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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
番外編(S)・後日談(A)

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207/259

A1 顔合わせ2

「さくら様。どうか呼び捨てでお願い致します。大精霊様であるなら、この国では最上位ということになりますので」

「うわ……。聞きたくなかった……」


 さくらが心底嫌そうに顔を歪め、アリサとシンシアが思わずといった様子で噴き出した。すぐに表情を取り繕い、さくらへと向き直った。


「さくら様。先ほど何か言おうとしておられましたが……」

「あ、うん。アリサさん……。あ、はいはい。そんな目で見ないでね。アリサの紅茶を呑んでみたい」

「紅茶、ですか? 畏まりました。すぐにご用意致します」


 アリサが一礼して部屋を出て行く。残されたシンシアは助けを求めるようにリリアを見てきた。先ほどから発言が少ないと思ったが、どうやら本当に緊張しているらしい。


「シンシア。何か菓子を持ってきてもらえる?」


 リリアが命じると、シンシアは安堵の吐息をついてすぐに、畏まりましたと部屋を出て行った。


「むう。私、怖がられてる?」

「自分の今の立場を考えなさい」


 不満そうなさくらの言葉に、リリアは呆れてため息をついた。




 しばらくして、アリサとシンシアが紅茶と菓子を運んできた。その時に、開いた扉の向こう側にティナの姿が一瞬だけ見えたので、シンシアに連れてきてもらう。かなり抵抗していたようだったが、結局はシンシアに連れられてティナも部屋に入ってきた。

 リリアとさくらはいすに座っており、さくらは目の前の紅茶に視線が釘付けになっている。そのさくらの肩を叩き、視線を向けてきたさくらにティナを指差した。

 さくらと目が合ったティナの頬が引きつる。どうやらティナも緊張しているらしい。


「ごめんなさい、その、覗くつもりはなかったんだけど……」


 申し訳なさそうにティナが頭を下げ、リリアは肩をすくめて首を振った。


「気にしなくていいわよ。それより紹介するけど、この子がさくらよ。今は大精霊らしいわ」


 さくらはティナをまじまじと見つめ、ティナが小さく喉を鳴らす。さくらが勢いよく立ち上がり、片手を上げた。


「はろーおはようこんばんは!」


 またそれか、と呆れると同時に、


「へ? あ、挨拶! はろーおはようこんばんは!」


 ティナが繰り返したことに目を丸くしてしまった。さくらを見ると、さくら自身同じ挨拶が返ってくると思っていなかったのだろう、しばらく固まっていたが、すぐに満面の笑顔になった。


「リリア! この子すごくのりがいいよ! いい子だ!」


 さくらの評価にティナが照れたようにはにかむ。リリアはその勢いについていけず、小さくため息をついた。


「冷めるわよ」


 リリアが短く告げると、さくらが慌てたようにいすに座り直す。ティナも、アリサが引いたいすに礼を言いながら座った。

 テーブルに並べられた紅茶にさくらが早速手を伸ばした。一口飲み、少しだけ目を開き、さらに飲み続ける。あっという間に最初の一杯が空になった。


「はあ……。美味しい……」


 さくらが感嘆のため息をつき、リリアは小さく首を傾げる。


「味は知っているでしょう」


 リリアはずっとアリサの紅茶を飲んでいる。感覚を共有していたらしいさくらも味は知っているはずだ。しかしさくらは、小さく首を振って笑った。


「自分の体だと全然違うよ。好きなものを味わって食べられるし」

「私も味わっているつもりなのだけど……」

「うん。そうなんだけどね。やっぱり違うよ」


 食べ方は人それぞれだ。さくらが今まで言っていなかっただけで、さくらにも何かこだわりがあったのかもしれない。リリアにはそれを察することはできなかった。申し訳なく思い小さく項垂れると、さくらが慌てたように言った。


「でもリリアと食べるのも楽しかったよ? 一人で食べるよりは誰かと一緒が一番いいからね」


 励ましのつもりなのだろう。さくらに気を遣わせていることに気づき、リリアは肩をすくめて落ち込みそうな思考を追い出した。


「さくら様は本当にリリアと仲がいいんですね」


 ティナが微笑ましそうにそう言って、さくらが不満げに唇を尖らせる。


「呼び捨てだとだめ?」

「え? あ、えっと……」


 ティナが困ったように眉尻を下げて笑いつつ、リリアへと助けを求めるような視線を向けてくる。リリアは仕方なくさくらへと言った。


「さくら。こればかりは諦めなさい。私は慣れているからいいけれど、他の人からすればさくらは大精霊なのよ」

「むう……。分かってるけど、ちょっと寂しい……。リリアは変わらないでね?」

「変えられないわよ。どう思い出しても悪霊がいいところだもの」

「それはそれでひどいよ!」


 さくらが叫び、リリアはそれを素知らぬ顔で受け流す。それを見たさくらがまた何かを叫び、リリアはやはりそのまま無視。

 途端に騒がしくなった二人を、ティナは嬉しそうに見つめていた。




 夜。屋敷のメイドが夕食の時間を知らせに来るまで、五人はずっとリリアの部屋にいた。そのメイドはさくらを見るなり、頬を引きつらせていた。やはり緊張するものらしい。それどころか、恐怖を覚えているようにも見える。

 ティナ、アリサ、シンシアの三人はこれまでの時間である程度慣れたようだ。それでもやはり、敬称はそのままだったが。


 さくらとティナを連れて、食堂へと向かう。少し後をアリサとシンシアが歩く。リリアの前、先頭は夕食を知らせにきたメイドなのだが、さくらがいるためかずっと顔が強張っている。少しだけ申し訳なく思ってしまう。それはさくらも感じているのか、今の今まで騒がしかったさくらは、急に押し黙ってしまっていた。その気遣いの無言により余計にメイドが怖がっている気もするが、さくらの口を開けさせても改善しないことは分かっているので黙っていることにした。


 食堂にたどり着き、メイドが扉を開ける。そして食堂では、リリアとテオを除くアルディス家が勢揃いしており、横一列に並んでいた。こちらもやはり緊張で顔が強張っている。普段ではあまり見ない家族の姿に、リリアの方が狼狽えてしまった。

 父はさくらの姿を認めると、すぐに頭を下げた。そして父が言葉を発しようとして、先にさくらが片手を上げて叫んだ。


「こんばんは!」


 家族全員が固まってしまう。そんな三人を興味深そうに見つめながら、さくらが続ける。


「初めまして。さくらです。一応大精霊となっていますが、あまり気にしないでください」


 いつもより真面目な口調に少しだけ驚いてしまう。思わずさくらを見ると、いたずらっぽく微笑んでいた。父が真っ先に我に返り、慌てたように言う。


「ケルビン・アルディスと申します。リリアーヌの父であり……」

「あ、知ってます」

「は?」


 軽い調子で言われて、父が怪訝そうに眉をひそめる。さくらは楽しげに笑った。


「少し前まで、リリアに取り憑いていました。なので皆さんのことはよく知っています」


壁|w・)テオは大精霊(笑)の性格が分からないため避難中。


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ではでは。

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