルディス公爵家の屋敷、リリアの部屋の隣はさくらの部屋となっている。屋敷に戻っている間でリリアが忙しい時は、さくらは気を遣っているのかその自室にいる時もある。多くの場合はリリアの側にいるのだが。


 今日はさくらは自室にいるらしい。作業を終えて一息ついた時には、すでにさくらの姿は見当たらなかった。心配する必要はないのだろうが、リリアは念のためにさくらの部屋に向かった。


 さくらの部屋の前に立ち、ノックをしようとして、しかしすぐに止めた。さくらはノックなどせず出入りする。何故自分がノックしなければならないのか。そう思って扉を開けた。


「こちょこちょこちょ」


 部屋の中央にさくらはいた。子犬の姿をしている精霊、スピルと遊んでいる。床に寝転がったスピルのお腹を撫で回していた。スピルはとても気持ちよさそうで、さくらはとても楽しそうで、少しだけ羨ましい。自分も撫でたい。

 そんな欲求を自分の中へと封じ込めて、リリアはさくらにも聞こえるようにため息をついた。さくらが勢いよく顔を上げて、


「あ、リリア。終わった?」

「ええ。終わったわよ」


 そっか、とさくらが立ち上がると、スピルはさくらの頭の上に乗った。さくらはそんなスピルには何も言わずにこちらへと歩いてくる。まるでスピルの定位置のようだが、実際にはスピルはさくらの背中や腕にしがみついていることも多い。今日は頭の気分なのだろう。


「いつものことだけれど、何もないわね」


 リリアが部屋を見回しながら言う。さくらの部屋にあるのは、ベッドと机だけだ。当初、両親は家具を揃えようとしていたようだったが、さくらが必要ないからと全て断ってしまった。

 ベッドと机しかないために、さくらの部屋は少し殺風景とすら思えてしまう。そしてとても広く感じられた。多くの調度品があるリリアの部屋とは大違いだ。ただ、見習うべきかどうかは、少し分からない。

 リリアの言葉を聞いて、さくらは困ったような笑顔を浮かべた。


「使わないからね。そんな無駄なことにお金を使ってほしいとは思わないから」

「家具なんて安いもの、気にする必要ないでしょうに」

「いやいや、高いからね? 安くないからね?」


 そう言ってさくらが苦笑する。リリアにはその感覚は分からない。家具を買う時に両親が値段を気にしている姿を見たことがないので、安いものだと思っていた。


「まあ、調度品とかと比べる安いかもしれないけどね。ティナに聞いてみたらいいよ」

「そうね。そうするわ。でもさくら、家具は必要よ」

「なんで? 使わないよ? その分、リリアのお小遣いを増やしてもらおうよ。それでまた食べ歩きしよう」


 それはとても魅力的な提案だ。自然とそう思ってしまった自分に一瞬だけ愕然として、しかしすぐに首を振った。ここで流されてはいけない。このままだとさくらのペースだ。


「例えば、さくら」

「うん?」

「もし、十中八九ないこととはいえ、万に一つの可能性で誰かがさくらの部屋を見たとしましょう」


 実際には万に一つもその可能性はないと思うが、それでも仮定として続ける。


「さくらの、大精霊の部屋に家具も調度品もほとんどない。そうなると、アルディス家が責められるでしょう。いくら貴方がいらないと言ったからであっても」

「んー……。そうなの?」

「そうなのよ」


 そっか、とさくらが納得したように頷いた。どうやら無事に家具を買ってもらえそうだ。


「でも私は高いのはいらないよ。調度品とかも、いらない。どうせならぬいぐるみがいい」

「まあ、置く物は任せるわよ。さくらが選んだのなら誰も文句は言えないから」


 さくらも乗り気になってくれたらしい。すぐに準備のためにメイドを呼ぼうとして、しかしそれはさくらに止められた。怪訝そうに振り返るリリアに、さくらが言う。


「買い物に行くってことだよね? 私が選んでいいんだよね?」

「ええ、そうだけど……」

「じゃあ、もうちょっと先にしない? あと、みんなで行こうよ。ティナとかクリスとか呼ぼう」


 さくらの言うみんなにクリスが含まれていることに少しだけ驚きつつも、考えてみる。確かにティナはいた方がいいかもしれない。さくらが欲しがりそうなものはティナの方が詳しいだろう。これに関しては間違いなく自分よりも頼りになるはずだ。

 クリスを呼ぶ必要性は分からないが、さくらが呼びたいなら呼んでもいいだろう。さくらからの誘いだと言えば、断られることはない。


「いいでしょう。ティナとクリスにはこちらから伝えておくわ。いつがいいの?」

「いつでもいいよ。リリアに任せる」


 リリアは頷くと、予定を立てるためにさくらの部屋を後にした。



 ティナとクリスの答えは、もちろん行く、いつでもいい、という内容だった。そのため、予定を立てやすいようにと次の休日ということになった。



 次の休日の朝。アルディス家の広い庭に簡素な造りの馬車が用意されていた。その馬車の側にはリリアとさくら、そしてティナとクリスがいる。クリスはその馬車を見て、そしてリリアの服装を見て頬を引きつらせていた。リリアの服装はお忍び用のものだ。


「クリス」


 リリアが呼ぶと、クリスは硬い表情のまま、はい、と返事をした。


「クリスの服も用意しているわ。着替えてきなさい」

「それは……。はい、畏まりました……」


 クリスは顔を青ざめさせながらも、力無く頷いた。メイドに案内されて屋敷の中へと入っていく。それを見送ってから、ティナが苦笑して言った。


「クリス様を呼ぶ必要はあったの? 少しかわいそうというか……」

「さくらの希望よ。みんなで行きたいって」

「そうなんだ。なら仕方ないね」

「ええ。仕方ないわ」


 二人で薄く笑い合う。さくらはその会話に少しだけ憮然としつつも、しかしどこか微笑ましそうにリリアたちを見つめていた。

 そうしている間にクリスが戻ってきた。薄いピンク色のワンピースだ。意外と気に入ったのか、屋敷に入っていった時とは違い、少し機嫌が良さそうだった。


「こういった服も悪くはないですね」

「そうでしょう」


 クリスが言って、リリアが同意する。クリスははっと我に返るとそっぽを向いた。


「たまには、です。このような服、あまり着るべきではありません」

「えー」


 不満そうな声。これはリリアの声ではない。振り返ると、さくらがクリスを見て唇を尖らせていた。クリスの姿を頭の先から足の先までじっくり見て、そしてやはり頬を膨らませた。


「私はかわいいと思うのに。だめ?」

「う……」


 さくらが小首を傾げ、クリスが狼狽して顔を逸らした。クリスも答えにくいだろう。上級貴族の令嬢としては認めたくないが、大精霊を否定することもできない。その結果か、クリスは助けを求めるような視線をリリアへと向けてきた。仕方なく、肩をすくめてさくらへと言った。


「さくら。分かっているでしょう」

「立場だよね。分かってるけど。でも私はかわいいと思うからね」


 じっと真剣な表情でクリスを見るさくら。クリスはわずかに頬を染めて、ありがとうございますと頭を下げた。


「そろそろ行くわよ」


 リリアがそう言って馬車へと向かうと、さくらとクリス、ティナが続いた。


壁|w・)みんなでおかいもの。今回はさくらの部屋の家具探しです。

友達と連れだって買い物に行くイメージ。


第二部、というわけではありませんが、そろそろ中編を書きたくなりました。

他国への視察という名目の旅行編とかどうでしょう。

予定は未定。書くとしても当分先になるでしょう……。

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