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取り憑かれた公爵令嬢  作者: 龍翠
3学年

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202/259

193



 翌日。教室で答案を受け取り、結果を見て小さくため息をついた。いつも通りの一位。ただ、共に喜んでくれる者がおらず、少しだけ寂しい。


「試験だけ受けて、結果だけ残すか……。どうすれば、勝てる……?」


 王子の呟きが聞こえる。振り返ると、王子が腕を組み難しい顔をして答案を睨み付けていた。リリアは内心で苦笑しつつ、王子へと言う。


「在学中は負けるつもりはありませんよ」


 王子が驚いたように顔を上げ、一瞬だけ嬉しそうな笑顔を見せた。しかしすぐにそれを隠し、憮然とした表情で言った。


「勝ってみせる。次こそは、必ず」

「期待しております」


 そう言って、失礼しますと告げて教室を後にする。教師は何かを言いたそうにしていたが、特に相手をするつもりもない。答え合わせの授業などいても仕方がない。

 満点である以上、文句はないはずだ。

 自然と足取りが軽くなるのを自覚しつつ、リリアは自室へと急いだ。




 自室で簡単に昼食を済ませ、ティナを待つ。アリサとシンシアも、いつでも動けるようにとリリアの側で待機している。時折リリアがカップを動かす音だけが小さく聞こえるだけで、とても静かな時間だ。

 昼食の時間を過ぎてさほど待たずに、扉がノックされた。すぐにアリサが扉へと向かい、訪問者を招き入れる。どこか緊張した面持ちのティナは、リリアを見るとすぐに破顔した。


「元気そうね、ティナ」

「うん……! リリアも元気そうで良かった」


 アリサに案内されて、ティナがリリアの対面に座る。アリサはすぐに紅茶を人数分用意して配り、シンシアは菓子の盛られた皿をテーブルの中央に置いた。

 アリサとシンシアが席に座るのを待ってから、リリアが口を開いた。


「来てくれてありがとう、ティナ」

「こちらこそ、呼んでくれてありがとう」


 ティナが嬉しそうに笑い、リリアはその笑顔を直視できずに視線を逸らした。今まで追い返していたため嫌みの一つぐらいはあるだろうと思っていたのだが、そんな素振りは全くない。純粋にリリアを心配してくれていたらしい。本当に、リリアには過ぎた友人だ。


「貴方たちに、聞いてほしいことがあるの。もちろん、他言無用で」


 リリアが真剣な表情でそう言うと、三人が姿勢を正した。じっとこちらを見つめてくる。その三つの視線をしっかりと受け止めて、リリアは言った。


「貴方たちにだけ、話しておくわ。私の親友のこと。さくらのことを」




 紅茶で喉を潤しながら、リリアは話していく。三年前にさくらの声を初めて聞いた時を含め、彼女に関わる全てのことを。淡々と、客観的に、時に私情を織り交ぜて。全てを話し終えた時には、窓から赤い光が差し込んでいた。


「一年前からリリア様は突然変わられましたが、そういった経緯があったのですね」


 アリサの言葉に、リリアは少しだけ驚いて目を瞠る。正直なところ、まず信じてもらえないと思っていた。少なくとも、自分なら信じない。だが三人ともに、リリアを馬鹿にするような視線をしておらず、こちらを気遣わしげに見つめていた。


「信じます。リリア様を疑うなどあり得ません」


 シンシアの言葉にリリアは苦笑する。少しだけ信頼が重たい気もするが、悪くはない。


「その子がいなかったら、私はリリアと友達になれなかったんだね。感謝しないと。できれば、直接言いたいけど……」


 確かにさくらがいなければ、ティナと友人になろうとは思わなかっただろう。リリアが頷くと、ティナが不安そうにこちらを見つめてきた。


「ねえ、リリア。その、本当は嫌だった、とか、思ってたりする? 私と友達になったの」


 その問いに、リリアは呆れてしまい、半眼でティナを見た。


「あの時はともかく、今は思ってないわよ。でないと、今ここに呼んでいないわ。貴方が友人で良かったとすら思っているから」


「本当? 良かった」


 ティナが安堵のため息をついた。それほど不安に思うことでもないだろうに。そう思うが、悪い気は、しない。


「私は正直、今までさくらに頼ってばかりだったわ。だから、色々と不安なことも多いのよ。アリサ。シンシア。私を支えてくれる? 間違いだと思うことがあれば、止めてくれる?」

「はい。お任せ下さい」


 二人が恭しく一礼して、リリアは内心で安堵する。この二人に協力してもらえるなら、とても心強い。


「リリア。私は?」

「ティナには、相談に乗ってほしいわね。アリサとシンシアは決して対等な立場にはなってくれないから。お願いできる?」

「うん。何でも言って。助言とかは難しいかもしれないけど」


 さすがにそこまでは期待していない。ただ、リリアを知る一人として、相談に乗ってほしいだけだ。ティナもそれが分かっているのだろう、その表情はどこか嬉しそうだった。

 さくらのことを話すかどうか。ずっと悩んでいたことだ。信じてもらえるかどうか分からなかったし、軽蔑されるかもしれないと思っていた。だが、こうして信じてもらうことができ、支えてくれると言ってくれる。それがとても、嬉しく、心強い。


「リリアはこれからどうするの?」


 ティナの問いに、リリアは少し考え、答える。


「私は、魔導師としてこの国に尽くすわよ。あの子は、さくらは消えるだろうと言っていたけれど、実際のところは分からないし。あの子が戻ってきた時に恥ずかしくないように、胸を張って会えるように、私は私のできることをする」


 きっかけはどうであれ、さくらはリリアを助けてくれた。リリアのために心を砕き、そしてリリアの体を奪わずに、この先もリリアに譲ってくれた。だからこそ、自分は彼女に笑われないように、恥ずかしくないように生きていこう。それが、この一ヶ月で出した結論だ。

 リリアの宣言に、三人は嬉しそうに頬を緩めた。どうやら本当に、とても心配してくれていたらしい。心苦しくもあるが、嬉しくもある。少しだけ複雑な心境だ。


「リリア。本当に、何でも相談してね。私はそのさくらさんほど頼れないかもしれないけど、一緒に考えることはできるから」


 ティナの言葉に、リリアは頷き、微笑んだ。


「ええ。よろしくね」


 この三人の関係も、さくらが与えてくれたようなものだ。この繋がりを大切にして、リリアには本来なかったはずのこの先も生きていこう。


 ――さくら。見ていなさい。皆と一緒に、ちゃんと生きていくから。


 心の中でさくらの笑顔を思い浮かべ、静かに誓った。


壁|w・)これが最終話でいいんじゃないかな。

エピローグは明日更新します。


誤字脱字の報告、感想などいただければ嬉しいです。

ではでは。

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