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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
番外編(S)・後日談(A)

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217/259

S4 お買い物

壁|w・)番外編その4。少し遊んでいます。

 ある休日の日。何故かいつもより早くに目を覚ましたリリアは、体を起こすとゆっくりと伸びをしてそれを見た。

 ベッドの横にさくらがいた。にこにこと笑い、どこかそわそわとしている。とても機嫌良さそうで、もし尻尾があれば勢いよく振り回していることだろう。

 正直に言おう。少し怖い。


「おはよー」


 さくらの笑顔の挨拶に、リリアは頬が引きつりそうになるのを堪え、笑顔を浮かべた。


「おはよう、さくら。どうしたの?」


 それを聞いたさくらの笑顔が曇った。眉尻を下げ、首を傾げて聞いてくる。


「約束……。覚えてない?」

「約束? ……ああ、買い物のこと?」


 つい昨日した約束だ。明日の休日に一緒に南側に行こう、という、その程度のものだ。リリアとしては昼過ぎから出かけるつもりだったのだが、さくらは朝から行くつもりらしい。そんなに楽しみにしていたのか、と内心で驚きつつ、さくらへと言う。


「もちろん覚えているわよ。昼過ぎからと思っていたのだけど……」

「えー」


 かなり不満そうだ。思わず噴き出してしまい、それにさくらが頬を膨らませる。ひとしきり笑った後、さくらへと言った。


「仕方ないわね。それじゃあ、朝食の後に行きましょう。ティナも誘った方がいいかしら?」

「んー……。初めてだし、リリアと二人きりがいいかな。護衛もいらないよ。リリアを狙う輩は私がこっそり懲らしめるから」

「さくらがいいなら、私も問題ないけれど……。何かあってもやり過ぎないように」

「あいあいさー」


 そうして今日の予定が決まったところで、リリアは着替えのためにアリサを呼んだ。




 さくらと二人きりで南側に行く。さすがに反対されるだろう思っていたのだが、アリサとシンシアからは特に何も言われなかった。思わず、反対しないのかと聞いたところ、


「さくら様がご一緒なら問題ないでしょう。騎士が同行するよりも安全かと」

「それは、確かにそうね……」


 さくらが一緒に行くということは、多くの精霊たちに見守られるということだ。間違いなく最も安全だろう。

 アリサに朝食の用意を頼み、リリアはいすに座る。すぐに、目の前のテーブルにパンとジャムが並べられた。向かい側の席にも同じものが並べられる。


「さくら」


 リリアが呼ぶと、すぐにさくらがそこに座った。最後にアリサが紅茶を淹れて自分たちの目の前に置いてくれる。リリアは祈りを済ませると、すぐにパンを手に取った。


「リリア様。お帰りはいつ頃でしょうか」


 アリサの問いに、リリアは何も答えずにさくらを見た。リリアの視線を受けたさくらが一瞬動きを止め、すぐに瞳を輝かせた。


「私が決めていいの?」

「いいわよ。ただし夕方までには戻りたいわね」

「じゃあ夕方で!」


 つまりは時間いっぱいを南側で過ごすということか。少し長すぎる気もするが、上機嫌に笑うさくらに今更否だとは言えなかった。

 その後、さくらはあっという間に朝食を済ませてしまった。リリアも仕方なく少し急いで食べる。急かされたわけではないが、目の前でじっとこちらを見つめられると気にもなるというものだ。もっとも、やはり不機嫌そうというわけではなく笑顔ではあったが。


 朝食を済ませた後はアリサと共に空き教室に向かう。目的はもちろん、ティナからもらった服に着替えるためだ。リリアが南側に行っていることは皆の知るところとなってしまっているので今更変装する必要もないのだが、かといって堂々と行くのもはばかられる。何より、そこで暮らす人々が慣れていないだろう。

 と、いうのが建前だ。実際は少しでも動きやすい服装の方がいいためであり、そして何よりも未だに少し恥ずかしいと思っているためでもある。


 ――いいかげん慣れればいいのに。

 ――うるさいわよ。


 リリアの中に戻ったさくらと軽口を交わしながら、人目を避けて南側の門へと向かう。門を通る際、当然ながら兵士には見られているのだが、兵士は苦笑しつつも黙って通してくれた。


 ――顔、覚えておくわ……。

 ――やめなさい。


 その後はさくらの指示に従い、人通りのない路地裏へと向かう。誰にも見られていないことを確認して、さくらが隣に現れた。相変わらず前触れもなく現れるので心臓に悪い。


「まずはどこに行きたいの?」


 リリアがそう問うと、さくらは笑顔で言った。


「苺大福!」

「言うと思ったわよ……」


 小さく苦笑を漏らしつつも、リリアはさくらを連れて表の通りに戻った。




 いつもの店にたどり着くと、男が笑顔で出迎えてくれる。満面の笑顔で、少し怖い。


「おお、いらっしゃい」


 その男の声が聞こえたのか、店の奥から女も顔を出した。リリアを見て、破顔して会釈をする。


「いらっしゃいませ。何にします?」

「今日は私は付き添いよ。さくら、選びなさい」


 リリアがさくらへと声をかけると、男と女はようやくさくらへと視線を向けた。少し驚いたような表情から察するに、恐らくリリアの同行者とは思っていなかったのだろう。


「こちらの方は?」


 男の問いに、リリアが答える。


「私の友人よ。どこの国、とは言えないけれど、この子も上級貴族の令嬢だから、取り扱いには気をつけなさい」

「むむ! まるで人を危険物みたいに!」

「危険物じゃないの」

「ひどい!」


 二人のやり取りに、女の方が思わずといった様子で噴き出していた。だが男の方は、訝しげに目を細め、じっとさくらを見つめている。それに気づいたリリアが内心で少し焦りつつも、言った。


「どうしたのよ」


 リリアに声をかけられ、男はばつが悪そうに視線を逸らす。しかしすぐに、今度はリリアへと目を向けた。


「別の国の、お貴族様、なんだよな」

「そうね」

「そんなお貴族様が、どうして一緒に?」

「え? それは、遊びに来ただけ……」

「お隣のクラビレスですら一ヶ月以上もかかる上に決して安全とは言えないのに、わざわざ遊びに来るのが目的なのか?」


 リリアとさくらの頬がわずかに引きつった。この男、少し鋭すぎないだろうか。それとも、この設定に無理があったのだろうか。聞く限りでは、確かに無理があるように思う。


「こ、この国に用事があったお父さんと一緒に……」


 さくらが苦し紛れの言い訳とも思える内容を口にすると、男がさらに目を細めた。


「どういった用事が知らないが、君の年頃ならまだ学校に通っているはずだろう。それをわざわざ連れ出したと?」

「うぐ……」

「それに、他国の上級貴族が入国したのなら、何かしらの噂が流れるはずだがな」

「うぐぐ……」


 さくらが言葉に詰まり、リリアは助けを求めて女を見る。女はおろおろと右往左往していた。使えない。


「ははあ、なるほどな」


 突然、男は理解を示して笑顔になった。何故だろうか、少しだけ、嫌な予感がする。


「そうかそうか、大変だったな。辛かっただろうな」

「え? な、なにが?」


 さくらが慌て、女が、どういうこと、と男へと問う。男は訳知り顔で言う。


「恐らくこの子の家は何かちょっとした失敗をしてしまったのだろう。それを王様か誰かに追求されて、爵位を剥奪されてしまった。その国にいてはとてもではないがこの先生きていけない。仕方なくこの子の家族は国を捨て、交友のあった他国の貴族を頼ったわけだ。かわいそうになあ」


 なにやら妙な話ができあがってしまっている。しかも男の中ではそれが真相だと決まってしまったらしい。男は大きめの平たい紙箱を取ると、あらゆる饅頭を詰めていく。


「好みはあるか?」

「え? い、苺大福……」

「よしきた」


 箱の半分ほどは苺大福で詰められた。苺大福が十個と、その他様々な饅頭が十個。なかなかの量だ。男は蓋をすると、それをさくらへと差し出した。


「ほら、持って行け」

「え? でも、えっと……」

「いいから。この先も色々と大変だろうが、がんばれよ」


 男が無理矢理にさくらへと箱を押しつける。戸惑いつつも受け取ったさくらに、男は満足そうに頷いた。


「またいつでも来るといい。ただ俺も商売だからな、次からは金を取る。でも何かあればいつでも来い。雇ってやってもいいから。……おっと涙が……」


 男が目をおさえ、失礼、と言って店の奥へと引っ込む。それを呆然と見送ったリリアとさくらへ、女が言った。


「ぐす……。がんばってね……」


 女も涙ぐんでいた。さくらは複雑そうな表情を浮かべながらも、今更訂正もできず、何も言わずに頷いた。


「…………。行きましょうか」

「う、うん……」


 気づけば周囲から視線を感じる。リリアとさくらは足早にその場を立ち去った。




 その後は二人そろって無言で歩き続けた。どこかに立ち寄ることもしない。そんな気分にはなれなかった。


「ねえ、リリア」


 やがてさくらが口を開く。振り返ったリリアへと、さくらが言った。


「なんか没落しちゃったんだけど」

「………。ぷっ……」

「今笑った!?」


 気のせいよ、とそっぽを向きながら再び歩き始める。さくらがすぐに隣に並んだ。


「やっぱり笑ってる! リリアひどい! 私、没落したよ!」

「や、やめて……! 笑わせないで……!」

「そんなつもりないよ! なんでこうなったの!? いや、途中で止めなかった私も悪いけどさ! あっという間に没落だよ!」

「ふふ……。そうね。一日で没落したわね。本当に、あっという間に……。くく、くくく……!」

「びっくりだよちくしょう!」


 頬を膨らませて怒るさくら。リリアは笑い出したい衝動に耐えながら、さくらの頭を撫でてやる。さくらは不機嫌そうにしていたが、やがてため息をついて肩を落とした。


「いや、いいけどね……。どうせここでしか使わないし……」

「そうね。気にしなくてもいいでしょう。明日には忘れられるわよ」


 それならいいんだけど、とさくらもようやく笑顔を見せた。紙箱の蓋を開け、饅頭を一つ口に入れる。すぐにだらしのない笑顔になった。


「やっぱり美味しいね……。リリアもどう?」

「そうね。もらいましょう」


 草大福を手に取り、口に入れる。優しい甘さが口に広がり、リリアも笑みを浮かべた。やはりあの店は、リリアの知る饅頭の中では最も美味しい。

 気を取り直した二人は夕方まで食べ歩きを続け、そうして学園へと戻っていった。


   ・・・・・


 後日。二人が南側に訪れると。

「これ! 持って行きな!」

「おお! 食べていけ! 金? いらねえよ!」

「大変だったねえ、がんばるんだよ」

 さくらは没落した貴族の令嬢ということで噂は広まっていた。

「…………」

「…………」

「…………。ぷっ」

「リリアひどい!」


   ・・・・・


 また別の日。その噂を聞いた王や貴族は、


「これは、大丈夫だろうか……」

「ご機嫌を損ねてなければいいが……」


 誰もが胃を痛くしながら頭を抱えていた。


設定を使い始めた日を爵位を得た日とするなら、わずか数時間で没落しました。

がんばれさくら。

ちょっとサブタイトル詐欺気味のような気がします。

サブタイトルを『没落』にしようかと思いましたが、誤解を招きそうだったので……。



書籍化の続報、なのです!

本日、ついに表紙などが公開されました!

アリアンローズ様の公式サイトで見ることがでいます。

是非是非、ご覧くださいませ。

さらに、詳細も追加されました。

一巻目にはとある方のトラウマの理由がおまけ話としてあります。

ご興味がありましたら、是非手に取ってくださいませ。


ではでは!

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― 新着の感想 ―
[一言] 会話が生き生きしてて凄くいいです。 リコリスリコイルのスタッフでアニメ化してくんないかなぁ… さくらを安済知佳さんで…
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