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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
番外編(S)・後日談(A)

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215/259

S2 貴方に捧げます

壁|w・)番外編その2。時期は学園に戻ってから、一度アルディスの屋敷に戻っている、といったところ。

あとがきに書籍化の詳細を記載しております、よー。

 アルディス公爵家の屋敷には、他の部屋とは明らかに趣が異なる部屋がある。その部屋は広いが、しかし家具は少ない。机やいすなどがいくつかとベッドのみだ。この部屋の主は他の物を必要としないためなのだが、あまりに少ないためにここよりも広い部屋であるはずのリリアの部屋よりも広く感じられる。


 この部屋で使われている家具も、他のものとは違い決して高級品というわけではない。部屋の主の意向に従った結果で、男爵家ですらも用意できそうな家具ばかりだ。家具を用意した者たち、この国の王や貴族たちはどれを選んでいいのか分からず、かなり苦労したらしい。


 その机の一つ、窓際に置かれたものには大量の紙が積まれていた。その紙には綺麗な字で文章が書かれている。部屋の主は側のいすに座り、その紙を一枚ずつ読んでいた。

 少し離れた場所にはソファがあり、リリアはそこに座り、その様子を見つめていた。


「いつまで読んでいるのよ」


 部屋の主、さくらに声をかける。さくらは振り返ると、少し考える素振りを見せてから笑顔で言った。


「もう少しで読み終わるよ」

「おかしいわね、それを聞くのは三回目のはずだけど」


 そう言いつつも、それ以上の文句を言うことはせずに静かに待つ。

 さくらが読む紙に書かれているものは、リリアがさくらから教わったことばかりだ。さくらなら知っていることのみのはずなので、特に面白いことなどないはずだ。読む必要はあるのだろうか。


 さくらが読み終わるのを待っていると、唐突にさくらが動きを止めた。何か誤字でもあったのだろうか、とリリアが眉をひそめながら立ち上がる。そうして歩き始めようとしたところで、さくらがこちらへと振り返った。


 さくらは満面の笑顔でこちらを見つめていた。その表情のまま、先ほどまで読んでいたのであろう紙を差し出してくる。リリアは怪訝に思いながらもその紙を受け取った。そしてその文章を読み、瞬時に頬が熱くなった。赤くなった顔を見られないようにリリアはそっぽを向き、すでに必要なくなった紙を捨てに向かう。


「あ、リリア、どこに行くの!? だめ!」


 さくらがリリアから紙を奪おうと走ってくる。リリアがそれを避けると、さくらはそのまま扉の前に陣取った。互いに睨み合いを始めている。


「さくら。そこを通しなさい」


 リリアの言葉に、さくらはすぐに首を振った。


「だめ。その紙を置いていけば、通してあげる」

「できないわね。この紙は捨てるわ」

「せっかく書いたのにもったいないよ」

「必要のない部分でしょう」


 これに書かれている内容は、他の紙に比べると本当に必要のないものだ。他の紙には多くの知識が書かれているのだが、これにはそういったものはない。なぜなら、この紙に書かれている内容は。


「ところで、リリア」


 さくらの声にリリアは思考を中断する。さくらはリリアへと笑顔を向けた。


「もう、覚えちゃった」


 にっこりと。いたずらっぽく笑うさくらに、リリアは一瞬だけ目を見開き、しかしすぐにそれを隠して笑顔を浮かべた。冷や汗が一筋、流れていく。


「へえ……。あの一瞬で覚えたというの? そんなわけが……」

「『この本に』」


 リリアの言葉がぴたりと止まる。リリアが頬を引きつらせ、さくらは楽しそうに続ける。


「『この本に記載されているものは私が友人より教わったものです。私だけの知識とするには惜しい内容も多いため、ここに記します。この国のために役立てていただけることを願います』」


 そこまでは、いい。最初に恥ずかしい内容があったような気もするが、まだ大丈夫だ。だがこの先の内容だけは覚えられてほしくはない。


「『最後に、この本を、私の無二の親友であるさくらに捧げます』」


 さくらの笑みが深くなる。にやにやと、意地の悪い笑顔だ。リリアはその顔から表情を消すと、最寄りのソファに座った。そのままテーブルに突っ伏して顔を隠す。見られないようにするために。


「無二の親友?」


 さくらがリリアの目の前に立つ。声だけで分かる。さくらはとても機嫌良く、嬉しそうに笑っている。顔を上げると満面の笑顔を見ることができるだろうが、今はそれを見たいとは思えない。

 理由は、くだらなく、単純なものだ。


「リリア、顔が真っ赤だよ」

「うるさいわよ……」


 あれはさくらが戻ってくる前に書いたものだ。当然ながらさくらに見られることなど想定していなかった。さくらが戻ってきたことで頭がいっぱいになり、存在そのものを忘れていたほどだ。覚えてさえいれば、さくらに気づかれる前に処分したというのに。


「えへへ。親友だって。嬉しい」

「…………。いっそ殺しなさい……」

「えー……」


 さくらはどこか不満そうだったが、やがて小さくため息をつくような音が聞こえてきた。紙を折りたたむ音が聞こえて、不思議に思い顔を上げる。さくらは先ほどの文章が書かれた紙を丁寧に折り畳むと、自分の机の引き出しにそれをしまいに行った。


「はい。これでもう誰も見れないよ」

「処分してほしいのだけど」

「だめ」


 これ以上は言っても無駄だろう。幸い、さくら以外の目には触れないようにしてくれたのだ。今はそれで納得するべきだろう。リリアはそう自分を納得させて、さくらへと言った。


「まあ、それでいいわ……。誰にも見せないように。誰かに見せたら……」

「見せたら?」

「貴方の口にピーマンを詰め込んであげるわ」

「仕返しが陰湿だよ! わ、分かった。絶対に見せない」


 さくらは一度大きく体を震わせると、顔を俯かせて独り言を言い始めた。リリアは怪訝に思いながらもその様子を見守る。さくらは最後に机を叩くと、よしと頷いた。


「これで大丈夫! もう見れないよ!」

「は? 何かしたの?」

「うん。精霊たちに頼んだ。私かリリア以外が開けたら、容赦せずにやっちゃえって」


 思わずリリアは頬を引きつらせた。それはつまり、殺す、ということにならないだろうか。何もそこまでしなくとも、と思うが、確かにそれなら見られてしまう心配はないだろう。


「これでピーマンは回避できる……!」


 さくらがそう言って何度も頷く。これで問題ない、とばかりに。さすがに、本当にピーマンを食べさせるつもりはなかったのだが、それは黙っていた方がいいだろう。


「さてと、リリア!」


 さくらがリリアの目の前へと移動する。さくらは真剣な表情でリリアを見つめてきた。


「親友?」

「…………」


 リリアは無言で目を逸らす。それでもこちらを見つめてくるさくらにリリアはため息をつき、さくらへと視線を戻した。


「一応、まあ、どちらかといえば、そう、親友だと、いえなくもないわね」

「おお! なんだかはっきりしない答えだけど、喜んじゃう! わーい!」


 抱きついてこようとするさくらを片手で押しとどめ、言う。


「さくら。買い物に行きましょうか。苺大福を買いに行きましょう」

「行く!」


 さくらは勢いよく立ち上がると、馬車をお願いしてくる、と部屋を勢いよく出て行った。どうにかさくらの意識を逸らすことができたらしい。こういう時は、さくらが単純で良かったと思える。

 リリアは安堵の吐息を漏らし、自身も外出の準備をするために自室へと向かった。


リリアもまさか見られることになるとは思わなかったことでしょう……。

実はこれ、逆もあったりします。

それはまたいずれ。




書籍化の詳細情報、なのです!


レーベル:アリアンローズ

発売月 :3月

なお、本編取り下げの予定はありません。


と、いうわけで。アリアンローズ様から書籍化されることになりました。

お手に取って頂けるととても嬉しいですよー。



以上です。ではでは!

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