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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
番外編(S)・後日談(A)

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A1 顔合わせ9

 まずは王からさくらへと自己紹介をしていく。さくらが余計な情報はいらないと最初に言ったので、名前と役職のみだ。王が終わると、次は王子だ。王子も名を名乗り、立場を告げ、そしてよろしくお願いしますと告げたところで、


「うん。でも私は王子様が嫌いだよ」


 その一言で王子が凍り付いた。何故、と言いたげな表情で王子がさくらを凝視する。周囲の者もどこか戸惑っているようだった。


「リリアにひどいことをしたからね。私は忘れないよ?」

「そ、それは……!」

「忘れないよ?」


 笑顔で繰り返すさくらに何かを感じ取ったのだろう、王子は青ざめながらも、頭を下げた。さすがに少し哀れに思えてしまい、リリアはさくらへと言った。


「さくら。そこまで言わなくてもいいでしょう」

「だめ」


 どうやらこの件に関してはさくらも譲るつもりはないらしい。リリアは王子へと首を振ると、王子も諦めたのか小さくため息をつき、さくらへともう一度頭を下げて下がっていった。

 王子のあとはアグニス侯爵家だ。さくらの前に並んだ侯爵夫妻とクリスの表情には、揃って緊張の色が浮かんでいた。侯爵夫妻の自己紹介をさくらは頷きながら聞き、最後のクリスの自己紹介では、


「リリアのお友達、だよね?」

「え? あ、えっと……。そうですね。はい。少なくとも私は友人だと思っています」


 会話をすることになるとは思っていなかったのか、一瞬固まりながらも、クリスはしっかりと頷いた。リリアがそっと顔を逸らし、それを横目で見ていたのかさくらは小さく笑った。


「クリスって呼んでいい?」

「ええ。もちろんです。お好きなようにお呼び下さい」

「うん。よろしくね、クリス」

「こちらこそ、よろしくお願い致します、さくら様」


 クリスが丁寧に頭を下げて、さくらは苦笑しつつも頷いた。




 挨拶を終えた後は、さくらのために残っている料理が温められた。その指示を出した王にさくらは礼を言って、嬉しそうに様々な料理を食べ歩く。一人で回るだろうと思えば、さくらに腕を引かれてリリアも連れ回されることになった。


「新しいものをご用意致しますが……」


 王のその言葉に、さくらは顔をしかめて首を振った。もったいない、と。王は苦笑して、畏まりましたと引き下がった。

 そうして残り物を食べ歩く。飲み物などを用意するメイドたちは、やはり誰もが緊張しているようだった。かわいそうなほどに青くなっている者までいる。さくらはそんな様子など知ったことではないといった様子で、好きなように料理を食べていた。

 どれほどの時間をそうしていただろうか。さくらも満足したのか食器をテーブルに置いたところで、父が言った。


「さくら様。リリアは明日から学園に行かなければなりません。そろそろ戻らなければ……」


 おずおずといった様子の父に、さくらはすぐにそっか、と頷いた。


「ごめんね、リリア。振り回しちゃった」

「今に始まったことではないでしょう。気にしなくていいわよ」

「ん……。ありがと」


 二人で笑っていると、父が咳払いをした。リリアは慌てて父に視線を戻す。父は苦笑しつつも、王へと振り返って言った。


「では、陛下」

「うむ。しっかりと送り届けるように。……と、言うのも少しおかしいな」


 王と父が笑いながら肩をすくめた。




 思っていた以上に疲れていたのか、屋敷に戻った後、ベッドに入るとリリアのまぶたはすぐに重たくなってきた。気持ちよく眠れそうだ、と思ったところで、ふとベッドの側にいるさくらへと視線を向ける。眠る必要はないらしく、さくらはじっとリリアのことを見つめていた。


「気になるのだけど」

「そう? じゃあ私も寝ようかな」

「寝られるの?」

「へ? ああ、うん。食べるのと同じ。必要はないけど、することはできるよ」


 さくらは床に座ると、その場に横になった。リリアが呆れた目を向けると、さくらは片手を振った。


「明日、お父さんにお願いしてみるよ。ベッドが欲しいって」

「そうね。多分だけど、最高級のものを用意してくれるわ」

「うわ、それは嫌だなあ……」

「しかも王家がね」

「もっと嫌だ!」


 さくらと二人、笑い合う。ひとしきり笑ったところで、リリアは体を起こした。


「隣でそうして寝られると私が気になるわ。来なさい」

「へ? いや、でも……」

「私の安眠のためよ」


 リリアがそう言うと、さくらは少し戸惑いながらも、大人しくリリアのベッドに潜り込んだ。リリアも再び横になり、ようやく目を閉じる。今度こそ眠れるだろう。


「さくら。言っておくけど」

「なに?」

「妙なことをしたら、殺すから」

「しないよ! ていうか怖いよ!」


 隣でぎゃあぎゃあ騒ぐさくら。リリアは小さく微笑むと、今度こそ意識を手放した。


   ・・・・・


 リリアが眠ったことを確認して、さくらも目を閉じた。楽しげに口角を持ち上げ、小さく鼻歌を歌い始める。機嫌良く、楽しげに。そして、


「もう少しこの国を堪能したら、計画を始めようかな」


 呟く。嗤う。愉しげに。


「リリアのお婿さん、探してあげないとね」


 その日、リリアは悪夢にうなされたらしいが、きっと偶然だろう。


   ・・・・・


 翌日。アルディス家の馬車に乗り、ティナと共に学園へと向かう。隣にはさくらが座り、窓からの景色を楽しげに眺めている。向かい側に座るのはティナで、未だに少しばかり緊張しているようだ。

 さくらの機嫌はいつも以上に良い。理由は朝食の席だ。さくらは早速父にベッドが欲しいとお願いして、それを受けた父は、


「畏まりました。リリアの部屋の隣をさくら様に提供致しましょう」


 何故そうなる。本気で叫びたくなるが、嬉しそうに笑うさくらを見るとだめだとは言えなかった。

 その後は、さくらと父が二人で何かしらの相談をしていたが、詳しくは知らない。さくらに聞いてみたところ、欲しい家具やどのような部屋にするのかの希望を言っただけだそうだ。それにしては長いような気もしたが、それ以上深くは聞かなかった。


「さくら。もう一度、注意しておくわよ」


 リリアが言うと、さくらが窓からリリアへと視線を移す。こちらをじっと見るさくらへと、リリアが言う。


「今のところ、さくらが大精霊だと知っているのは貴族と一部の者だけ。これ以上増やすようなことはしないわ」

「うん。堅苦しくなるのは嫌だし、それでいいよ」

「そのために、学園では私の中にいなさい。いいわね?」

「あいあいさー」


 さくらも不満はないらしく、この点に関しては信用できるだろう。その代わりに、リリアがさくらの話し相手にならなければならないが、以前の関係に戻るだけだ。問題はない。


「街にお買い物に行く時は、外に出てもいいんだよね?」

「そうね。その時は、以前話した通り、別の国の貴族で私の友人、とするから。いいわね?」

「うん。もちろん」


 楽しみだな、とさくらが機嫌良く笑い、リリアも頬を緩めた。リリアとしても、人目をはばからずさくらと感想を言い合うことができる。それがとても楽しみだ。


「もちろんティナも行こうね」


 さくらがティナへと笑顔を向けると、ティナは嬉しそうに頷いた。


「さくら様さえ良ければ、ご一緒させていただきますね」

「うん。楽しみだ!」


 さくらの笑い声が響く。リリアは肩をすくめて苦笑した。




 寮の前でティナと別れ、リリアは自室にたどり着いた。さくらはすでにリリアの中だ。

 部屋にはすでにアリサが待機しており、紅茶の準備をしてくれていた。リリアがいすに座ると、すぐに紅茶が出される。二つだ。

 ふわり、と現れたさくらが向かい側に座る。早速紅茶を口につけて、相好を崩した。


「美味しい。幸せ」

「光栄です」


 アリサが恭しく頭を下げる。リリアはその二人の様子を眺めながら、自分も紅茶を飲む。戻ってきた、と実感する。

 前回、この部屋を後にした時は、とても静かなものだった。今は逆に、さくらがいるだけで賑やかだと思える。さくらが口を閉じると静かになるが、雰囲気は全く違うものだ。


「さくら」


 リリアが呼ぶと、さくらがリリアへと首を傾げる。リリアは笑顔で言った。


「ありがとう」

「へ? な、なに? どうしたの?」

「別に。言いたくなっただけよ」

「そ、そう? えっと……。どういたしまして?」


 さくらがぎこちない笑顔を浮かべる。今はそれで十分だ。リリアはそれ以上は何も言わず、緩む頬をカップで隠した。


顔合わせ終了です。さくらの計画の結果は、書く機会があれば。


と、いうわけで。一部の後処理を終えて、元の状態に戻りました。

お買い物に行く時以外は基本的にさくらはリリアの中が定位置です。これまで通り、リリアの中からリリアをふりまわ……。けふん。アドバイスします。

その日常も、少しずつ短編で書けたらいいな。



書籍化情報!の情報。

今月末あたりには、詳細をお伝えできるかな、と思います。

お伝えできるようになれば短編を投稿してその後書きにまた書こうと思います、よー。

もうしばらく、お待ちくださいませ……!


ではでは!

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